雪という名の少女
『雪という名の少女』
1月1日
今日は新年の始まり。
俺と雪は公園にいる。
雪が積もった公園――たくさん雪が降った。
2人して雪を払ってベンチに座る。
「その……大丈夫か?」
俺はそれが気がかりだった。
雪の体は大丈夫なのだろうか?
「え? なにが?」
「…雪の体」
「……あ、うん」
俺の言いたいことがわかったんだろう。
雪の顔がほんのり赤くなる。
「次の日にね、お風呂に入ったらちょっと痛かった…」
「………すまん」
やはり俺は雪を傷つけてしまった。
少なくとも雪の体を・・・
「あ、浩ちゃんが悪いんじゃないよ」
「………」
「確かに痛かったけど……嬉しかった」
「嬉しい?」
「うん。浩ちゃんがそれだけ私を愛してくれてるんだって」
そうなのか?
確かに俺は雪を愛している。
雪を愛して――求めた。
雪の全てを求めた。
それだけ・・・
「ちょ、ちょっと激しかったけど…」
「………」
「浩ちゃんが私をたくさん求めてくれたことが嬉しかった」
「…そうか」
これでよかったのか?
雪はそう言ってくれる――これでよかったと。
「そんな顔しないでっ」
そう言いながら俺に笑顔を向ける。
「私は嬉しかったんだから」
「………」
「いつもの元気っ……だよ?」
「そう――だな」
雪が喜んでくれてるんだ。
俺も素直に喜んでいよう。
「あ、忘れるとこだった…」
雪は何かを思い出したらしくポケットを探る。
「……?」
「え〜と、はい」
そう言って小さな箱を差し出す。
「これは?」
「クリスマスプレゼントだよ」
「……なぜ?」
今は正月だぞ?
クリスマスはとっくに終わったはずだが・・・
「あはは、去年はあげられなかったから…」
「…そうだったな」
「思い出したら、クリスマスプレゼント忘れてたな〜って」
「はは、雪らしいな」
ほんとお前らしいよ。
過ぎたことでも思い出したらきっちりする。
そういうところは昔から変わらないな・・・
「開けてみて」
「おうっ」
俺は雪に勧められて箱を開ける。
「これは…」
そこにはひとつの指輪があった。
俺が雪にあげた物と全く同じ指輪が・・・
「どういうことだ?」
「浩ちゃんにもらった指輪と同じ物だよ」
「それはわかる。俺が聞きたいのは…」
なぜ俺があげた指輪と同じ物がプレゼントなんだ――ということだ。
「お揃いだよ」
「お揃い?」
「うん。浩ちゃんと私はお揃い」
そういうことか。
雪の気持ち――受け取ったよ。
「さて、はめてみるか」
俺は指にはめてみる――が!
「………はまらないな」
「…え?」
どうやらサイズを間違ったらしい。
俺の指にはまらない。
「……どうすんだよ」
「どうしよう?」
俺はいろいろ試す。
すると・・・
「おっ? なんとかなったぞ」
「ほ、ほんと?」
「ああ、少しきついけど小指に…」
「うーん、いっか?」
「そうだな」
雪の気持ちだ――大切にしたい。
買い換えれば早いのだが、それだと雪の気持ちを潰してしまうことになる。
雪にもらったそのままが大切なんだ。
「…ねぇ」
「うん?」
「雪――たくさん積もったね」
「そうだな」
ざくざく
雪は地面を踏みつけるように足を動かす。
「嬉しいね」
「ああ、俺は寒いから嫌だけど――雪が喜んでくれるから」
「うんっ」
ゆっくりと時間が過ぎてゆく。
それは俺と雪の邪魔をしないように静かにゆっくりと――確実に。
「あっ、浩ちゃん」
「なんだ?」
「…空」
俺は雪に言われた通り空を見る。
「…どうりで寒いわけだ」
空からはしんしんと雪が降り注いでいた。
「綺麗だね」
雪はひとり歓喜の声を上げる。
「…っと」
かけ声と共に雪はベンチを立ち、雪の中を駆けていく。
ざっざっざっざ
すると雪が走っていった跡に足跡が残る。
「………」
俺はそれを眺める。
俺達もこの足跡のように次々と刻まれていくんだろうな。
そして降ってくる雪に消されていく。
「なんだか…」
寂しいな。
雪との想い出も足跡のように消えていくのだろうか。
「浩ちゃ〜〜〜〜ん」
少し離れた場所から雪が声をかけてきた。
俺はそれに手を振って答える。
「ずっと……これからも一緒だよ〜」
「ああ、俺と雪はずっと一緒だっ!」
俺は大きな声で答える。
雪に聞こえるように・・・
俺の想いが届くように・・・
「うんっ、愛してるよ〜〜」
雪が気持ちをぶつけてくる。
それを聞いた俺はこう答える。
いつも側にいてくれた雪。
俺のせいで苦しんだ雪。
俺を支えてくれた雪。
俺に全てを捧げてくれた雪。
全ての想いを込めて・・・
そして未来を願って・・・
「俺も愛してるっ!!」
そう叫ぶ俺の頬に熱いものが流れる。
それはとても温かい涙。
悲しくない――嬉しい気持ちが溢れる。
「ぐすっ……ありがとう〜」
返事をする雪に光るものが見えた。
それは雪の気持ち。
言葉では表すことのできない想い。
「あはは、雪だ雪だ〜〜」
雪は手を広げてクルクルと回る。
銀色の世界に舞い降りた雪の精霊。
それは雪の降る中で舞う少女。
そのダンスは華麗に――そして儚く。
“雪音”
それは寂しがり屋の名前
それは泣き虫の名前
それはか弱い者の名前
それは小さな者の名前
それは幼なじみの名前
それは支えてくれる者の名前
それは愛する者の名前
それは世界に唯ひとりだけの名前
雪が好きな少女の名前・・・
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