YZR500 30年の進化

(WGP500 最高峰への挑戦より)



ヤマハコミュニケーションプラザにて開催されていたYZR展に、TDR オーナーズクラブのH畑氏と共に行ってきました。ヤマハ・2スト好きの私としては見逃せない企画だったので、同行してくれたH畑氏には感謝しております。ありがとうございました。さて、ココではYZRがどのように進化していったか?私なりの切り口で書いてみたいと思います。予め 御断りしておきますが、全年度のYZRが展示してあったワケでは無いので、その途中のモデルで 既に採用している機構もありますし、展示車がオリジナルで無い可能性がある事をご承知下さい。 又、技術的に興味深いモノのみを取り上げていますので、かなり偏った内容となってます。

OW98 ('88 エディローソン車)

エンジンVバンク角が70度に拡大され、チャンバーの理想形状、バンク角の確保などの為、「への字」スイングアームが採用された。倒立フォークやカーボンディスクブレーキも試されたが、定番パーツとなるまでは、まだ時間が必要だった。エディローソンが7勝し、チャンピオンを獲得。























(上段右)倒立フォークが採用されているが、ボトムピース部が長いのが特徴。勘合長もその分短いと考えられる。APロッキードのキャリパーを装着。

 
(下段左)トップブリッジ、ヘッドパイプ部に調整用カラーが見える。キャスターやトップブリッジオフセットが調整可能。 

(下段中)チャンバーボディはスチール製。サイレンサーはカーボンアウターとアルミインナー(中のパンチング部は不明)テールパイプは左右不等長(見栄えでサイレンサー位置優先)。

(下段右)巨大なエアインテークダクト。この頃は冷却面で苦しく、シートカウル部にサブラジエターを装着した事もあった。カウル幅も広くて空気抵抗は増すが、水温管理を優先した結果と考えられる。

OWE0 ('92 ウェインレイニー車)

このシーズンの途中から、いわゆる位相同爆を採用。進化したNSR+M・ドゥーハンに苦しめられながらも、ウェインレイニーがV3を決める。 (上段右)サイレンサーのインナーがチタン製。スチールチャンバーボディと左右不等長テールパイプはそのまま。




(下段左)剛性の固まりのような、トリプルクランプのアンダーブラケット。センサーを見ると水温計はガス機械式のアナログ表示のようだ。

(下段右)様々な径のディスク板(カーボン含む)を使用したせいか、ボトムピースには3タイプの穴が設けられている。ところで、写真のセット位置では
バッドのアタリ面が不完全だと思うのだが?







OWE2('92 テスト車)

パワーON・OFFによるスクワット効果の影響を減らす為に試作されたモノと思われる。完全同軸としなかったのは、「既存のフレームとエンジンの組合
わせの範囲内で、取り合えずのデータを取ろう」と言う判断からだろう。スイングアームシャフトを分割し、外付けのサブ(?)スイングアームピボットをボルトで固定している。良い結果が出ていれば、完全同軸専用フレームとエンジンが作られたかも知れない。







  

OWF9 ('95 阿部車)












'93の押し出し材(目の字断面)フレームからプレス材に戻された。但し、外観上は押し出し材タイプに近い。'94はルカ・カダローラがランキング2位を獲得した。






(上段中) ラムエアを積極活用すべく設置されたエアダクトが左右に見える。

(上段右) カーボンブレーキ、ブレンボキャリパーも定着化した。

(下段左) サイレンサーのインナーがチタン化。スチールボディと左右不等長テールパイプのままだが、テールパイプの根本が別ピース構成となっている。内径を絞っているみたいだが、詳細は不明。ちなみにNSR500は'90、RGVは'97からこの機構を採用している。

(下段右)アッパーチャンバーボディはアンダーに先駆けてチタン化。ほとんどストレート形状なので、量産し易かったせいか?

OWJ1 ('96 阿部車)

ボア・ストロークがスクエア化。パウダーメタル鍛造ピストンの採用などで、ポテンシャルアップを図った。又、シートレールレスとなり、カーボンシートがステーも兼任する強度を持った。阿部が日本GPで優勝した。

(写真右)アンダーチャンバーボディもチタン化(しかもプレス成型)されている。

番外編 NSR500 ('97ミックドゥーハン車)























(上段中)見難いけど、トップブリッジ裏の肉抜きはこんな感じ。

(上段右)ステアリングストッパーは意外にも前方。YZR500はメインフレーム側に設けている。

(中段左)テールパイプはNSR登場当初から左右等長化されている。

(中段中)アッパーチャンバー部。当然チタン製だが、溶接の継ぎ目が一直線ではない。ストレート部だから、どうくっつけても良いのだろうか?

