〜トラブル頻発!地の果て知床〜

8月22日〜24日(紋別郡興部町ー標津郡中標津町)


海へ直接流れ落ちる「オシンコシンの滝」


8月22日(火)晴れ時々曇り

 午前9時、いつもより遅い目覚め。 早出組は準備を終え出発。一人また一人と思い思いに再びこの大地に駆け出して行く。僕も外に出て一人一人見送る。こいゆう旅にはつきものだがやはり別れの瞬間は寂しい。さあおれもボチボチというところでいきなり雨が落ちてきた。仕方なくカッパを着て出発することに。残りのメンバーに大きく手を振り、勢い良く飛び出す。そして雨が降り頻る大地に一人、また旅を続ける。ここ東海岸に出てから すれ違うライダーが増えたので孤独感は幾分減少する。やがて雨が止み目の前に大きな虹が架かりその虹に向かってつきすすむ。紋別、湧別と過ぎ、サロマ湖を目指す ことに 。

 サロマ湖は日本第二位の面積を誇る湖で一部海と繋がっている。とりあえずその開口部にに行ってみることにする。泥臭い湖の香り漂う松林の中をひた走る。やがて右からはサロマ湖、左からはオホーツク海が迫る。そして道が途絶えた所でバイクを停める。波高い海と比べると湖面はあくまで穏やか。その上をシマエビ漁の帆掛船が滑るように進んでゆく。もうここまで南に下るとポカポカと暖かく眠気を誘う。しばらく砂の上で 銀マットを敷いて昼寝をすることに。本当にこの旅には時間という要素は全く関係ない。 食べたくなったら食べ、眠くなったら寝て、走りたくなったら走ればいいのだ。

 やがて 目が覚めるとまた南を目指して走りだす。しばらく走るとコレダのスピードが乗らない。そしていつものようにリザーブを引いて予備燃料をONにしようとしたとき、体が凍り付いた。何ともうとっくにリザーブが開いてたのだ。つまりとうとうガス欠してもーたのだ。そして ゆるゆると路肩に止まる。昨日の寒さで無意識的にコックを引いてしまっていたのか、自分では 全く覚えていない。周りを見渡しても人里離れた松林の中だ。まずは深呼吸。シグの 予備燃料 ボトルもこうゆう時に限ってカラッポ。しかし幸運にもストーブに少しガソリンが残っていた。大事に大事にタンクに入れ、再び走り出すことが出来たがガソリンスタンドはまだ遥か遠く。少しでも走行抵抗を少なくするためにレーサーのように体を屈めて前傾姿勢で走る。少しでも下り斜面にさしかかるとクラッチを切って惰性で行く。しかし努力も空しくコレダは一面ひろがる牧草地の真ん中で静かに走るのをやめた・・・。

 もちろんスタンドはまだ遥か先。ライダーはおろか、人すら見当たらない。どうしようもなく道端にすわりこむ。ふとすぐ横にいた牛たちと目が合うと、急に元気が出てきた。どうせもともと計画なんてない旅。まあここ北海道に来たのだから、 この大地を自分の足で歩いてみるのいいだろう。上着を脱ぎ捨て シャツ一枚にな る。そして 空に続くまきば道を押して登って ゆく。丘を越えるたびに地面にへたりこんで休んではまた水をかぶって気合いをいれ直してまた出発する。ライダーというのは総じて足腰が弱いもんで本当にしんどい。そしてやっとの思いで国道に出たものの交通量は少ないし起伏が激しい。しばらく道端で道を行く車に灯油ポンプを振って助けを求めたが、一向に止まってくれない。仕方なくまた押して歩き始める。ここ一番の陽気で暑くて目まいがする。

 そして押すこと二時間あまり、丘の向こうにホクレンのマークが現れた。結局10kmあまり押して歩くはめとなった。息を切らしながらレギュラー満タンをオーダーする。そして水をかぶって地面にへたっていると一台見覚えのあるSRが止まった。今日遅れて興部を遅れて出て来た入船が追いついたのだ。しばらく話してまたの再開を誓い、また前に送りだす。そして俺もサロマ湖岸を身南へ。途中ちょっと奮発して高級旅館の温泉に立ち寄ることにする。真っ昼間でもちろん客は俺一人だけ。穏やかな湖面を眺めながら誰もいない露天風呂につかり、旅の疲れを癒す。北海道ではあっちこっちに温泉が涌いているので風呂に不自由することはまずない。しかも疲れを取るのは温泉がイチバンである。


