灰色の時間
灰色の時間
- HAIIRO NO TOKI -
ここは・・・、どこだ?
なぜ、俺はここにいる?
理由はわからないが、どうやら俺は森の中にいるようだ。
「俺は・・・」
考えてもわからない。
思いだそうにも思いだせない。
記憶が混乱しているらしい・・・。
「どうすれば・・・、いいんだ・・・?」
ザッザッザッ
俺が1人考え込んでいると、誰かがこっちへ来る。
「誰だ?」
足音のする方を見るが、暗くてよく見えない。
ザッザッザッ
足音はどんどん近づいてくる。
俺は足音がする方を見ていると、1人の人が見えた。
「・・・女性?」
俯いていて顔はわからなかったが、髪が長く、華奢な体つきからみて女性のようだ。
いったい、なぜこんなところに女性が・・・?
考えてみるものの、答えがわかるはずがない。
「・・・尋ねてみるか」
タッタッタッ
俺は女性に近づいて、声をかける。
「すいません」
俺は声をかけるが・・・
「・・・・」
女性は俯いたまま答えない。
「あの・・・」
「・・・・」
やはり、女性は答えない。
なんなんだ!?この女性は?
「・・・・」
俺は呆然と立ちつくした。
そして女性も俺の前で立ち止まったまま、動かない。
俺はまたもや考えた。
どうすれば?どうすれば?どうすれば?
いくら考えても、答えはでない。
答えはでないが、考える。
「・・・・」
女性は黙って立ちつくす。
「・・・!?」
ふと、俺はこの女性のことが怖くなった。
なぜかはわからない。
ただ、漠然と恐怖をおぼえる。
トッ・・・トッ・・・トッ・・・
俺は体を小さく震えさせながら、一歩、一歩、後ずさっていく。
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・
今まで動かなかった女性が俺が後ずさった分だけ、前に進む。
「・・・・」
トッ・・・トッ・・・トッ・・・
俺はまた後ずさる。
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・
女性は俺が後ずさった分だけ、前に進む。
「なんなんだよっ!いったい・・・」
「・・・・」
女性は答えない。
来るな!来るな!来るな!!
俺は叫ぶが、恐怖のためか声がでない。
「うわぁぁ!!」
俺はその場から逃げだした。
タッタッタッタッタッタッタッタ
全力で走った。
走って走って走って走りつづけた。
しかし・・・
ザッザッザッザッザッザッザッザ
女性も俺が走ったのを見て、走りだした。
それも、俺の後を走っている。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・、まさかっ!?」
俺の脳裏に1つの事が浮かぶ。
「・・・俺を追ってきてるのか!?」
そ、そんなはずは・・・。
そう思って、俺は振り返ってみた。
「うわっ!?」
振り返ってみると、俺のすぐ後ろに女性がいた。
「・・・!?」
ゴツッ!!
「あっ!」
ズササッ!!
俺は石に躓いて転倒した。
「いてて・・・」
ザッザッザッザッザッザ
女性はそのまま俺の前を走っていった。
「・・・・」
助かった・・・のか?
ザッザッザ・・・
足音が止む。
「えっ!?」
俺はヨロヨロと立ち上がりながら前の方を見た。
「・・・・」
そこには女性が後ろ姿で立ち止まっていた。
ど、どうして止まるんだよ!
心の中でつぶやく。
なぜだ?
そんな疑問が頭の中に広がる。
「・・・・」
無言のまま、女性は俺の方に体の向きを変える。
顔は相変わらず俯いたままだ。
「・・・・」
自分の体から血が引いていくのがわかる。
たぶん、俺の顔は誰が見てもわかるぐらい真っ青になっているのだろう。
体が無意識に震える。
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・
女性がゆっくりと俺に近づいてくる。
俺は後ずさったが・・・
ドサッ!
「あっ?」
どうやら腰が抜けたらしく、地面に尻餅をついてしまった。
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・
そんな俺をお構いなしに女性は近づいてくる。
「く、来るな・・・」
俺は震えた声で言う。
「・・・・」
俺がそう言うと、女性は足を止めた。
俺は今のうちに逃げようとしたが、腰が抜けて歩くこともできない。
「・・・・」
俺がオロオロしていると、女性はまた歩きだした。
ザッ・・・
しかし、一歩進むと止まった。
な、なんなんだ?
この女性の行動はわからない。
いや、それ以前にこの女性は誰だ?
どっから来たんだ?
なぜ、こんなところにいるんだ?
様々な疑問が脳裏を巡る。
わかるはずもない疑問だけが漠然と浮かぶ。
そもそも、俺はなぜここにいる?
果てには自分の事にも疑問を抱きはじめる。
「・・・・」
そんなことを考えている俺に女性はいきなり飛びついてきた!
「っ!?」
ドサッ!!
俺は地面に押し倒された。
「・・・・」
女性に馬乗りされている状態。
そんな中、俺の眼前に女性の顔がある。
「!?」
初めて見る、この女性の顔。
俯いていて、長い髪で見えなかった女性の素顔。
「・・・・」
俺が見とれてしまうほど、今の状況を忘れてしまうほど、女性の顔は綺麗だった。
なんて綺麗なんだ・・・
俺がそんなことを思うのも、ほんの数刻だけだった。
「・・・・」
女性の顔がニヤッとするのを見たと同時に、肩に激痛が走る!!
「ぐわぁぁ!!」
俺は叫んだ。
女性が俺の肩を凄まじい力で噛む。
ブシャッ!!
肩から血が飛び散る。
どうやら、肩の肉を食いちぎられたらしい。
「ぐぅぅ・・・」
あまりの激痛のため俺は唸るような声を上げる。
女性が肩から顔を離す。
俺は女性の顔を見ると、口元には赤黒い血がベットリとついている。
綺麗な顔には似合わない赤黒い血。
しかし、女性は何事もなかった様に平然な顔をしている。
「ぐぅ・・ぅ・・」
俺は喋ろうにも痛みのため声がでない。
でるのは唸り声だけだった。
「・・・・」
そんな俺を女性は平然とした顔で見つめる。
いったい・・・なんだ?
俺は自分のおかれた状況が理解できなかった。
「・・・・」
女性は黙って、ただ俺を見つめている。
・・・なんて綺麗なんだ。
俺は痛みを忘れ、そう思った刹那!
ガブゥッ!!
「ぐわぁぁぁっ!!」
女性が無傷の方の肩に噛みつく!
な、なんて力だ・・・
女性は人とは思えないほどの力で噛む。
グシャリ
肩の肉に歯がめり込む音がする。
「ぐぅぅ・・・」
耐えきれない痛みで自然に唸り声がでる。
ギリギリギリ
女性が肉を食いちぎろうとする。
「ぐぅぅぅぅ・・・」
俺は声にならない声を上げる。
ブシャリィィィ!!!!
女性が俺の肩の肉を食いちぎった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
・・・・・
暗い森の中
俺の叫び声だけが、虚しく響いた・・・
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