(中段右)アンダーブラケットは肉抜き加工後、フタがされ、軽量・高剛性を実現している。当然、最終加工は溶接後になされているだろう。溶接に適した材質で作られている事も注目したい。

(下段左)例のテールパイプ・別ピース部。なぜかどのメーカーも、似たような長さだ。




OWK6 ('00 ギャリーマッコイ車)

'98から大幅に車体が変更され、Y ZR最終型まで継承される事となる。'97から排気ポートはT型ポートを採用(それまでは主排気×1+補助排気
×2の3ポートタイプ)。キャも'98からはケイヒンに変更(それまではミクニ)。結果的にNSRと同じ構成となる。7年振りとなるメーカータイトルを獲得した。




(上段右)'98からテ−ルパイプが左右等長化した。

(中段左)ラジアルマウントのキャリパーを装着。

(中段右)分かり難いが、ラジエターステーマウントとステアリングストッパー部が一体パーツとなっている。


(下段左)しなやかな変形を望む為か、角ばった部分を極力廃したフレーム構成となっている。

(下段右)メーターステーはカーボン製 。













OWL6 ('01)

チャンバー部























(上段左)上側2気筒分。エキパイ部とボディ部が分かれているのは、エキパイ長の微調整で、エンジン特性を変える為?それとも熱対策?

(上段中)下側2気筒分。エキパイ部とボディ部が分かれている構成は上側分と同じ。

(上段右)同じく、下側2気筒分。やや前方からのショット。

(下段左)チャンバーボディのエキパイ部と引張り部の角度違いが分かり易いショット。

(下段中)エキパイ部と引張り部の長さ関係は、こちらのショットの方が分かり易いかな?

(下段右)下側2気筒分。スイングアーム側からのショット。プレス成型部も見られる。

ステアリングブラケット部

(左)見難いけど、トップブリッジ裏の肉抜きはこんな感じ。

(右)アンダーブラケットの肉抜きは、前方から加工している。






スイングアーム

(左)内側斜めに補強が入っている。


(右)コチラも同様の補強が入る。







ラジエターステー

(左)ヘッドナット締め付け部と共締めになっている。NSRのようなプラグキャップ脱落防止カバーは無い。

(右)ヘッドボルト部6箇所中の2箇所がラジエターステー用。見え難いラジエターステーに、着色アルマイトを掛けるのは、美しさにこだわるヤマハの姿勢の表れか?


リヤサス・リンク部

(左)これまた見難いが、奥がリンク部。

(右)逆さまのアングルだけど、リンク部。







OWL9 ('02・最終型YZR500)
エンジン部






















(上段左)排気ポートはT型タイプ。YPVSバルブはスライドタイプで、2分割されているそうだ。フラットピストンヘッドを採用している。

(上段中)掃気ポート。見た目では、主掃気→補助掃気→第3掃気の順で開くように見えた。タイミング差は主掃気→補助掃気間、補助掃気→第3掃気間、共におよそ0,5mmほどと思われた。

(上段右)排気、掃気を横から見る。排気と主掃気、主掃気と補助掃気間のリブは細い。リングのノック位置は補助掃気ー第3掃気間にある。デトネの発生を防ぐ為にノックピンの頭がアルミで埋められているのは、市販レーサーと同様。

(下段左)ハイパワーに耐える為、シリンダーベース部の肉厚は厚い。メタルタイプのベースガスケットが使用されている。ちなみにNSR500はベース部もOリングシール。

(下段中)ヘッドナット(見た目では7mmと思われる)がラジエターステーと共締めされている。見難いが、ヘッドの鋳型にはOWK3('99くらいか?)とある。9,6と0,6の手書き数値が刻まれているが、数値共々展示されていた'01型と同じであった(容積とスキッシュクリアランスか?)。

(下段右)'02だけに装着されていた、YPVSに後付けされた削り出しのフタ。説明が無いので、詳細は不明だが、排気容積変更用か?

物足りない感のあるエンジン編ですが、エンジンに触れられないのと、吸気部と排気部にフタがされていて内部を伺い知る事が出来ませんので、この辺りで勘弁願います。又、以前は展示されていたらしいエンジンカットモデルが、今回はありませんでした。あるサイトで写真を見る機会があり、ソレからすると、燃焼室は傘型・・・というよりプラグ廻りの断面形状が平べったい台形(さすがに角は丸くなってますが)に近く、スキッシュ部は銅合金(?)が挿入されてます。イメージとしては、TZと同じ形状ですね。プラグはかなりピストンに近く(燃焼室容積確保の為に台形燃焼室になったのだろうか?)、クランク外周部には、重金属(タングステン合金か?)が埋め込まれているようです。

フレーム部












(上段左)フレーム全体図

(上段中)フレームサイド部。IGコイル,カウル兼テレメトリー用ステーが埋め込まれている。

(上段右)スイングアームピボット下部。リヤサスリンク受け部も一体の削り出し。


(下段左)リヤサス受け上部。左右のスイングアームピボット部は削り出しで、外観と違い内部はリヤサス受けまである構成となっている。その左右を繋ぐリヤサス受け根本部は別ピース構成となっていて、オイルキャッチタンクも兼ねる構造から、それなりの中空部分があると考えられる。ホース用(?)の開いている穴を見る限り、肉厚もさほど厚くなく、剛性面から考えると疑問も残るが、コレで大丈夫なのだろう。それにしても、リヤサス受け根本部・センターの溶接は、トーチが入りづらくてヤリ難そうだ。

