エピローグ 春の到来
エピローグ
『春の到来』


2月14日
今日は男性が落ち着かない日である。

「浩ちゃん、はいっ」

「あ? チョコ?」

「そうだよ、今日はバレンタインだもん」

「そうだったな」

俺は雪からチョコを受け取る。
俺達はあの日を境に付き合いだした。
――と言っても、いままでと大して変わらない。

「今年は特別なんだよ〜」

「特別?」

「うんっ! 今年は“幼なじみ”からじゃなくて“彼女”からなんだよ」

「ば、なにいってんだよ」

いつもいつも、恥ずかしいことをサラッと言う。
まったく・・・
こっちが恥ずかしくなるじゃないか。

トコトコトコ

「――で、結局はどうなったんだ?」

帰宅中。
俺はあのことに関して雪に尋ねた。

「うん。両親とも行かなくなったの」

「そうか、じゃぁ――雪の勇気ある告白も意味がなかったんだな」

「そ、そんなことないよ〜」

少しからかうと、雪は頬を膨らませながら怒る。
とんだ茶番劇である。
雪の両親が遠くに行くので、雪は俺に告白したのだが・・・

「まさか、予定が急遽変更とはな…」

「私もびっくりだよ〜」

そう――雪の両親は遠征を取りやめた。
それにより、あと数年はここに住むことも決まったそうだ。

「雪がいるのなら、毎日でも顔を合わせることができるじゃないか?」

「そうだけど…」

「意味がなかったんじゃないか?」

俺は冗談半分に言う。
本当は意味が無いはずがない――それはわかっている。

「そんなことないよっ、私は望んでいたことが叶ったんだから!」

「………」

「自分勝手な望みかもしれないけど、浩ちゃんが私の側にずっといてくれること――それが私の望み」

「ああ、わかってる」

「ふぇ?――浩ちゃんのイジワル」

「男というのは、好きな女の子には意地悪をしたくなるものなんだ」

「じゃぁ、許してあげる」

現金なヤツ。
まぁ、そういう雪を俺は好きなんだが・・・

「…ねぇ」

「ん?」

「もうすぐ春だね」

「そうだな」

もう、そんな季節か。
俺の嫌いな冬が終わる――いや、嫌い“だった”と言う方が正しいか。

「浩ちゃんの嫌いな冬が終わるね」

「そうだ――嫌いだった冬が…」

「だった?」

「ああ、冬は心が冷えて寂しくなるから嫌いだった」

「…今は?」

「今は嫌いじゃない、好きでもないがな…」

そう、今は嫌いじゃない。
なぜならそれは・・・

「どうして?」

「それは――」

雪が俺の側にいるから。
いつまでも俺の側にいてくれると言ってくれたから。

「それは……なに?」

「秘密だ」

「むぅ〜! 浩ちゃんのケチ〜」

季節は――
寒かった冬に終わりを告げ、暖かい春を迎える。

2人の時が新しい時間を刻みはじめたように――
季節もあらたな時を刻む。

春はもう――すぐそこまで来ている。




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