超最終話『毎日、スパーク!』
超最終話
『毎日、スパーク!』


チュンチュンチュンチュチュララララ♪

「うおっ! 朝だぁーー!!」

軽快な鳥の囀りに目を覚ますと、俺は飛び跳ねんばかりに布団から飛び出した。
そして一瞬にして着替えると一階に向かう。

モナが意識を取り戻して以来、俺は毎日浮かれ気味だ。
学校でも町中でもどこでもいつでもハイテンション!
そこまで舞い上がるぐらい俺にとっては嬉しいことだったのだ・・・。

ダッダッダ・・・!

台所に行くといつものように朝食を作るモナの姿。
俺はその後ろに忍び寄ると、何の前触れもなく華奢な妹の体を抱きしめた。

・・・ギュッ☆

「きゃっ!?」


すると小さな体がビックリしたように飛び跳ねる。
だが、俺は抱きしめままその体を解放しなかった・・・。

「お兄ちゃん? 朝から驚かせないでよ〜」

イ・ヤ・だ! モナは俺の可愛い妹なんだから、こうしたいんだ…」

「嬉しいけど……なんだか恥ずかしい」

そう言いながらモナは耳まで真っ赤に染める。
少しイタズラ心が芽生えた俺は、真っ赤になった耳たぶを優しく噛んだ。

「かぷ♪」

「あんっ☆ お兄ちゃん……噛んじゃ…だめ」

「ぺろぺろ♪」

「な、舐めてもだめぇ…」

俺はモナを解放すると、クルリと振り向かせた。
見つめ合うような形になったとたん、モナが目を閉じながら顔を近づけてきた。

「お兄ちゃん……ん」

「モナ…」

モナの前髪を払いのけ、露わになったおでこに軽くキスをした。
するとモナは半分嬉しそうな、それでいて怒ったような顔を俺の向ける。

「どうして……キスしてくれないの?」

「約束は一度だけだろう?」

「お兄ちゃん……やっぱり、私のことなんてどうでもいいんだ…」

「そんなことない」

「だったら、どうしていつも唇にしてくれないの?」

その問いかけに俺は何も答えられなかった。
ただ、モナとはキスをしたが、それは兄妹愛としてしたのであって恋人としてしたのではない・・・。

「私はお兄ちゃんのこと大好きだよ? 誰よりも好き」

「俺だって…!」

・・・ギュッ!

俺は再びモナの体を抱きしめた。

「もうあんな思いは二度とごめんだ…」

「お兄ちゃん、ごめんね。 もう寂しい思いはさせないから…」

「俺は……モナを失いたくないんだ…」

「うん…、もうワガママなんて言わない……お兄ちゃんの側にいられたらそれでいいの」

モナの小さな手が俺の背中をキュッと抱きしめる。
その手から温もりが伝わってくると、俺はそれだけでモナの存在を感じることが出来た。

「でも、五月さんを抱こうとしたことはちょっぴり嫉妬」

「ど、どうしてそれを知っている?」

「五月さんから全部聞いたよ。 でも、結局しなかったんだよね?」

「ああ、あのときは正常じゃなかったからな」

「よかった…、これで私にも可能性があるね?」

「………」

「お兄ちゃんの最初に人になりたいなぁ〜」

そんな夢は捨てなさいっ、モナちゃんっ!

そんな言葉を言ってやりたかったが、あまりにも嬉しそうな顔をするので言えなかった。
妹に甘い俺だが、あの事故以来さらに甘くなってしまったような気がする・・・。

「それはそうと、お約束のように時間が無いぞ?」

「え?――――うん、行こうか?」

「そうだな」

俺とモナは急いだ様子もなく、普通に用意をして家を出た。

………

「お兄ちゃん、悪いよ…」

「別にいいって」

俺はモナから鞄をひったくると、余裕で持ち上げた。
自分の鞄と重ね、肩に担ぐ。

「えへへっ、ありがとう」

「大事な妹だからな…」

「もうっ、私が退院して一ヶ月も経つよ?」

「俺にとって一ヶ月であろうと10年であろうとお前は大事な妹だ」

「ずいぶん優しくなっちゃったね?」

そう言って五月が現れた。
俺とモナと交互に挨拶すると、嬉しそうに一緒に並んで歩き出す。

「このままだと遅刻しちゃうね?」

「ああ? そうだなぁ……別にいいじゃねぇーか?」

「あらら、大事な妹さんを遅刻させたくないんじゃなかったの?」

「五月さん、もういいの。 私はお兄ちゃんと一緒にいたいから…」

「モナちゃんも変わったね。 まぁ、私も変わったけど…」

そんなことを言いながら学校への道を歩く。
時間が無いというのに誰も急ぐこともなく、なんだか平穏がとても良く思えた。

「お兄ちゃん……手を繋いでいい?」

「ああ、好きなだけしてくれ」

「…うんっ!」

・・・キュッ!

