8月19日 広尾町〜千歳市

 朝起きるともうすでに二人は出た後だった。日もかなり高い。早速、メシを炊く。すると一人のオヤジがニヤニヤして近づいてきて、なにやら話しかけてきた。このオヤジ、地元広尾の銀行の支店長だそうで、暇があれば、他所から来た人に、ここ広尾町の感想を訪ね歩いているらしい。こっちとしては、そんなに町に出歩いたわけではないので、無難に切り返すと満足した様子で話の勢いはさらに増す。僕が経済学部である事を知ると、水を得た魚のように、話題は拓銀に始まって道路特定財源まで話は止まらない…。やがてそのオヤジも満足したのか去っていく。あれやこれやでもう随分遅くなってしまった。すると今度は掃除のオバチャンが、瓶一杯のコーヒーを差し入れてくれた。実にありがたい。身も心も暖まり、広尾を出発する。

 今日もコレダは南を目指して走る。広尾から先は日高山脈が太平洋に突き出している。ここからは急峻な崖の下の走行となり、ここ一帯の道路は別名「黄金道路」と呼ばれている。というのは断崖が海のそばにせり出しているため工事は困難を極め、完成まで黄金を敷き詰めるほどの、莫大な金額と時間が費やされたといわれ、この名がついたという。 今でも実にあちこちで保守工事が行われており、今でもかなりの額が投下されているようだ。さらにその工事のため、あちこちで対面通行をくらい、思ったように前に進まない。それでも黄金道路を抜け、庶野からは国道を外れ、道道を通って襟裳岬を目指す。

 このあたりは北海道随一の心霊スポット、百人浜が左手に続く。海までは荒涼とした原野が続き、誰もいない浜は昼間といえどもやはり不気味といえば不気味だが、遠くに見える襟裳岬まで弓のように美しい弧を描き、海の青と草原の緑との絶妙なコントラストを演出する。百人浜は僕の心にはその美しい自然美が刻み込まれた。

 やがてコレダは襟裳岬へ到着。そこは北海道の背骨、日高山脈が太平洋に突き出す先端。今日は観光客もかなり多い。十分ぐらい歩き、岬を望む展望台に着く。岬は尾根がそのまま海に没したという感じで、荘厳な雰囲気が漂う。有名な襟裳岬の濃霧は今日はすっかり晴れ、両側の海岸線はゆるやかな弧を描き、どこまでも見渡せる。時間も押していた関係、岬観光は早めにすませ、ここからは一路、北西へ進路を取る。再び国道と合流し海岸線をハイペースに。海風が少し冷たいが、ちょうど太陽が正面に来てぽかぽかいい感じ。西海岸ではこの時期コンブ漁が盛んで、海岸のいたるところがコンブで埋め尽くされ、一面黒光りしている。

 浦河、三石と海岸線の集落を過ぎ、海岸線を流していると、一台の荷物満載のチャリが視界に入る。南では珍しいチャリダ―と思い追い越しざまに合図しようとふと見ると、なんと昨日広尾で会ったあのチャリダ―だった!向こうもびっくりした様子。二人とも道脇に停め「もうとっくに追い越したと思ったは!」「原チャ遅いね〜」などと再開を喜ぶ。彼の「日本一周フラッグ」に寄せ書きをし、記念撮影。

 そして又の再開を誓い、またそれぞれ旅立ってゆく。これだから旅は止められないのかもしれない。こちらはさらに北上を続け一気に新冠、門別、鵡川を駆け抜け、今日も夕焼けに映える樽前山に迎えられ、苫小牧沼ノ端へ。ここからだと、もう千歳は目と鼻の先。

 千歳はなんかもう第二のふるさとの街、といったような感じ。妙にほっとしてしまうのだ。見慣れた町並を走りぬけ、今夜もちとせライダーハウスに滑り込む。もうすでに部屋には明かりがともり、駐車場には今日も北海道を駆け抜けたバイクたちがしばしの休憩をとる。ピーク時に比べると人は少ないが、なぜか今日のメンツ全員アツイ関西人ばっかり。今晩は遅くまで関西弁が響き渡るのである。

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Y.K