エピローグ『Happy Love ☆』
エピローグ
『Happy Love ☆』


正月。
今日から新年が始まるという喜ばしい日。

「………ぐぅ」

そんな日でも俺はのんきに寝ていた。
すると、案の定、百合音ちゃんが起こしに来る・・・。

「朝だよ、お兄ちゃん。今日はお客さんが来るんでしょ?」

「……ん、んん……ぐぅ」

本当は聞こえてくれるのだが、とりあえず寝ているフリをする。

「起きて…、お願いだから」

そう言いながら近づいてくる百合音ちゃん。
俺はガバッと起きあがり、百合音ちゃんを思いっきり抱きしめる。

「きゃっ!?」

「捕まえた」

「驚かせないで。私、本当にびっくりしたよ」

「…ごめん」

一言謝り、百合音ちゃんの首筋に顔を埋めるとチュッチュッとキスをする。
すると、そのたびに小柄な体がピクンと震えた。

「…ぁ、だめ」

「百合音ちゃん……好きだよ」

「ぅ……わ、私も」

そしてふたりの唇が重なり合う。
舌を絡め合い、お互いの唇を味わうように何度もキスをする。

「……あふ」

どちらともなく唇を離すと、ふたりの間に唾液の架け橋ができた。

「百合音ちゃん、気持ちよかった?」

「うん……変な気持ちになりそう…」

「ははは、続きは夜やろうね?」

「……う…ん」

返事をする百合音ちゃんにあんまり元気が含まれてなかった。
どうやら物足りないようだ・・・。

………

正午を過ぎた頃。
本日のお客様がお見えになった。

「新年あけましておめでと〜」

いつもよりテンションが高い彩乃さん。

「おめでとう」

それにつられて瀬名。

「おめでとうございます」

そして最後は三奈子ちゃんでシメ。

新年を俺の家で祝うという話を百合音ちゃんに提案したところ、こんなメンツになった。
どれも顔馴染みの連中で逆に気を遣わなくていいところがよかった。

「ありゃ〜、三奈子ちゃん、ずいぶん綺麗になったね?」

あれ以来会ってなかった三奈子ちゃん。
数年経つと人間って変わるもんだなぁ・・・。

「そんなこと言って、百合音ちゃんに怒られても知りませんよ?」

「ははは、そんなこと…」

「……お兄ちゃん」

隣にいる百合音ちゃんを見てみると、寂しそうな表情を浮かべている。
俺は慌てて取り繕うように言葉を並べた。

「百合音ちゃんも綺麗だからね?」

「……私はぁ〜?」

ここで何故だか入ってくる彩乃さん。
ひとまずこれは放っておくことにする・・・。

「寂しそうな顔しないで、俺は百合音ちゃんの笑顔が好きだから」

「……うん」

「あの〜〜私は〜〜?」

最後の言葉は幻聴として聞き流す。

「それに、私はもう結婚していますから口説かないでくださいよ?」

「三奈子ちゃんも冗談きついなぁ〜? 俺が百合音ちゃん以外を口説くわけないだろ?」

「それもそうですね」

そこまで言ってふたりで笑う。
今では三奈子ちゃんは“人妻”だったりする。
旦那が優しくていい人らしくて、三奈子ちゃんがベタ惚れしてしまったそうだ。

そして、この場にいる瀬名と彩乃さんも結婚済み。
何があったのか知らないが、彩乃さんが人が変わったように瀬名にモーレツなアッタクをしたらしい。
それに根負けした瀬名が渋々付き合ったのだが、これまた彩乃さんを瀬名が好きになった。
そして両想いになったふたりは結婚・・・っと。

「まっ、話はそこまでにして飯でも食うか」

「くすっ、そうですね」

「そうだな」

「おなかペコペコ〜」

「じゃぁ、お兄ちゃん。私は用意してくるね」

百合音ちゃんはパタパタとスリッパの音を立てながら台所に走っていった。

「ふふっ、可愛い奥さんですね。お兄さんっ」

「はは、そう言われると照れるな」

………

みんなで新年を祝いながらの食事。
テーブルの上を飾るのは俺と百合音ちゃん合作の豪華絢爛お節料理!!

