就労対策に関する要望書
大阪府知事  太田 房江 様
2005年12月13日
釜ヶ崎就労・生活保障制度の実現をめざす連絡会
 共同代表  山田 実
          本田 哲郎
 
就労対策に関連して、以下のことを要望する。
 
【要望事項】
 
1,国に対して、雇用創出のための対策予算の確保を強く働きかけられたい。
 
2,特別就労事業の創設を、引き続き国に要望されたい。
 
3,現行の「特別就労事業」の拡大、拡充をはかられたい。
 野宿対策の要は、やはり、就労による収入(生活費)を得ることだろう。しかし、これだけ、野宿者に対する根強い社会的な差別偏見があると、自己努力だけではなかなか就労機会が得られない現状にある。野宿を余儀なくされる人の緊急避難的な就労対策は、まだまだ公的(=社会的)なものでやらざるをえない。
 「特別就労事業」の就労数が絶対的に不足している。現在、府で100人、市で115人が確保されている。その上に、ホームレス就業支援センター運営協議会で民間から寄付されている14人が増員となって、全体で229人になっている。しかし、これでは不充分なことは前述のとおりである。民間の努力に応じ、行政も、もっと増枠して、より実効性の高い施策とすべきである。
 現在、輪番登録者数2784人、したがって、月に2〜3回(年平均)の割合でしか輪番が回ってこない。後は、アルミ缶などの廃品回収でかろうじて生計費を得なければならない状態であるが、そのアルミ缶ですら先細りになっている。これでは、生活の維持どころか、つまるところ、生命の危機さえ生じかねない状況である。特別就労事業枠の拡充をはかってもらわねばならない。
 民間の努力による就労数の拡大がのぞめない間は、行政が責任をもって就労の確保に努める必要があろう。また、充分な就労数が確保されない段階において、安易な形で民間の努力などを相殺するようなことがあってはならない。
 
4,就業支援センターを軸にした就労開拓で、55才に至らない労働者の就労 機会確保も充分にはかられたい。
 
5,就業支援センターに登録した労働者が、実務に就くことができるまでの待 機期間中に、少しでも収入が得られるようなしくみが必要と思われる。職能、 技能の見極め、労働生活習慣 獲得のための訓練事業を作られたい。
 
6,就業支援センターでの自前の仕事作りの実践に対しても、支援されたい。
 
7,公益性のある社会的事業の内容で、新しい就労事業を創設されたい。
 これまで、野宿生活者の就労事業として、地域の清掃、草刈りなどが中心に出されてきた。これからは、自然との調和、あるいは、サービス関連分野のような、より社会性、公益性をもった事業などで雇用を生み出す必要がある。それによって、社会貢献、労働の達成感が深まる。 例としては、森林・里山活用保全事業、リサイクル事業、環境保全・緑化事業、サービ ス関連事業など
 
8,訓練センターを作られたい。
  現在、野宿生活者の中には、長く寄せ場で日雇い労働をやってきた高齢労働者もいれば、企業のリストラなどで、寄せ場を経ずに野宿に至った人、さらには、いわゆるニート層なども含まれる。こうした、若年から中年、高齢者に至る野宿生活者の就労は、それぞれ、体力、能力、もっている技能などに応じて、様々な就労形態を提供できることが望ましい。 たとえば、@高齢者向きの軽作業 A元気な人向けで、あまり技能のいらない仕事 B元気な人向けで、技能が要求される仕事などによって、就労先が違ってくる。そして、それぞれが、就労に向けて、技能訓練、能力開発などができればいい。
 そのためには、その目的、機能を遂行できるだけの規模の「訓練センター」が必要である。そこでは、職場常識・慣習の学習から始まって、ニーズの多い職種での技能訓練、そして、企業・商店などでの現場実習なども、幅広く実施できればいい。
 こうした訓練センターは、野宿生活者の「就労自立」に大きな役割を果たすことは、十分考えられるので、必ずや実現を望みたい。
 