<後日追記>上記のリヤサスアッパーマウント部の疑問について追記します。ヤマハはリヤサスアッパーマウント付近のフレーム横剛性を落としたかったようで、YZR500では肉厚の厚くない部材を使用していたようです。しかし、サスマウントの剛性は確保したいので、'04以降のYZR−M1では、エンジン側にサスマウントを設けて剛性を確保し、かつフレームのクロスメンバーを廃止して、フレームの横剛性を落としています。

(下段中)ステアリングヘッド部を下からのアングル。センター内部に縦の補強が入る構造は昔から採用。





































(上段右)ステアリングヘッド部・縦の補強の上にIGコイルステーが溶接されている。固定がリジットなのは耐久性に対する自信の表れか?ちなみにNSR500のIGコイルはラバーマウントで、しかもホントにフニャフニャであった。

(上段中)こうして見ると、驚くほど薄いメインチューブ部で構成されている。フレームの横剛性を落とす思想は、市販車でも'90から見受けられる

(上段右)ピボット部の表と裏の面積の違いが分かるアングル。リヤサス受け部とは複雑な構成で溶接されている。

(中段左)リヤサス受け上部。削り出し跡が生々しい。削った部分が残った部分よりも数倍多いだろう。

(中段中)ピボット部内側。肉抜き後、フタがされるのはNSR500・アンダーブラケットと同様の手法。コチラはピボット位置決めカラーが入ってない状態。

(中段右)ピボット部外側。ピボット位置決めカラーが入った状態。裏側には色々な加工が施されているが、ソレを伺わせないスッキリした外観。

(下段左)同じくピボット部外観。無駄な肉は一切削ぎ落とす加工がなされている。

YZRの極力角を廃したフレームは、Hにも刺激を与え、似たフレームワークのプロトタイプのNSR500を作らせたほどであった。'99シーズンイン直前の茂木合同テストで、ドゥーハンがテストライドしただけにとどまったが、「悪くない」とのコメントを残したらしい。

フレームの狙いとしてはフレームのしなやかな変形を狙ったモノと思われる。どうしたってフレームは走行中の応力で変形するのだが、「どうせ変形するのだから、その変形のし方(=しなり方)をコントロールしよう」と考えたのではないか?確かに一時期のガチガチフレームよりは剛性値は低いかも知れないが、極端に低い事は無いハズだ。単に「しなりを狙った」と言うのは認識不足だと思う。「しなりを出す」=単に剛性値を下げるくらいにとどまり、低剛性化しただけのように受け止められるからだ。又、縦剛性や横剛性のバランスを取った・・・と言うレベルでも無いと思う。縦・横・ねじれの各剛性のバランスを取りつつ、ねじれ位置や剛性分布を最適化し、フレーム剛性も確保した上で、「しなり方をコントロールしよう」という次元まで考えを推し進めたフレームだと思う。



今回、ヤマハコミュニケーションプラザに訪れたのですが、他の見学者のほとんどがバイクの全体写真しか撮らない中、私は部分写真ばかり撮る(それも下からや、壁側から)せいか、ヤマハのヒト達に「怪しいヤツがいる」というような目で見られたような気がします。しかし、お分かりの通り私は「決して怪しいモノではございません」ので、そう御理解願います。全然怪しくナイのに、誤解にもほどがありますねぇ。



YZR展のパンフレットを紐解いて見ると、GP500クラスで2ストロークエンジンが台頭しだしたのが、'73からです。それから30年程の間、進化し続けた2ストロークレーシングエンジンですが、残念ながら歴史の彼方に葬り去られてしまいました。2ストロークエンジンの市販車も壊滅状態です。確かに環境問題は避けて通れないのかもしれませんが、せっかく培ったモノを捨てるような行為には疑問を感じます。今でも2ストロークエンジンを愛するヒトはたくさん(?)いるのだから、メーカー側も少し考えてもらいたい、と思います(部品供給は続けてもらいたいものです)。まあ、グダグダ言ってても仕方無いので、「自分に出来る事をしよう」と考えています。2ストロークエンジンの素晴らしさをアピールし、賛同してくれるヒトがいるならば、市場も2ストロークエンジン復活を望むでしょう。その声がメーカーまで伝われば、状況は変わるかも知れません。



今まで、これほど真近でワークスマシンを見る機会はほとんど無かったので、大変貴重な体験をさせてもらいました。疑問に思っていた部分も垣間見る事が出来、「なるほど、こーなっているのか?」「うむむ、ココまでやっているのか!」と思う事も度々でした。惜しむらくは、エンジンのカットモデルが無かった事ですが、ソレを差し引いても素晴らしい内容でしたね。これだけのYZRが公開される事は、恐らく2度と無いでしょうから、一生の思い出
となるでしょう。ヤマハさんには感謝します。

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