法話18
「心に響くことばH」
浄土真宗の妙好人の一人、石見の才市として知られる浅原才市さんとツノの話は有名です。才市さんが自分の姿にツノを加えるよう頼まれ、その言葉に従って肖像が描かれたというのです。インターネットでもそれを見ることができます。ご覧になってください。なんとも柔和な鬼の顔です。浄土真宗のお味わいの中では、怒りや煩悩の象徴としてツノが広く用いられたのでしょう。
行信教校の校長であった利井明弘先生のお言葉です。
先生が若いころの出来事でした。行信教校では毎年五月に専精舎と呼ばれる夏安居が開かれます。専精舎というのは、利井鮮妙和上の院号、専精院から取られた名称です。
昔は地方から、それは大勢の同行がお参りでした。ホテルも施設もありません。お同行たちは法座の後、本堂いっぱいに布団を敷いて休まれます。戦後間もなく、多くの布団はありません。お母さんが縫われた、つぎはぎだらけの布団が、倉庫から出されます。天日に干しても、かび臭さは残っていたでしょう。それでも足りないので、学生たちが村の家々を回ります。
「専精舎が近づきました。お布団をお借りできないでしょうか」ぉ寺からの依頼です。おそらく家で一番立派な、お客用の布団が用意されたことでしょう。夜座が終わると、お布団が敷かれます。せんべい布団と、ふわふわ布団が混在しています。
「どうぞ順番に、お入りくださーい」
布団の争奪戦が始まります。自分用だけでなく、友達用に荷物まで置いて、確保される始末です。それが、「ありがたい」「はずかしい」「もったいない」とよろこぼれる、お同行の姿なのです。
「この人ら、ニセ同行やないか」
思わず利井先生は、声に出されたそうです。隣で聞かれたお父さま。
「お前も、世間の見方しかできんか。そのニセ同行の口から出てあってくださる、お念仏さまが聞こえんか」
と言われたといいます。行信教校では、有名な話です。