9,生活保護を活用しながら再就職の道を探る野宿労働者対象の就労開拓とサ ポートをはかられたい。
 半就労半福祉の考え方であり、その適用は、野宿生活者の「就労自立」の一環として、重要な課題である。
 生活保護の中には、「自立の助長」という考え方も盛り込まれている。現に、「自立支援プログラム」の取り組みが強化され、被保護者が稼働能力の活用をはかるきめ細かな対応がされようとしている。したがって、この施策を前提とし、困窮の事実にのみ要否判定の根拠を求め、稼働能力の活用については、保護決定後の就労指導、自立支援プログラムの適用において問われることとされるべきである。60才以下の、働く意欲、体力のある労働者に対しても、積極的に、「自立支援」としての生活保護を適用し、野宿労働者の再就職、生活の再建、社会参加などをはかってもらう体制を作っていくべきである。
 半就労半福祉の考えに基づいた生活保護の適用では、仕事を積極的に見つけて就労する、もしくは、ハローワークへの求職活動などの「就労努力」が必ず伴ってくる。その「就労努力」をしっかりやりきる労働者もいれば、福祉センターから再三の指導を受けながら、打ち切られている労働者もいる。問題は、こうして、打ち切られていく方の労働者に対しての、就労面および精神面を含めての支援体制を作る必要がある。
  困窮の事実は認めながら、稼働能力の活用不充分を理由とした申請却下を不適当であると明記した文章を、市保護課から、区支援運営課宛てに出されたい。
 
10,白手帳持ちが減っている現状についてどう考えているのか?
 あいりん職安の有効手帳数が減少を続けている。その原因をどのように(仕事の減少、ヤミ印紙の摘発効果、印紙を貼る業者の減少etc)考えているのか明らかにされたい。その上で、釜ヶ崎の情況に対する影響予測と行政判断を明らかにされたい。
 
11,社会医療センターの締め付け、労働者の健康問題についてどう考えているのか?
 社会医療センター受付窓口の対応の変化により、受診しがたい思いを抱く野宿生活者が出ている。無理な取り立てではなく、強制力を持たない注意喚起とはいえ、弱者にとっては強く響くものであることに配慮し、医療センターを指導されたい。
 
12,民間のボランティア団体が行った「野宿生活者支援統一行動」について、 行政としてどう評価し、どうサポートしていくのか?
 民間団体による健康問題を中心とした支援活動が、拡がりを見せている。これは従来の定住型野宿生活者対策を重視する行政のあり方に見直しを迫るものであると考える。自立支援センター入所にほぼ絞られる「巡回相談」のあり方についてもそうである。
 民間の新たな活動に対する行政の評価、行政による従来の支援策の検討について、明らかにされたい。 
 
13,釜ヶ崎の二つの夜間シェルターについて、いつまで臨時的な施策として やるつもりなのか?
 「あいりん緊急臨時夜間避難所」は、臨時・緊急的措置であるはずのものが、今宮宿所においては来年3月で丸6年となり、いまだ利用者激減による廃止という目処が立っていない状況にある。現状では存続はやむを得ないとしても、夜間宿所利用者減少に結びつく施策を展開(たとえば、夜間福祉相談員の常駐、他の一般的居所を確保しての入居勧奨)し、早期廃止をめざすべきであると考える。廃止できる条件、施策について明らかにされたい。
 
14,「自立支援法」にもとづく「基本方針」「実施計画」の見直し
 2002年8月に施行された「自立支援法」は、法附則第3条において、法の施行後5年を目途として、その施行の状況等を勘案して検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられることになっている。2007年8月が施行後満5年となり、見直しの時期が迫ってきているといえる。
 大阪府・市の実施計画策定は2004年であり、府市ともに実施計画に基づいた対策は始まったばかり、ということもできると思うが、実施計画の5年を終えた後で総括を出しても、法の見直しに間に合わないことは明らかである。
 2005年10月実施の国勢調査速報値により、野宿生活者の推定値をさぐり、2005年度終了後に野宿生活者対策の中間総括をとりまとめ、国並びに立法府に対して、法の見直しについて提言されたい。なお、中間総括とりまとめに当たっては、民間NPOや研究者の意見を聴取し、反映されたい。