法話10

「心に響くことば」

親鸞聖人は、当時の僧侶の常識を破り、結婚して家庭を持たれました。

妻の恵信尼さまのお手紙や、曾孫の覚如上人の伝記によれば、二十九歳の時に比叡山を下り、六角堂に百日間参籠された中、九十五日目の明け方、夢の中に観音菩薩が現れて、こうお告げをされたのです。

「もしあなたが女性と結婚するのであれば、私がその相手となりましょう。そして一生あなたと添い遂げたあと、いのち終わる時にはかならずお浄土に生まれる身といたしましょう」

つまり、親鸞聖人にとって結婚柏手の恵信尼さまは、観音菩薩の化身であったわけです。結婚するということは、パートナーと共にお念仏申す人生を歩むということなのです。そして、いのち終わる時には、お浄土に往生する身と成らせていただくのです。

妻の恵信尼さまもお手紙の中で、夫としての親鸞聖人を「観音菩薩の化身」であったとお書きくだきっています。

親鸞聖人と恵信尼さまは、お互いのいのちの中に、ご自身をお育てくださる仏さまのはたらきを見ていかれ、菩薩さまの化身と仰がれたのです。

ただ、どんなに仲の良いパートナーであっても、時にはケンカや仲違いをするかもしれません。どんなに傍に寄り添っている者同士でも、さまざまな理由で、離れ離れで暮らさないといけないこともあるかもしれません。

そんなパートナーの存在を、「私を仏道に導いてくださる方」と手を合わせていけるのが、お念仏の人生なのです。

そして親鸞聖人は九十歳で、恵信尼さまより先に、ご往生なさいました。「今度は、仏さまの世界から私を導き、寄り添ってくださるはたらきと成られたのだ」と、恵信尼さまは手を合わせ、お念仏されたのではないでしょうか。

私から離れた、どこか遠いところに仏さまがおられるのではありません。仏さまは、縁あるお方のお姿となって、私を仏道へ導き、お育てくださいます。ありがたいお育てもあれば、厳しいご催促もあるでしょう。そのはたらきは、お念仏申す中で、常に私のそばに寄り添い、すでに私のところへ来てくだきっているのです。