サロマ湖はあくまで穏やかだ

 2日ぶりの温泉を満喫し再び走り出す。少し小腹が減ったので漁港のひなびた食堂でホタテの浜焼と特盛りのホタテ丼を食う。サービス精神旺盛な食堂のおっさんはホタテの漁師でおもしろい話をいっぱい聞くことができた。

 そしてサロマ湖と別れ、再び牧草地をひたはしる。珊瑚草で知られる能取湖を過ぎるとバイクは網走市に入る。今日はここで宿泊することにする。まだ日が高いのでとりあえずライダー達の間で「つまらない」と悪名高い、網走監獄に向かう。駐車場に入ると大阪の池田から来たというスクーター野郎が声をかけて来た。そして彼と一緒に廻ることに。いざ行ってみると入場料はすごく高いしウワサ通り展示もイマイチだった。まだ先を目指すスクーター野郎と別れ、キャンプ地である「道立てんとらんど」に向かう。料金は高めだが携帯も電池がやばいしタダの洗濯機もあるそうなのでそこに決める。キャンプサイトは天都山という山の中腹にに位置し、オホーツク海沿いに広がる網走の町の夜景が一望できる。隣にテントを張っていたチャリダーのおっさんと晩飯を分け合いながら旅の話で盛り上がる。そして明日はずっと海沿いを走って来たこの旅始まって以来の難所、知床越えだ。しかも今日は予定外の重労働もこなした。さっさと用事をすませ、寝袋に潜り込む。

本日の走行距離

183km

今日の家計簿
項目 品名 価格
入浴 旅館「緑館」露天風呂 800円
生命維持 150円
昼飯 ホタテ丼
ホタテ浜焼
1000円
夕飯 おにぎり*2
焼きそば
袋めん
890円
給油 レギュラー5.62L 631円
キャンプ 道立てんとらんどキャンプ場 1000円
観光 網走監獄博物館+記念スッテッカー 1100円
合計 *

8月23日(水)晴れ

 テントを開けると久々に快晴だ。テントの張った高台からは蒼蒼としたオホーツク海に沈み込む知床連山が一望できる。一気に鼓動が高鳴る。そう今日は泣く子も黙るまさに最果て、知床に踏み入るのだ。昨日も良く眠れた、体調も万全。自身気合いを入れ直す。またラーメンをかきこみ、さっさと撤収。エンジンも一発始動、「今日も頼んだぞ」と一気に坂を下り、網走港へ。

 まだ朝が早いし、釣りをすることに。漁港の片隅で糸を垂らすこと15分でなかなかいい形のソイとカジカが上がった。すぐに醤油で煮付けて召し上がる。久々の良質タンパク補給に成功する。

 そして再びオホーツク海を東へ。このあたりの海岸は流氷で有名らしく、もちろん今の季節はは見る影もないが毎年冬になるとはるかアムール川から海を越えてやってくるらしい。これもやがては温暖化がらみで姿を消してしまうらしい。しばらく走ると実に懐かしい(と言っても二年ぶりだが)景色が広がる。高校の修学旅行で訪れた小清水原生花園だ。実は北海道に来る前からここでやることは決めていた。それは噴かしイモを食うことだ。思い起こせば二年前、ここを訪れた時、僕は体調を崩していたのだが他の友達みんな実にうまそうにほかほかのいもをほおばっていた。体調の悪いぼくは食えなかったが、湯気の上がるあのうまそなイモはずっとぼくの目に焼きついていたというわけだ。かなり執念深いがこの執念がなければこれまで旅を続けてこなっかっただろう。そして花園の方だが今年も花なんぞ一輪も咲いていない。ただ一面の草っぱらが広がっている。そして二年前はいまにも崩れそうなバラックだったが新築改装なったみやげやに向かう。そしてふかしいもとソフトクリームを購入し二年ぶりの夢を実現した。

