リトルNEKOメイド
リトルNEKOメイド





〜 それは、主人が1人で浜辺を散歩していたときのこと 〜


「ふぅ、潮風が気持ちいいな」
主人は風に吹かれながら歩いていた。
「それにしても…」
あたりをキョロキョロと見る。
「見事に誰もいないな」
そんなことを呟く。

『きゃぁぁーー!!』

「な、なんだ?」
誰もいない浜辺に、少女の悲鳴が響いた。
「どこからだ?」
主人は辺りを見渡すが、誰もいない。

『だ、誰かーー!!』

「いったい………あっ!」
主人は岩に隠れている場所を見つけた。
「あそこかっ」
そう言うなり、その場所に向かった。

〜 岩陰 〜


「は、はにゃすにゃぁ〜」
メイド服を着たネコのような少女が、自分の上にまたがっている男に叫ぶ。
「ぐへへ、やーだね!」
「アニキ、どうするでやんす?」
隣で見ているもう1人の男が声をかける。
「ぐへへ、イジメるにきまってるじゃねーか」
「さっすが、アニキ!」
「ぐへへ、まーな」
そして、2人で笑いあう。
「にゃ、にゃぁ……」
涙目になる少女。
しかし、男達にそんなことは関係なかった。

「さーて、『なにぬねの』と言ってみろ!」
「い、いやにゃっ!」
「なんだと!?」
ビシッ!
男が少女の頬を殴る。
「い、痛いにゃ…」
「だったら言うんだよっ!!」
「ううっ……、『にゃににゅねにょ』」
「ぎゃははははは! 言えねーでやんの!」
「あーっはっはっは! アニキ、最高でやんす!」
「……ぐすっ」

「な、なんて下劣な奴等なんだ」
その光景を見た主人は驚愕した。
「この私が成敗してくれるっ! トウッ!!」
主人はヒーローのようなジャンプで飛んだ。

「ちょっとまった!」
「ん?」
「だ、誰だ?」
男達が声のする方に振り向く。
「お前達を天が許しても私は許さない!」
主人は岩の上から飛び降りる。
「はぁぁーー!」
ぐきっ!
着地に失敗し、足首を捻った。
「ぐおっ!?」
「バッカでやんのー!」
「アニキ、どうしやすか?」
「やっちまうぞー」
「アイアイサー!」
「ちょ、ちょっとたんま…」

ボコガスドカゲスバキドコゲフギシゲシ……ちゅどーん!

「けっ、行くぜ」
「へい」
気が済んだのか、男達は去っていった。

〜 しばらくして 〜


「う……ん?」
主人は気を取り戻した。
「だ、大丈夫にゃ?」
「え? あ、君は…」
「助けていただいてありがとうにゃ」
「いや、私はやられただけで……つぅ」
主人は起きあがろうとしたが、体に痛みが走る。
「あ、安静にしとかにゃいとダメにゃ」
「あ、ああ」
そしてまた横になる。
「膝枕……か」
「うにゃ?」
「ありがとう。ずっとこうしてくれてたんだろう?」
「うにゃ、お礼にゃ」
少女はニッコリと微笑む。
「私、ニィナって言うにゃ」
「ニィナか…、いい名前だな」
「ほ、ほんとにゃ?」
「ああ。 あっ、私は…」
主人が自分の名前を言うとすると、ニィナは首を横に振った。
「言わなくていいにゃ」
「ど、どうして?」
「ニィナは……こんな姿にゃ」
「?」
ニィナの言っている意味が主人にはわからないらしい。
「人間じゃにゃいにゃ」
「そう言えば……そうか」
普通に返事をする主人。
「変だと思わにゃいにゃ?」
驚いた顔でニィナは尋ねる。
「別に。人間ってのは、外見じゃなく中身だよ」
「………ぽ」
ニィナは主人の言葉に顔を赤くし、俯いてしまった。

「助けてくれたお礼に招待するにゃ」
「招待?」
「うにゃ、ニィナが住んでる『竜宮島』にゃ」
「いや、私は…」
「一名様、ごあんにゃ〜〜い!」
「いや、だから…」

〜 ボートの上 〜


キコキコキコ
「うんしょっ、うんしょっ」
ニィナが懸命にボートを漕いでいる。
「…ふぅ」

なぜだかしらないが、竜宮島へボートで行くハメになった。
その上、自分で漕ぐボートである。

「ニィナ」
「うんしょっ、うにゃ?」
「竜宮島とやらの距離はどれくらいだ?」
「うーんと…、約1000kmぐらいにゃ」
「………」
主人は言葉を失った。
「2、3日で着くにゃ」
「……マジか!?」
「冗談にゃ」
「な、なーんだ…」
ホッとする主人。
「本当は1週間にゃ」
「………」
主人の目が点になった。

