8月15日 豊頃町〜標茶町

 昨夜遅くから断続的に雨が降っていたせいか夜中に何度も起こさる。眠い目をこすりテントの外へ。周りには濃い霧が立ち込めてかなり肌寒い。昨日のライダー達に顔を出してから、今日は早めの出発。

 昨日の朝のTシャツ一枚の陽気からは想像できないほどの今朝からのこの極寒。トレーナーの上にジャケットを羽織って挑む。豊頃からしばらくは山の中を走り、やがて右手からは雄大な太平洋が近付いてくる。海からの風がこれまた冷たい。たまらず、さらにその上にカッパを追加はいきなり今年の道東は、かなり厳しそうな予感。さらに東へ、白糠を過ぎ、今度は左側に湿原が広がり、前方に煙突群が見えてくると、北海道第三の都市釧路はもうすぐ。

 市内は道東観光の基点都市だけあって、相当なにぎわいを見せる。カモメ飛び交う、薄っすらと霧をまとった幣舞橋もなんともエキゾチック。街全体的に、なかなかすっきりしていて好感が持てる。ちょうど昼飯時ということで、全国的にも有名な和商市場へ。ここはイクラ、ホタテ、タコ等の海産物を自由にトッピングできる「勝手丼」が超人気。

 市場前はすでにバイク&ライダーで一杯、さすがはメジャースポットである。その中で一台見覚えのあるカブが一台…背後ろから誰かが肩をたたく!?昨日清水でとうきびを一緒に食ったカブあんちゃんだ!早速、彼と市場を回ることに。まず、どんぶりにライスを買うのだが、海産物の味をより深く味わうため(?)「ミニ」を選択。すると、後はオバチャンに言われるがまま、気付いたらすでにトッピング完了…。結局二人とも希望もクソもなかった。味のほうはというと、これはさすがといわざるを得ない。しかし空腹の僕達にはこれはもったいなすぎる。味わうまもなく一瞬で胃袋の中へ。

 そうして、さらに東を目指すカブあんちゃんと再開を誓い、僕は北上、道東奥地を目指す。市街地を抜けると、すぐ左手に湿原が木々の間を見え隠れしはじめる。やがて国道から左に折れ湿原を走る一本道へ。この先にある細岡山という小高い山から釧路湿原を一望するためだ。やがて駐車スペースが現れここからは徒歩。といってもほんの数百メートル、まずは展望台横のレストハウスで、釧路湿原についての懇切丁寧な説明を受けてから、とうとう湿原を望む。雄大な湿原が山すそまで広がり、その真ん中を釧路川が悠然と蛇行しながら流れる。古来から竜や大蛇にたとえられてきた、本来の川の姿である。視界には人工物などは一切見当たらない。しばし見入ってしまう。

 そして再びコレダは北へ、釧路川をさかのぼる。そして標茶町からは国道をそれ、農道を通る。視界が開け、ここから周りは見渡す限り一面の牧草地。大海原の如く地平線まで続いている。一年ぶりのこの道東の風景、そして干草の匂い―。

 いくつもの丘を越え、ようやく今日の目的地である「多和平キャンプ場」に到着する。このキャンプ場は牧草地の丘の上に位置し、自然の丘を巧みに利用した、なだらかな傾斜のあるサイトがなかなかイイ感じ。すぐ気に入った。早速テントを張り、街へ買出し。買出しといっても、街まで20キロメートル弱も余裕であるのが北海道のオソロシイところ。牧草地を抜け、山を下り、やがてここも丸一年ぶりの摩周の町。

 まずは地図にある「弟子屈公衆浴場」を探すがなかなか見つからないので、地元の酒屋のオヤジに聞いたとおり行ってみる、と当別温泉「亀の湯」というところに出た。…なんか違うがまあいい。それにしても古い温泉。古いといっても「歴史」のにおいとかそんなんじゃなく、昭和な(?)ボロさ。気持ちよさそうに眠っている番台のバアさんをタタキ起こし、金を払って入浴。どうも近くにキャンプ場があるらしく、中は意外にも旅人でごった返す。地元の人など皆無なので、みんなであれこれ騒ぎながら、の入浴。

 そしてバイクに戻るとシートが濡れている!?雨かと思うと、なんと細かい霧状の霧雨。ヤバイ、雨具忘れた!あわてて買い物を済ませ、多和平に戻る。

 山間部に入って行くにつれ、どんどん霧は濃くなる。もうすでに全身びしょぬれ。そんなことはどうでもいい、「前が全く見えない」のだ。ヘッドライトの光が霧にまともに乱反射し、前方に見えるのはメッチャ明るい映画のスクリーンのみ。街灯なんて勿論ない。ただただ横のガードレールとの距離で、自分がまっすぐ進んでいることを知る。なおまずいことにテールライトが玉切れを起こしているのだ。これで車たちもこっちの存在に気付くはずもなく、フルスピードで真横ギリギリを通過してゆく。20キロメートルはなんて遠いのか。

 それでもなんとか農道の入り口を見つける。農道に入ると事態はさらに悪化、頼みの綱のガードレールがない!?ここは力ずくでヘッドライトを下向きにして、道を踏み外さないよう、ゆっくりゆっくり進む。ようやく丘の下まで来た。最後はもうカンで進む。そしてようやくテントサイトにたどり着いた。

 そして濡れ鼠がもそもそとテント入る姿を周囲の怪訝な視線が突き刺さるのであった。体力などもう残っていないのでさっさと寝る。今日は地獄を見たような一日だった。


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Y.K