 感動覚めやらぬまま再びバイクを東へ転がす。そして斜里町にさしかかったあたりで昨日と同様またスピードが乗らない。しかしガソリンはまだあるはずでもしガス欠ならばすぐに止まるはずだがスピードは遅いが走り続けている。しかししばらくすると今度はハンドルが左右に振れ始めた。そして後続車がクラクションを鳴らして来た。僕ははっとしておそるおそる後輪を覗き込むとまた背中が凍り付いた。タイヤがペチャンコ、正真正銘のパンクである。タイヤウェルドは一応持って来ているがバーストや裂け傷だったら非常にマズイ。絶望感のなかゆるゆると路肩にバイクを止めた。そして途方に暮れながら周りを見回すとすぐ横に「BRIDGESTONE」の看板が目に飛び込んで来た。一瞬この目を疑ったが確かに「斜里タイヤ商会」とかいてある。まさかここ北海道でパンクした地点にタイヤ屋があるとは!今回はツイている、というより北海道での運をすべてここで使い果たしたようなツキ方である。ともあれ助かった。すぐさまバイクを持ち込んだが従業員(といっても家族でやっている素朴なタイヤ屋だが)は今は手が放せないらしい。すると奥からご隠居が現れ、どうも彼が修理をやってくれるらしい。工具を出しながら「バイクのパンク修理は何年ぶりじゃろ、若い頃はよくやったもんじゃがのう」と自慢げに豪語しているではないか。かなり不安になりつつ作業を眺めていると俺のバイクはみるみるうちにばらばらにされてゆく。あーでもないこーでもないとガチャガチャやっているのでおれも座り込んで手伝うことにした。旅の話などしながら30分くらいしてようやくタイヤがはずれた。どうやら以前にパンクして張りつけたパッチが連日の長距離走行の熱によりのりがとけ、はがれてしまったらしい。これからも長い旅を続けるんだろということで焼き付けしてくれた。そしてまた二人で組み直して、エアを注入。するとじいさんはなにやら慌ててエアの機械をガチャガチャやり始めたではないか。どんどんエアが入ってくる。まさかと思い俺はすぐにそのホースを引っこ抜いた。破裂寸前であった。このじいさん最後までやってくれるではないか。どうもエアの止め方を忘れってしまっていたらしい。そしてようやく組み上がって出発する。工賃は500円と格安にしてもらった。そして最後は家族総出で見送ってくれた。こっちも大きく手を振ってこたえる。そしてまた知床を目指し走り出す。

 町を出てしだいに右手から知床連山がはっきりと見えてくると道もアップダウンが激しくなる。やがて一台のバイクがバックミラーに映ったので、いつものようにサインを送り返そうとすると「縁があるのー」と聞き覚えのある博多弁で並走してくる。なんとまた入船であった。どうも彼は朝出るのがかなり遅いらしく、毎日僕が朝早く先行してはスピードの速い彼が追いついてしまうのだ。まあ北海道は目指す方向が同じならば一本道なので会う確率は高いのだが。とりあえず二人ともバイクを止めまたいろいろと話してそんで記念撮影。そして「おまえとは縁があるけん、またどっかで会うやろ」と冗談をいいながらまた知床目指して消えて行った。


入船との再会(斜里町にて)

