法話3
「地獄はあるか?」
ある方がお釈迦さまのお弟子に、「仏教では地獄、極楽を説いているが、有るのか無いのか。有るなら地獄へ落ちたくないから、教えを聞くが、無いのなら聞く必要はない。」と言いました。お弟子は「有ります。」と言うと、「それじゃ見せてくれ」と言うことになりました。お弟子は、「初めに地獄をお見せしましょう。」と言って案内しました。そこは立派な部屋を見渡すことのできる隣の場所でした。立派な部屋の真ん中に大きなテーブルがあり、その上には見るからにおいしそうなご馳走が並べてありました。テーブルの周には十脚の椅子があり、その前には長い箸と取り皿が用意されていました。そこへ男女合せて十人ほどの人が座り、食事が始まりました。長い箸で我先にと食べようとするものですから、お互の箸と箸がぶつかり合って、思うように食べられないのです。そのうちつかみ合いになり、わめきちらしながら一人去り、二人去り、みんな去った後にはグシャグシャになったご馳走が散らばって、何とも言いがたい状態になってしまいました。お弟子は「これが地獄です。次は極楽へご案内しましょう。」と言って別の所へ行きました。
部屋の中の様子を見ると、さきほどの地獄の部屋と全く同じです。やはり長い箸が置かれていました。そして十人程の方が席に座りました。「また何か始まるぞ」と見ていましたが、みんな楽しそうに食事をしているのです。よく見て見ると、お互い向い側の人に「何を召し上がりたいですか。」と聞き合って、長い箸をうまく利用して、相手の好きなものを食べさせているのです。そして、きれいに食事を済ませ、楽しく話しながら帰って行きました。曽我量深先生が、このように言っておられます。「地獄は無い、造るべからず」と。また「人間の世界は言葉を必要とする世界、地獄は言葉の通じない世界、極楽は言葉の不要な世界」と。