序章〜ポール・スターを追いかけて〜
8月5日 大阪市〜福井県越前町

 
うだるような暑さで目をさます。ごくごく平凡な夏の一日の始まり。しかし今日は何かが違う。この期待と適度な緊張感。そう、まぎれもなく出発の日がやってきたのだ。軽く昼飯を食い、ガレージに降りると、今回も旅の相棒、荷物もすでに準備万端のコレダスクランブラ―が待つ。今年でこいつとのコンビも実に三年目、今日のために磨き上げ、整備もぬかりなしのつもり。こいつもこの旅を心待ちにしていたのか、今日は機嫌よくエンジンも一発始動。
 
 昼前、愛犬サーブのみに見送られ自宅を出発。いつもの見慣れた街角もどこか違って見える。連日の炎天下の市内を抜けて、お気に入りの府道を北へ、今日中には日本海へ出てしまう予定だ。
 
 京都市内の混雑を避けるため、宇治から山科を通り、一気に琵琶湖岸国道1号線へ出る。草津からは国道1号線は右に分かれ、ここから新潟までは北国街道こと国道8号線のお世話になる。
 
 それにしても夏の近江盆地は大阪をはるかにしのぐ灼熱地獄。アスファルトも溶け、8号のような一桁国道は大型が多いことも相まって、深いわだちが出来ている。荷物満載の原付にとってこれほど怖いものはない。幾度かハンドルを取られガードレールに突っ込みかけた。
 
 たまらず路肩魂奈良支部長I氏お薦め、琵琶湖周道路「さざなみ街道」へエスケープする。左にきらめく琵琶湖を感じながらワインディング…と期待したが、今日は日曜日、行楽帰りの車で大渋滞。歩くようなスピードでやっとの思いで彦根をパスすると渋滞もだいぶマシになる。
 
 まだまだ水のきれいな湖北を抜けると8号は山の中へ、やがて中央分水嶺を越える。愛発関からは緩やかな下りが続くき海からの風が気持ちいい。約一年ぶりの敦賀を過ぎると間もなく右手からは山がせり出し、夕暮れの日本海をバックに走る。そして原付OKのシーサイドライン「河野有料道路」を通り、太陽も日本海へ沈む。そろそろ寝床を探す時間帯になる。
 
 すぐにキャンプにちょうどいい砂浜を発見。しかしキャンプは禁止らしい。
近くに清掃中のバアサンがいたので話し掛け、一緒にゴミ拾いを手伝うと、一転キャンプ特別許可取得に成功。初日はここ越前町千飯崎のこじんまりした海水浴場で寝ることに。そうこうするうちに周りもすっかり暗闇に包まれ、この旅初めての自炊晩飯にとりかかる。
 
 それにしても夏の日本海側は夜でも暑い。米の炊けるまで、半ば衝動的に夜の海に飛び込む。海蛍か、しぶきがあがると人魂のように青白くゆらめく。空を見上げると満天の星、トワイライトスイム…。
 
 ほどよく疲れて、じっくり蒸らした米もふっくら。腹もいい感じになり、初日の今日は早々とテントへもぐりこみ、そして就寝…が耳元でいきなり「プ〜ン」。明かりをつけるとテントの中にはなんとおびただしい数の蚊が!しかも半端じゃないデカさ。泳いでいる間、不覚にもテントをあっけぱなしのままだったようだ。とりあえずテントを開けて、蚊を追い出そうとするが、さらに次から次へと入ってきて逆効果。 
 結局テントを締め切ってのライト片手に蚊一匹ずつとのバトルとなってしまった。

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Y.K