ホウキ女VSモップ女
「ふぅ……、少し休憩するか」
主人は読んでいた小説を机の上に置く。
そして体を伸ばしたあと、椅子から立ち上がった。
「一階にでも行ってみるか」
主人はそう呟き、書斎を出た。
〜 二階廊下 〜
「そう言えば、ニィナとセティはなにをしているんだろう?」
主人は廊下に出て、ふとそのことに気づく。
2人のことが気になった主人はとにかく一階に向かうことにした。
トコトコ
廊下を主人の靴の音が響く。
「ん? あれは…」
一階に下りる階段のところで主人はある光景を見た。
それは一階の広間で掃除道具を持って睨み合っているニィナとセティの姿だった。
「広間でなにをやっているのだ?」
掃除をやっている雰囲気とは言い難い。
そう考えた主人はしばらく二階から2人を見ていることにした。
〜 一階の広間 〜
「………ごく」
沈黙した空間にニィナの唾を飲む音が響く。
「………」
セティはモップを持ったまま、少しずつニィナとの距離を詰める。
それをニィナはホウキを持って対抗する。
そしてニィナも少しずつセティとの距離を調節する。
あたりが静寂に包まれる。
緊張した空間、2人に間に不穏な空気が渦を巻く。
しかし、その静寂は長くは続かなかった。
「…にゃっ!」
ニィナが掛け声と共にセティにホウキを振りかざす。
「…あまいよっ」
セティは小さな動作でニィナの攻撃をかわす。
そしてニィナがまだホウキを振り下ろしている隙にモップを振り払う。
「うにゃっ! 遅いにゃっ!」
ニィナはセティの攻撃をいとも簡単に避ける。
そのあまりの素早さにセティは舌を鳴らした。
「やりますね」
「にゃっ、セティも強いにゃ」
お互いを称えて再び2人が睨み合う。
「やぁ!」
「にゃぁっ!」
2人同時に攻撃を仕掛ける。
――ガキンッ!
ホウキとモップのぶつかり合う音が鳴る。
ニィナもセティも一歩も引かず、ギリギリと相手を押そうとする。
だが、それも無駄だとわかるとパッと離れてお互いに距離をとった。
「……ふぅ」
「……にゃぁ」
2人ともひとつ息を吐く。
少し落ち着くと、手に持っている武器をギュッと握りしめる。
〜 その頃主人は 〜
「……な、なんて凄まじいんだ」
2人の戦いに主人は額に汗を浮かべる。
「“素早さ”のニィナ、“技”のセティ……と言ったところか」
主人は冷静に2人を分析する。
ニィナの攻撃を最小限の動作でかわし、その隙に攻撃を仕掛けるセティ。
セティの攻撃を人の動きとは思えないくらいのスピードで避けるニィナ。
“素早さのニィナ”に“技のセティ”とはうまく言ったものである。
「お? あれは大和の国の戦い方と言われる“鍔迫り合い”と言うものかっ!?」
ニィナとセティの掃除道具でぶつかり合う姿を見て主人が叫ぶ。
主人はかなり熱くなっているようで、手はいつの間にか握られている。
「うーむ、武器での決着はつきそうにないな」
主人は2人が掃除道具で戦っていることをすっかり忘れている様子。
なぜか冷静に分析を続けていた。
〜 一階の広間 〜
「てぃっ!」
セティがニィナに向かってモップを投げつける。
「にゃっ!?」
ニィナはそれに素早く反応し、ホウキで弾く。
その隙にセティは近寄り、ニィナの手にあるホウキを蹴り上げる。
「にゃにゃっ!?」
ブンブンブンブン――ドスッ!