「もぐもぐ……うん、うまい」

「…うまいな」

「おいしい〜」

それぞれ歓喜の声を上げる。
俺と百合音ちゃんは目を合わすと、どちらともなくニッコリ微笑んだ。

「これ……おいしいですね? お兄さんが作ったんですか」

「それは百合音ちゃん。俺のはこっち」

「もぐもぐ……どっちもおいしいです」

三奈子ちゃんは本当に嬉しそうに箸を運ぶ。
それに引き替え、ばかばか食う彩乃さんは案の定、瀬名に怒られていた。

「それにしてもさぁ〜、広瀬くんが料理が上手だと百合音ちゃんも苦労するでしょう?」

「いや、そんなことないけど?」

「だって、広瀬くんは調理師の資格持ってるでしょう? それって明らかに料理が上手ってことだよね?」

「そうかな?」

「そんな旦那をもつ奥さんは大変よ〜?」

そう言って目線を百合音ちゃんに向ける彩乃さん。
その視線に気づいた百合音ちゃんはすかさず言い返した。

「お兄ちゃんは私の料理をいつも誉めてくれます。
それに、どんな料理も作ってしまうから、負けないぞって頑張れるんですよ」

「ふ〜ん、私は料理がてんでダメだからわかんないけど…」

「おいおい…」

「料理が上手な夫婦って、なんだかいいよね?」

嫌味でもなく、皮肉でもない言い方をする彩乃さん。
その言動にはいつものように好感が持てた。

「…あれ? 百合音ちゃん」

何かに気づいた三奈子ちゃんが声をかける。
それに何事もないように返事をする百合音ちゃん。

「なに?」

「首筋に……キスマークがついてるよ?」

「………(ぽっ)」

「あぁっ! 百合音ちゃんが茹でタコに!?」

・・・と、この意味不明な叫びは彩乃さん。
それはひとまず無視して、百合音ちゃんは顔を真っ赤にして俺を見つめる。

「あはは、見つかっちゃった……ね?」

「…お、お兄ちゃん」

「くすっ、仲が宜しいようなので安心しました」

「ひゅ〜〜ひゅ〜〜! 熱いねぇ」

「彩乃っ、からかうんじゃない」

そんな恥ずかしい話で盛り上がったりと、賑やかなパーティーは終わりを迎えた。

………

「帰っちゃったね…」

「そうだね」

3人を見送った俺達は何気なく誰もいなくなった道を眺めていた。

「さぁ、家に入ろうか?」

「…うん」

夕日を背に家の中に入る。
すると、そこはいつも見てきた光景が広がっていた。

「もうすぐ私とお兄ちゃんも結婚するんだね」

「うん、そうだよ」

「嬉しすぎて……今の気持ちがよくわかんない」

そう、俺と百合音ちゃんは結婚することになった。
式の決行日は春。
俺と百合音ちゃんには何かと縁がある季節を選んだ。
それはふたりの絆を強く結びつけた季節だから。

「…百合音ちゃん」

俺はその華奢な体をキュッと抱きしめた。
なによりも大事な家族、たったひとりの妹、愛おしい女の子。
今の俺にとって百合音ちゃんは全てだ。
会ったときから俺には百合音ちゃんしかいなかった・・・。
俺もまた、いつも孤独だったのだ。

「私ね、とっても幸せだよ」

「…うん」

「お兄ちゃんに愛されて、お兄ちゃんに抱かれて……幸せすぎて怖い」

「俺も」

百合音ちゃんの細い手が俺を抱き返してくる。
その手には小さいながらもギュッと力が込められていた。

「…離したくないの」

「ああ、俺も百合音ちゃんを離したくない」

「うんっ、絶対離さないでね?」

子供のように微笑み、俺の胸に顔をグッと埋めてくる。
俺は柔らかい髪を優しく撫で、愛の言葉を囁いた。

「百合音ちゃん、愛している」

「私――ううん」

百合音ちゃんはそこまで言って、ひとつ首を振り俺の方に顔を上げる・・・

そして・・・

満面の笑みを浮かべ、一滴の輝きを零しながら・・・

「百合音もね、とってもとーっても愛してるっ」





< リトル・ラブ☆ 完 >




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