〜最東端、納沙布岬で思うこと〜
8月17日 根室市〜釧路市
 朝、今日も今にも雨が降りそうな曇空。さらに昨日に引き続き外は極寒。いつものようにみんなを見送り、気温が少しでも上がるのを待ってから、ありったけの服を重ね着+カッパの最強装備で出発だ。まずは今日の目的地、いや今回の旅の目的地といってもいいだろう、本土最東端の地納沙布岬を目指す。

 それにしても、この納沙布岬の根室半島、何にもなさ過ぎるにも程がある。まさに最果ての様相だ。そして根室市街から東へから走ること約20キロ、白く巨大な「平和の塔」が見えてくると、そのドン突きに納沙布岬がある。

 岬周辺にはおみやげ屋、食堂が軒を連ね、朝も早いというのにライダーも含め結構な人出。ここから納沙布岬灯台までの数百メートルは徒歩となる。岬の先の先まで降り、海峡を望む。すぐ沖には、ぺちゃんこな水晶島、そして正真正銘の日本の領土でマジの最前線である無人島、萌茂尻島が見える。この島を越えるてしまうと、基本的に「ズドン!」なのだ。海峡には巡視船がひっきりなしに往来し、警戒にあたる。ここでは日本人にはなじみの薄い国境という緊張がひしひしと感じられた。

 さてさて、それにしても海からの風が冷たい。たまらず食堂に入ると、「ストーブ入れてるからドアはきちんと閉めてくれ」とのこと。ストーブ!?今八月なんですけど…。でも実際あたると、これがあったけ〜のだ。改めてエライとこに来たな、なんて思う。

 再び根室市内に戻りそして市内を抜け、カニで超有名な太平洋岸の花咲港へ。ここからは国道から離れ、厚岸まで海沿いを走る道道142号でさらに海岸線をトレース。左は断崖絶壁の太平洋、右には一面の牧草地が広がる。最高のロケーションだが天気が悪いし、何と言っても寒い!!やがてムツゴロウ動物王国を通過する。右手には手付かずの湿原、名もなき湖が点在し、まさに原風景の中の走行。やがて左前方に太平洋の荒波にもまれる岬が見えてくると霧多布。

 霧多布はその名のとおり年中霧が多く、断崖絶壁に四季折々の花が咲くという幻想的な岬。駐車場にバイクを止め、岬まで歩く。今日は幸い霧は晴れ、低くたれ込めた雲が、海と空の境界を鉛色にぼかす。独り、徐々に狭まる断崖の細い一本道を行く。厳しい海風に草花がなびき、カモメたちは荒波の上をかすめて飛ぶ。明るい雰囲気と捉えられがちな北海道の自然であるが、したたかで厳しい自然美がここにはあった…。

 霧多布を発ち、再び道道は断崖のうえを走る。いくつもの湿原、岬を越えようやくコレダは厚岸へ。厚岸湾は日本有数の天然カキの産地。湾の真中には「牡蠣島」と呼ばれる、名のごとくカキが固まって出来た島が浮かぶ。ちなみにカキは僕の大好物、ということで、前々からこの厚岸をかなり楽しみにしていたのだが、ここで大問題が生じる。なんかさっきからこの極寒のせいか喉が痛く鼻水が止まらないのだ。そんで牡蠣はこういう体が弱った時に実に中りやすいらしいのだ。ここで運命の決断が迫る。今は何と言っても旅の途中だし、一度あたると牡蠣は二度と喰えなくなるそうだ。というわけで余りにもリスクが大きすぎるということで、今回は断腸の思い出カキを諦めることに(泣。なにやらデッカイ落し物を厚岸に残し、未練を振り払うかのように、さらに西へコレダは突っ走る。

 厚岸からしばらくは国道を走り、再び海岸線沿いの道道に。このあたりも、強烈な断崖の上を行く。そろそろ寝床を…と思い、地図で近くにある「厚岸道立自然公園来止臥野営場」を捜す。しかしなかなか見つからない。人に聞こうと思っても人がいない!右往左往してやっと見つけたこのキャンプ場、なんか狭い上に荒れ放題でもちろん管理人などいない。吹きさらしで異様な雰囲気。しかも断崖絶壁の上で柵など全くなし。夜トイレに行くとき足を滑らしたらハイ、オワリである。

 ハッキリ言ってココに一人で泊まる勇気はなかった。極寒の断崖道道を抜けようやく釧路にたどり着いたときもう日はとっぷり暮れていた…。手ももう、かじかんで動かない。今日は屋根のあるところで寝なければ、ということで、今日もライダーハウス泊に。地図で釧路市内のライダーハウス「カスタムガレージ」を探すがこれまた、なかなか見つからず、通りがかりの実に親切なおばさんに連れて行ってもらう。オ―ナーもバイク屋で、下の作業場には何台ものレストア街のバイクが置いてある。今日は僕のほか、チャリサークルの四人組と、一人旅のチャリダ―さん。やっぱり盆を過ぎると少し寂しい。

 しばらくすると夜空に轟音が響く。外に出てみるとどうやら近くで花火大会始まったようだ。すると先ほどライダーハウスを教えてくださったおばさんが表に出てきた。このおばさんは実はこの裏に住んでいるらしい。人当たりよく、話しても楽しいおばさんだ。改めて先ほどの礼を言う。そして、おばさん曰く花火大会は近くの釧路川でやっているらしく、チャリダ―さんと川を目指して歩いていくことに。

 さすがは大都市釧路、どでかい花火が次から次へと上がり凄い迫力で退屈はない。しかし寒さに震えながら見る花火は生まれて初めて。一足早い北海道の秋の訪れ、今年も夏が過ぎ行く…花火の轟音はそんな物寂しさをしばし忘れさせてくれた。近くの風呂に寄ってからライダーハウスに戻る。また冷たい風が僕を吹き付ける。チャリダ―サークルのメンバーは、明日朝早いらしく今日は早めに寝ることに。

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Y.K