ホウキはニィナの手から離れ、豪快に回転しながら床に刺さった。
〜 主人は・・・ 〜
「す、凄いぞっ! 熱い戦いだ!」
主人はとても興奮しているようで、声が大きくなっているが本人は気づいていない。
それにホウキが床に刺さるはずがない。
主人にはホウキが剣のように回転して地面に刺さったように見えたのだろう。
「ふぅ……手に汗握る展開とは正にこのことだな」
主人はポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭う。
「………」
主人は無言で2人を見つめる。
そして大事なことに気づく。
「2人はどうして戦っているのだ?」
主人の疑問はもっともである。
だが、今までその事に気づかなかった主人がなによりの疑問だ。
〜 2人はしつこく・・・ 〜
「うにゃっ!」
セティはニィナが繰り出した拳をギリギリの距離でかわす。
そしてニィナの手を掴んで地面に叩きつける。
「まだまだにゃ〜!」
――が、ニィナはセティの腕から素早くすり抜ける。
「な!?」
さすがのセティもニィナの素早さに驚きを隠せない。
その隙にニィナは飛び退き、セティから距離を離す。
「や、やるにゃぁ」
「そ、そちらこそ強いじゃありませんか」
2人が冷ややかな微笑みで睨み合う。
バチバチバチ!
2人の目からビームが出てぶつかり合い、火花が散る。
バチバチバチバチ!
2人はさらにヒートアップして館を揺るがし、2人の足下が10cm程へこむ。
これはもう人間同士の争いじゃない。
天地人と天上人の戦いだ!
いや、神と悪魔の最終決戦か!?
いやいや、冷戦時代のアメ○カと○シアと言った方が近いか!?
それよりもハブとマングースが一番近いかもしれない!
K○F’95〜現在に至るまでの京(仮名)さんと庵(偽名)さんの関係が近いか!?
いつまでライバル面しているんだ?
いい加減にネタが尽きないのか?――いや、もう尽きている。反語!
私もネタが尽きないのか?――いや、やっぱり尽きている。反省!
〜 燃えているあの人は・・・ 〜
「さて、2人を止めに行くか」
冷静になった主人は階段に向かう。
トコトコ
階段を鳴らすように主人が下りていく。
「おいっ! 2人とも止めないかっ」
広間に着いた主人は大きな声で叫ぶ。
だが2人は主人の言葉に耳を傾けず、戦い続ける。
「いい加減に止めないかっ」
主人は再び怒鳴るが2人の耳に届かない。
仕方がないと思った主人は最後の手段を執ることにした。
「すぅ〜〜」
主人はひとつ大きく息を吸い、そして叫ぶ。
「ニィナっ! セティっ!」
「はにゃっ!?」
「はひぃっ!?」
主人の言葉に2人が初めて反応する。
それもお互いの頬を引っ張りながらのこと。
「喧嘩は止めなさいっ」
主人の声に2人は相手の頬から手を離し、主人の元に駆け寄る。
「うんうん」
ひとり納得したように頷く主人。
主人は自分が名前を呼ぶと必ず反応することを見越して2人の名前を呼んだ。
そして主人の行動は成功を収めたのだ。
「さて、どうして喧嘩をしていたんだ?」
主人は優しく2人に尋ねる。
「うにゃぁ、それは…」
「怒らないから言ってみなさい」
「あのですね、どちらが呼びに行くかって…」
セティはそこまで言って頭を下げる。
だが主人はそれだけでは理解できないらしく、続きを促す。
「もうすぐお昼だから、ニィナがご主人さまを呼びに行くって言ったら…」
「………」
主人はなんとなく話が読めた。
だけどそれは口には出さず、2人の意見を最後まで聞く。
「セティが『私が呼びに行く』って言いだして、そのまま…」
「喧嘩になってしまったんです」
「…ふぅ」
主人はひとつため息を吐くと一言だけ言った。
「2人で呼びに来ればよかったんじゃないのか?」
「うにゃ!」
「あっ!」
2人が顔を見合わせる。
その目は果てがつくほど点になっていた。
「なんだかなぁ…」
主人は呆れつつも、ポリポリと頭を掻くだけだった。
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