モナの小さな手が俺の手を握る。
それを見た五月は、自分も繋ぎたそうな顔を俺に向けた。

「五月はまた今度な? 今は両手がふさがっているから」

「…うん」

「モナをこうして掴んでいないと、なんだか安心できないんだ…」

「マサト…」

俺はモナには聞こえないように五月にだけ言った。
その言葉に五月は頷き、優しさに満ちた瞳を俺に向ける。

「せんぱ〜〜い!」

「きたか…」

俺は声の方に振り向くと、キヨが俺達の元に駆け寄ってくる。
そして合流すると、いつものように並ぶ。

「清子ちゃん、おはよう」

「おはよう〜! 五月先輩もおはようございます!」

「おはよう」

「キヨは朝から元気だな」

「もちろんですよ! 先輩が元気じゃないだけですぅ」

相変わらず痛いところをついてくる。
それと辺りに響くほどの大声は何とかならないものか・・・?

「今日はモナちゃんと仲良しですねぇ」

「えへへっ、お兄ちゃんと私はラブラブなの☆」

「これは五月さんに対するライバル宣言ですね!?」

「誇張するんじゃねぇー!!」


いつものように言うキヨにツッコム。
これも何気ない毎日のやりとりのひとつ・・・。

「私はマサトを信じているから…」

「むむむ…! 強気な五月先輩ですね?」

「だって、私はマサトの彼女だし……それに…ね?」

五月はチラッと目線を送ると、ほんのりと頬を赤く染めた。
それに気づいたキヨが鋭く突いてくる。

「ああー! その“目で会話”みたいなのはなんですかー!?」

「いや、“みたい”じゃなくてそうなのだが…」

「そうですか? それでなんなんですかぁ〜?」

「それはだな…」

俺が言葉に詰まっていると、かわりに五月が答えた。

「だってマサトったら……私を無理矢理押し倒して…」

「さ、五月っ」

「強引に唇を奪いながら、服を脱がして…」

「それ以上は言わないでくれぇ〜〜!」

「……と、言うわけで私はマサトを信じているの」

「せ、先輩と五月先輩にそんなことが…!?」

キヨを納得させることには成功したが、赤裸々な告白をされる羽目になってしまうとは・・・とほほ。

「うわぁ〜〜! 遅刻だ〜〜」

叫びながら後ろから近づいてくる人物がひとり。
珍しく正二が遅刻しそうらしい・・・。

「正二!」

「…あ、マサトに……モナちゃんっ!」

正二は俺よりモナに気がつくと、すぐさま駆け寄ってきた。
そしてモナの目の前に立つと手を握った。

「おはようモナちゃん! 今日も可愛いね〜」

「正二さん…、おはようございます」

「相変わらずね」

「正二先輩はモナちゃん一筋なんですよ」

「だからって、モナはやらんぞ?」

俺はいつものように言うが、最近は効果がない。
モナは俺の妹だから、いつかは誰かと結婚するのだ・・・それは俺以外の誰か。
それを考えるとモナに近づく男を蹴散らすだけでなく、選ぶことに決めた。

認めたくはないが、正二は悪いヤツじゃないし、モナも心底嫌がってはないのだ・・・。

「私は先輩一筋ですけどね?」

「キヨもあきらめが悪いな」

「ふっふっふ! 先輩は絶対離しませんからねぇ〜」

そう言うやいなや、キヨの長い髪が勝手に動きだし、俺の首に巻き付いた。

「こんな技…、いつ憶えた?」

「通りすがりの女暗殺者さんに教えてもらったんです!」

「なんだかなぁ…」

えっへんと胸を張るキヨの乳が目の前で揺れた。
俺はそれに手を伸ばし、何気なく揉み上げた。

・・・ギュッ!

「あんっ☆ 先輩ったらエッチですぅ」

「マサトのばかぁー!」

・・・ドゴンッ!


全てのことが一瞬で起こり、何がなんだかよくわからない・・・が、俺は地面に倒れている。
それは五月が怒って俺を殴ったからだ・・・。

「五月、痛いぞ…」

「ぷんっ! マサトが悪いんだからね?」

「そうカリカリするな。今のはちょっとした誘惑に負けただけだ!」

「威張ることじゃないよっ!」

そりゃそうだ。
ごもっともです・・・五月さん。

キーンコーンカーンコーン!

そんなことをしている間に始業チャイムが鳴ってしまった。

「あ〜あ、始まってしまったな」

「そうだね」

「先輩達、急がないと…」

「そうだ、マサト行こうぜ?」

「お兄ちゃん、どうするの?」

俺はモナの言葉にしばし考えた。
こうして朝早くに5人が集まったのも何かの縁だ。

「よーし! これから皆で遊びに行こうぜ?」

「えぇーっ!?」

やはりというか、俺の言葉に全員が驚く。
だが、皆の答えは俺が予想もしないものだった。

「いいねぇ〜、こんな日はサボろうぜ?」

「私はマサトに賛成! たまにはいいよね?」

「私も行きたいです〜」

「………」

俺はおもわず自分の耳を疑ってしまった。
誰もが反対すると思っていたのに賛成してくれるなんて・・・。

「さーて、今日はどこに行く? 遊園地にでも行くか?」

「正二ったら、子供じゃないんだから…」

「五月先輩〜、遊園地は大人でも楽しいですよ?」

「そうだぞ美作! それは偏見というものだ」

「あはは、そうだね」

談話しながら学校と反対方向に歩き出す3人。
俺はただただその姿を眺めていた・・・すると、そんな俺の手をモナが引っ張る。

「お兄ちゃん…、私たちも行こう?」

「…ああ! そうだなっ」

妹に手を引かれながら、俺はスパークな毎日へと繰り出した・・・。





< Spark Everyday! Fin >





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