1KT系エンジンチューニング考察

1、1KT系エンジン搭載車種

1KT系エンジン搭載車種として、TZR250('86〜'88)、TDR250、R1−Zがあります。この内'88TZR250 のみが補助排気ポート付きメッキシリンダー+大型リードバルブ(8枚)の組み合わせとなっています(他は排気 ワンポート&鉄スリーブ、6枚リードバルブ)。

2、各車インプレッション

あくまでも私の独断インプレであり、試乗車両が完全整備済でない事を御断りしておきます。速い順に並べると '88TZR>'86TZR>R1−Z=TDRというところです。まず、キャブ口径が'86〜'88TZR,TDRが28mmな のに対して、R1−Zは26mmと言う点で違います。'88と'86のTZR同士の差はシリンダーとリードバルブの 違いでしょう。マフラーに関して、'88はエキパイ内部を絞って(パイプを溶接)性能ダウンさせています。10000 回転以上のトルクは'86が勝っているように思われるので、最高速は'86が上かも知れません。R1−Zに関し てはギヤレシオ、ファイナルもTZRとは違って実用域の加速アップを狙ってます。最も電気特性で性能を抑えて いると思われるのも特徴です。車体インプレの感想は「ブレーキはまあまあ効く」 「Fフォークの沈み込みが早く て、体勢を整えていないとフルブレーキング出来ない」と言うのが印象に残っています。TDRのインプレとしては エンジンより車体が印象に残ってます。とにかく車勢変化が激しく、体勢を整えていないとブレーキ掛けられない し、アクセルも開けられません。まあ、ジャジャ馬と言えばそうなんでしょうが、乗っていて楽しいモノでは無かったですね。R1−Zと同じく電気特性でパワーを抑えていると思われます。

参考までに2スト250で乗った事のあるバイク(ノーマル)のインプレも書いておきます。

'89TZR250   エンジンは廻るが、トルク感は無い。排気音がうるさい。ポジションが街乗りではシンドイ。

'90NSR250R  エンジンは速い!廻るしトルクもある。壊れ難い。バックミラーは全然見えない。曲がり方はヤマハとは違う。機械としての完成度が高い。ポジションが街乗りではシンドイ。

3、'86〜'88TZR250 SP250 F−Vチューニング(RC SUGOデータ)について

〜'87と'88では作り方、考え方がかなり変わっています。

SP250  

〜'87まではノーマルと同じパワーバンド(〜10500rpm)でトルクを稼ぐ方法を取っていました。'88からは パワーバンドを上に移して12000rpm付近まで使えるようにしています。但し、絶対トルク値が上がったかどう か?不明です。

F−V  

〜'87 までは基本的にTZ250のデータ(ポートタイミング、チャンバーなど)で作られているようです。高回転 重視で作られており、あまり中速トルクはありません。個人的には排気ポートのタイミングが早すぎるように思 います。又、ノーマルと同様にF−V初期型ピストンも耐久性に乏しく、初期設定の2次圧縮が高すぎた(開発時とは使用ガソリンが違った?)事もあって、良く壊れたようです。

'88F−Vはポートタイミングはノーマルで、排気出口を楕円に拡大するくらいの加工にとどまり、チャンバー も併せて仕様変更しています。2次圧縮の上げ方も(ポートタイミングを考慮しても)極端ではありません。

RC SUGOのデータを表にしてみると・・・

   
'87
'88
排気ポートタイミング         
23,5mm
STD(24,9mm)
排気ポート幅
41mm
STD(39mm)
排気ポート形状   
上部はなるべく大きなR推奨       
STD
排気ポート出口径
37mm
横のみ37mm(楕円形に加工)
掃気ポートタイミング
39mm
STD(40mm)
シリンダーヘッド容積
11,4cc(後に変更)
13,8cc(G/Kは'87を使用)
チャンバー
'86TZ250がベース
'88TZR専用設計

