超4話『天使と悪魔』
超4話
『天使と悪魔』


「……んだ?」

ふと気がつくと、午後の授業が始まっていた。
自分の席で突っ伏していたらしく、机の上はあのときのまま。
違う点と言えば、モナが置いていった弁当ぐらいである。

「さて、腹も空いたし食うか」

授業中などお構いなしに、俺は包みを解き弁当を取り出す。
すると一緒に姿を現した一枚の紙。
俺はさっとそれに目を通す。

『お兄ちゃんのバカっ!』

なかなか手厳しい言葉。
この兄をバカ呼ばわりするとは我が妹ながら情けない。
・・・と、まだ続きがある。

『私をかばってくれてありがとう、格好よかったよ』

うっ、うぅ・・・なんていい妹だ。
俺のハートがこの言葉に揺さぶられたぜぃっ!

『P.S. お兄ちゃん、五月さんを許してあげてね』

お、お前はなんていい奴なんだ。
あんな胸なし暴力女を許してやってくれだなんて・・・

「うぅ……ぅぅ…」

「マ、マサト? なに泣いているのよ?」

「モナの手紙……読んでみろ」

俺は反省の欠片も無い面を見せる五月にモナの手紙を渡す。

「モナの奴……お前は自慢の妹だ…ぅぅ」

「………」

「こんな神でさえ見放す女を許してやれってさ…」

「………」

「許す価値がこれっぽっちも無い奴を許してやるなんて…」

ああ、なぜだか隣から痛い視線が送られてくる。
感激に浸っている俺の邪魔をしないでくれぇ〜〜

「モナは天使だ……いやっ、超天使だっ!」

「私は悪魔かいっ!」

「ハッキリ言ってそうだっ! お前は悪魔の申し子だっ!」

「どっちが…」

「うわっ、こっちを見るな! 俺は仲間になんかならんぞ?」

そう言って俺は大袈裟に手を振ってイヤイヤする。

『こらー! そこっ、いつもいつも授業中だと言っておろーーがっ!』

なんだか教師はご立腹の様子。
やれやれ、ここは大人しく引き下がっておくか・・・

ガツガツガツ・・・

することが無くなった俺は弁当に手をつけたのだが、1秒で食べてしまった。

(ああ〜〜、暇だなぁ〜)

俺の席は窓側の一番後ろだから、他の生徒がよく見える。
その点を利用して周りをグルッと見渡す。
だが、特にめぼしい物は無かった。

(そういや、五月にリベンジするのを忘れていた)

俺は自分の成すべきことを思い出すと、その為に思考を巡らせた。
そして閃く。

(どっかの主人公のように、エロ小説でも書いて見せてやろう)

思い立ったが吉日。
俺はノートを一枚やぶりとると、さっそくエロ小説を書き始める。

………

(よしっ、完成だ)

俺は完成したエロ小説を小さく折り畳んで隣の席に放り投げた。

「…ん?」

それに気づいた五月は、丁寧に開いていく。
そして朗読しはじめると、なにを思い立ったのか、サラサラとノートに書き出した。
んで、書き終わるとやぶりとり、折り畳んで俺に投げつける。

(なんだ? 読めってことか?)

俺は投げつけられた紙にさっと目を通す。
・・・が、これまたすごいこと。
五月の小説は俺のものより遥かに上回っていたのだ。

(これなら一発ヌけそうだな)

思い立ったが吉日。
俺はそう直感で感じ取ると、ズボンのチャックに手を持っていく・・・

スパーーーーーン!!

静かな教室に響くハリセンの音。
俺の顔面に叩きつけられ、一瞬、気が遠くなった。

「…ぶぅっ」

鼻血が吹き出したのは言うまでもない。
俺の鼻からボタボタと血がたれだした・・・

(あんにゃろー! なんてことしやがんだ〜)

ポケットからティッシュを取り出すと鼻の穴に詰める。
これで応急処置はOK!

「ふわぁぁぁ〜〜」

なんだか眠たくなってきた。
だったら寝てしまおう・・・そうだそうだ。

「ぐぅ〜」

んで寝た。

………

「放課後だーーっ!」

それだけ叫んで教室を出る。
もち、カバンは持っている・・・空っぽだけどな。

タッタッタッタ・・・

少し駆け足気味に帰ると、校門を出たところで前方に見知った人物を発見!
その人物を捕獲するために気づかれないように駆け寄る。

そして・・・

「モ〜ナっ!」

「…きゃっ」

後ろから抱きつく。
端から見たらカップルに見えるかもしれない、だがそれは錯覚だ!
俺達は正真正銘兄妹である・・・以上。

「お、お兄ちゃん?」

「いや、違う」

「ど、どうして?」

「俺はモナの兄ちゃんだ!」

「あ、あはは」

半分呆れ気味のモナ。
俺も自分で言っててバカだと思う。

「今、帰りか?」

「うん」

「じゃぁ、手をつないで帰ろう」

なんだか昔を思い出し、ふとモナの手を掴む。
するとモナはポッと頬を赤く染め、恥ずかしそうに俯く。

「可愛い奴だな〜」

「か、からかわないでよ…」

「いやいや、兄としては可愛い妹は自慢できるからな」

「…もう」

そう言いながらも満更でもない様子。
妹も女の子だよな・・・誉められて嬉しくないはずがない。

「それより、大丈夫?」

「頭はちょっとばかしヤバイかも…」

「違うよ〜、お昼に蹴られたところ」

「知らんっ」

「…見せて」

妹が俺の顔を覗き込んでくる。
そして驚愕の表情をした。
なんだなんだ? 俺の顔は原形をとどめてないくらい変形しているのか?

「うわぁ〜、靴の跡がピッタリだね」

「………」

「綺麗なくらい跡がついてるよ」

なんとなく妹が嬉しそうなのは気のせいか?
ニコニコ俺の顔を見ているのは、やはり気のせいなのか?

「嬉しそうだな?」

「え? そ、そんなことないよ…」

「なぜどもる?」

「あ、あはは……お兄ちゃんに助けてもらったから…ちょっとね」

お前って奴は・・・やっぱり天使だ!
地上に舞い降りた人々の希望!
この腐敗に満ちた世界を救うことができる唯一の存在!

「わはははははははははは!」

「お、お兄ちゃん?」

「さぁ、共に帰ろうではないか……エンジェルマイシスター!」

「え? ええ??」

俺は戸惑っているモナの手を引いて我が家に向かった。
俺達の帰る場所。

天使の住む場所へ・・・

「わはっ、わはっ、わははっ!」

「お、お兄ちゃんが壊れた……もともとだけど






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