エピローグ 桜の舞う場所で
エピローグ
『桜の舞う場所で』


4月上旬。
花見には絶好の時期。

「――まったく」

「まぁまぁ、おにいちゃん」

「お前ってヤツは…」

今回も真奈に助けられた。
あのとき――雪が公園に現れたのは偶然じゃなかった。
それは・・・

「気を遣いやがって…」

「でもさ〜、私が雪音さんに連絡したから仲直りできたんでしょ?」

「ああ――そのことには感謝している」

こいつは俺達のことをよくわかっている。
気づけば――雪と真奈も幼なじみみたいなものだ。
そういう意味ではわかるのかもしれない。

「ところで雪音さんは?」

「あ? あいつか?」

俺達は今、夜の公園で花見の真っ最中だ。
だけど、雪はひとりでどこかに行った。
だから俺と真奈は語り合っているんだけどな・・・

「桜を見るんだとさ…」

「桜? ここじゃダメなの?」

「……ダメだろう」

ここはうるさすぎる。
他の花見の客も沢山いて――雪は好まないだろう。

「…う〜ん」

真奈は唸りながら考える。
そして、おもむろにこう言った。

「雪音さん、待ってるよ?」

「はぁ? 雪が――誰を?」

「鈍感だね〜、雪音さんが待つっていったら――おにいちゃんだけでしょ?」

真奈があきれたように言う。
雪が俺を待つ? どういう意味だ?

「そんな気がするよ」

「…そうか」

雪が俺を待っているのか?
そうだな・・・
俺も雪に会いたい。

「ちょっくら歩いてくる」

「雪音さんを捜しに行くの?」

「べ、別にそういうわけじゃない」

本当の事を言うのは恥ずかしいので、ごまかすことにする。

「ふふ、わかったよ。雪音さんによろしくね」

「ああ」

「あははっ、引っかかった」

――しまった!
真奈にハメられた・・・

「…じゃ、じゃあな」

俺はそれだけ言うと、そそくさとこの場を去った。

「がんばってねぇ〜〜〜〜〜」

後ろから真奈の声が聞こえる。
――無視だ無視!

「………」

それはそうと――あいつは俺に何を頑張れというんだ?

コツコツコツ
誰もいない公園に松葉杖の音が響く。
同じ公園でも、ここには誰もいない――あるのは静寂のみ。

「…雪」

その中でひとりたたずむ少女。
雪はひとりでいた。
その背中は寂しそうで
悲しそうで
誰かを待っているようにも見えた。

コツコツコツ
俺は雪に近づく。

「…浩ちゃん?」

雪が俺に気づき、こちらに振り向く。

「なにしてるんだ?」

「うん…」

「?」

雪は俯きながら返事をする。
今にも泣きそうな雪――俺にはそう見えた。

「元気だせよ」

俺は雪の頭に手をおき、少し乱暴に撫でる。

「こ、浩ちゃん〜」

雪が困ったような声を上げる。
こいつをからかうと面白い。

「俺は元気な雪が好きだ」

「浩ちゃん……うん、そうだよね」

雪に元気が戻る。
だが、それも一瞬のこと――すぐに元気が無くなる。

「ごめんね、私のせいで……」

「言うなっ!」

雪の言葉を止める。
お前の言いたいことはわかる。
だが、雪の口から聞きたくない。

「俺は――後悔はしていない」

「………」

雪は黙って俺の話に耳を傾ける。

「雪を守れたこと――それだけで満足だ」

「………ぐす」

雪の目から小さな滴が流れる。
その滴は雪の心を語っていた。

「…雪」

「浩ちゃんっ!」

とんっ
雪が俺の胸に飛び込んでくる。

「…よしよし」

さっきとは違い、雪の頭を優しく撫でる。

「………ぐす」

「もう……泣くな」

「…うん」

雪の返事に俺は満足する。
その返事には元気が含まれていた。

「――ありがとう」

一言。
雪が言ったのはその一言だけ・・・

「…ああ」

だけど、俺はそれだけで十分だった。

雪の言いたいこと
雪の伝えたいこと
雪の気持ち

俺にはそれがわかるから。
言葉に出さなくてもわかるから。

夜の公園で抱き合う2人。
そこに一陣の風が吹く。

そして――その風に誘われるように桜の花びらが舞う。

「きれいだね」

「ああ」

2人は永遠を。
これからも、いつまでも一緒。
それを誓う。

この公園で
二度も2人を引き合わせたここで

桜の舞う場所で・・・




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