少し付け加えると、ポートの面取りが多い為か?ノーマルのポートタイミングは実際と違うように思います。又、'88F−Vヘッドは、ノーマルを0,3mmくらい面研したモノと推察されます。

上記SUGOデータは、少なくとも無鉛ハイオク仕様では無いと考えられます。特に初期の2次圧縮データは、最低限、アブGASを使わないと厳しいのでは?と思われます。

まとめてみると、'88TZR250はSP250とF−Vの差が少ないと言えます。残念ながらレースシェアで圧倒的 にNSR が優位になったのが'88年です。TZRはNSRほど割切 ってレース開発しなかったのがその要因でし ょう。その後、F−Vが消滅し、SP250へ移行しますがNSR優位は'92年まで続く事となります。

4、パワーアップに対応して、やっておくべき事

発生熱量増加に対応する為に、大型ラジエター(もちろんサーモスタットは除去)と水温管理を確実にする為の 水温計装着(ノーマル水温計だと水温が分かり難い為)、エンジンマウントカラーも装着すべきです。パワーアッ プに取り掛かる前提として、ノーマルベストの状態にするのは当然で、その後のメンテやセッティングもノーマル 以上の手間を必要とします。R1−ZとTDRの場合、CDIはYEC(ミハラスペシャリティ同品)か'88TZR250が ベター。プラグもNGK・EGVタイプ以上のグレードに換装、クラッチとブレーキの強化もしておいた方が良いです ね。

5、チャンバーの選び方(主に取り廻しについて)

2ストにとって、とても大事なチャンバーですが、どのような物を選んだら良いのか?簡単に、触れておきます。性能については、 見た目では分かりません(あまりに悪いモノは見た目で分かります。例えばエキパイが只のパイプとか、テーパーが変テコリンな 角度だとか、極端に長い、又は短い等・・・)。考え方としては、某4スト・コンストラクターの人も同じ事を言ってましたが、 「そのエンジンに合った、トルクの出る回転域」というモノが存在し、その回転域の中心でトルクが出る様にすれば、ピークトルク が高く、素直な特性に成り易い傾向にあります。そんな考え方で作られたチャンバーを選べば良いでしょう。取り廻しについて、 TZR250は並列ツインなので、バンク角の確保に苦労する事になります。膨張室が車体に対して平行にレイアウトされ、 且つ上&中央に追い込まれたモノを選びましょう。ノーマルマフラーは、先の条件を満たしつつ、更に異形断面を採用(性能的には、 真円が望ましい)してまで、バンク角の確保に努めています。レース用チャンバーなら、当たり前の条件(街乗りでも、バンク 角が浅いよりは、深く取れてる方が良いに決まってます)なんですが、残念ながら、多くの市販チャンバーは、そこまで気を 使っていない事が多いです。クロスチャンバーにしても、(一番太い膨張室を前後にズラす事により)バンク角を稼ぐ為に採用 しているハズが、形だけクロスさせているだけのモノも存在します。大体において安いチャンバーは、性能面も含めて、考慮が 足りません。エキパイも、只のパイプを曲げたもの(性能面でも不利。ノーマルマフラーでも、テーパー状になってます)が 引っ張りの手前まで続き、「引っ張り」「膨張室」「絞り」も全てワンピース構成、テールパイプもストレートで、コスト ダウンを図っているのが分かります。こういうモノはオススメ出来ません。バンク角を確保する為だけでも、チャンバーを 車体中央に追い込み(チャンバーが2本なので、レイアウト精度も要求されます)、場合によっては干渉部を凹まし、 膨張室か絞り部を外に振る為に曲げないといけないし、(必要無い場合もありますが)ソレに伴ってテールパイプも曲げないと いけません。以上の理由で(性能面を抜きにしても)作るコストが余計に掛かってしまいます(当然、その分値段も上がります) 。以上を認識してもらった上で、良い物を選んでもらえれば幸いです。



私の加工したエンジンはRC SUGOデータとはかなり違います。特にポートタイミング やヘッドの加工は、私なりのノウハウで加工しています。