〜 竜宮島到着 〜


「ほ、本当に一週間もかかった」
一週間の間に、主人の体は痩せ細っていた。
「大丈夫にゃ?」
「ああ、たぶん」
返事に元気がない。
「ご案内するにゃ」
「……ああ」

「ここにゃ」
「………」
ジャングルのような道を通り抜けたところに“それ”はあった。
「…こ、これは?」
「竜宮ホテルにゃ」
「ホテル? た、たしかにホテルだが…」
ホテルというよりもラブホテルだった。
「さぁさぁ!」
「ちょ、おい」
主人はニィナに背を押され、ホテルに無理矢理入れさせられた。

ウィーン

「いらっしゃい……って、ニィナ!」
カウンターにいる女性がニィナに気づく。
「ただいまにゃ」
「遅いから心配したのよ?」
「途中で悪い人に捕まったにゃ」
「ええー!? そ、それで?」
「この人が助けてくれたにゃ」
「この人って……人間じゃないっ」
そう言って女性は主人を睨む。
この女性もよく見てみると人間ではない。
「こ、この人は違うにゃっ」
慌ててニィナが間に入る。

「…そう、そうだったの」
女性はニィナの説得に幾分か納得する。
「すみません、私の早とちりだったようです」
ペコリと主人に頭を下げる。
「いや、たしかに人間の中にも悪い奴はいるからな…」
「でも…」
「私は人間が好きではない、むしろ嫌いな方だ」
「え?」
「にゃ?」
2人が同時に声を上げる。
「いや、なんでもない」

「そうそう、ニィナを助けていただいたお礼をしなくてはなりませんね」
「いや、気にしないでください」
「そんなわけにはいけません」
女性は主人の意見などお構いなしに話をする。
「あれがあったわ」
ごそごそ。
女性は何かを探しているようだ。
「だから私は…」
主人の声は届いていなかった。

「はい」
女性はカウンターに2つの箱を置いた。
「これは?」
主人が尋ねる。
「どちらか好きな方を差し上げます」
「…中身は?」
「それは言えません。でも、どちらも悪い物ではありませんよ」
「そうか…」

主人はしばし考える。
そしてこう言った。

「どちらもいらないから、ニィナをくれないか?」
「ええっ?」
「うにゃっ?」
2人が驚きの声を上げる。
「それって…」
「私は体が弱いうえに、親や兄弟すらいない」
「………」
「だから、誰か側にいてほしいのだ」
「それだったら、人間でもいいでしょう?」
女性が冷たく言い放つ。
「いや、私の館の周りに人はないな。それに私は人間が嫌いだ」
「さっきも……、そう言いましたね?」
「ああ、私は人が信用できないんだ」
「…さみしいにゃ?」
突然、ニィナが話に割って入ってきた。
「え?」
「ひとりは……さみしいにゃ?」
「ああ、とても…な」
「じゃあ、ニィナを連れて行ってくださいにゃ」
「い、いいのか?」
「ちょ、ニィナ!」
女性が大きな声でニィナの名を叫ぶ。
「にゃっ!?」
「うおっ!?」
「駄目ですっ! 人間のところに行くなんて…」
「その点は大丈夫だと思う」
「え? どういうことですか?」
「私の館の近くにある町には、ニィナみたいなのがいる」
「そ、それって…」
「だから大丈夫だと思う」

主人の言葉に、女性は腕を組んで考える。

「たしかに、それなら大丈夫ですけど…」
「ニィナは、この人の側にいたいにゃ」
「…ニィナ」
「助けてもらったお礼をするにゃ」
「……わかった」
ニィナの気迫に負けてか、女性は渋々承諾した。
「そ、そじゃあ」
「ええ、その人の元に行っていいわよ」
「やったにゃ〜」
ばふっ。
ニィナ嬉しさのあまり主人に抱きつく。
「お、おい…」
「ふふっ、ニィナを頼みましたよ」
「はい。大事にさせてもらいます」
「よろしい」

〜 館に戻る途中 〜


キコキコキコ
行きと同じようにボートを漕ぐ。
「うんしょ、うんしょ」
「ニィナ」
「うにゃ?」
「代わるよ」
「そ、それは悪いにゃ」
「いいからいいから」
主人は構わず、ニィナに代わって漕ぐ。
「うにゃ……、ニィナはどうしたら?」
「そうだな、話でもしようか」
「わかったにゃ」

「ところで、ホテルで会った女性はどういう人?」
「にゃっ、あの人はホテルのオーナーにゃ」
「オ、オーナー!?」
「うにゃ」
「そうか…、だからニィナの事を決めることができたんだ」
「そういうことにゃ」

「これからよろしく頼むよ、ニィナ」
「こちらこそ、ご主人様」


そして、ニィナは主人のメイドとなった。

…か、どうかはわからかったそうな。




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