 そして僕もまた出発してゆく。そしてやがて国道は海に沈み込む知床半島の海岸線を縫う様になる。左手は崖になっていてオホーツク海が180度みわたせ、右手には急峻な知床連山がまるで壁の様にそそり立つ。やがて知床名所のひとつ「オシンコシンの滝」に着く。この滝は急な山々から落ちて来た滝がそのまま海に落ちてゆくという珍しい滝だ。ここで久々に原チャリ野郎がいたので声をかける。みると京都ナンバーでまた関西のひとだ。それにしても大丈夫かと思ってしまうオンボロのビジネスバイクに荷物を満載している。彼いわく、そもそもツーリングというもの自体はじめての経験でなんとなく北海道を走りたい気分になっておやじのバイクを借りてきたらしい。始めはトラブルに泣かされつつもあきらめずに何とか乗り越えてここまで走ってきて、今ではもう余裕だそうだ。それにしてもここは蜂が多い。なんか僕の荷物のホームコンテナを巣箱と勘違いしているのか、ぶんぶん集まってくる。たまらずさっさと出発する。そして彼と北海道に来て初めて、原チャリで編隊を組んで走ることになった。どこまでも続きそうな崖の上の道を走る。やがて小さな町が見え隠れし、二台の原チャリは最果ての町、ウトロに滑り込んだ。そして彼は先を急ぐということで一人知床峠に上って行った。僕は漁港の防波堤に乗り入れ、しばらく休憩する。最果てとはいえ漁港には結構おおきな漁船があってかなり賑っている町である。ここの港からはこの先道がなくて行くことのできない知床岬への観光船が発着していて、結構観光客も多い。

 そしてここからは行き止まりなので山に入り、知床半島の向こう側の羅臼に向かう。左手には美しい羅臼岳を望みながら、急坂路を上ってゆく。想像していたよりも勾配は緩やかだが、それでもこの荷物を積んでいると10km/h位まで落ち込んでエンジンがうなりを上げる。後ろをふり返るとオホーツク海が遠くまで見渡せる。やがて知床峠に近付くと上のほうから道を霧というかまさに雲がまるで煙の様にこちらがわに流れ込んできた。そしてハンドルにしがみつく様にその雲につっこむとその中は視界ゼロの世界。かすかに見えるガードレールを目印にさらに上を目指す。やがて視界が回復し見返り峠に到着した。


知床半島「見返り峠」に

 ウトロ側とは対照的に羅臼方面は一面の雲海が広がっている。まさに天気の変わり目の峠だ。そして今度は一転して下り、雲海へと下りてゆく。また雲の中に入ると視界はゼロ。景色なんぞまったく見えない。かなり疲れる時間が過ぎる。やがて雲から抜け出すと、一転して曇り空となる。(あの雲海の下に下りた)そして先のほうに海が見え、羅臼の町に到着した。海の向こうには北方領土の国後島も間近に見える。そろそろ寝床も捜さなければと道の駅で佇んでいると視界を見覚えのある奴が横切った。またあの入船だったのだ!!彼はもうテントを張って、買い出しの途中で道に迷ってうろついていてまたしても俺の前に現れたのだ。

 ともあれ彼のキャンプを張った国立羅臼キャンプ場へ。こぢんまりとしたサイトには無料ということもあってかすでに多くのテントが張られていた。そしてテントを張り僕は晩飯を釣りにふもとの羅臼漁港へ向かうものの痛恨のノーフィッシュ。仕方なくチキンラーメンを買って帰る。このラーメン生活はいつになったら終わるのだろう...。そしてキャンプ地に戻るとおばちゃんがやってきて、この辺りでしか獲れないという「タコイカ」というなにやら巨大なイカを3ハイも差し入れてくれた。深々とお礼をしテントに戻ると、さらに仲間が増えていた。 貰ったタコイカで気の合ったライダー達と火を囲みまた夜がふけて行く。そしてその面子でキャンプ場下の天然露天風呂「熊の湯」にむかう。谷あいに作られた露天風呂であるがとなりに脱衣場の掘建て小屋があるだけでふきっさらしで野趣満点である。風呂は宗谷いらい久しぶりなので早速入ってみるものの湯温がめちゃめちゃ高い。思わず飛び出し気を取り直して再入浴するものの5分ともたない。ちょうど雨が落ちてきたので、あえなくサイトに退散、そのままオネムとなる。


羅臼岳

本日の走行距離

132km

今日の家計簿
項目 品名 価格
朝飯 ソフトクリーム
ふかしいも
350円
パンク修理 斜里タイヤ商会 500円
昼飯 納豆巻き
おにぎり
357円
夕飯 タマゴサンド
袋めん*2
ナポリン(北海道限定飲料)
発泡酒
582円
給油 レギュラー3.0L 312円
合計 *

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Y.K