超9話『厳しい現実(笑)』
超9話
『厳しい現実(笑)』


キーンコー・・・(カット)

いつもより一文字カットしてチャイムが終了。
これで全ての授業を終えた俺は即座に教室を飛び出した。

そう・・・飛び出したかった・・・

「ちょっと、マサト」

「なんだよ? 俺は急いでいるんだ」

「なんにも用事がないのになにを急ぐのよ?」

先を急ぐ俺にさらっとキツイ一言をかます五月。
どうやら五月には俺がすご〜く急いでいる姿がわからないようだ。
無知とは罪よのう・・・

(ならっ! 俺様が直々に言ってやるしかないっ)

「よーく聞けっ! そこの大阪平野並ツルペタ暴力女!」

「…なっ!?」

五月の顔が驚きの表情に歪む。
だが、俺はそんなことは無視して話を続ける。
これからが肝心なのだ。

「俺様はある大きなプロジェクトの為に毎日大忙しなのだ」

「ぷろじぇくと〜?」

五月が疑い100%の眼差しを向けてくる。
俺はその眼差しをものともせず、前進した。

「そうっ! 自由に羽ばたく鳥になるためにっ!!」

そしてニカッと女なら誰でもコロッとイチコロしてしまうほどのスマイルをした。

(俺の台詞って、朝のモナが少し入っているよなぁ…)

その場を誤魔化すために適当に吐いた言葉が少し気になった。
だけど、今の俺にはそんなことはどーでもよかったりする。
ただ単に早く家に帰りたいだけなのだ。

「んじゃな」

「…あ」

「ん?」

「アホかーー!!」

ドガキッ!?

「ぶへっ!?!?」


五月が怒鳴ったかと思うと、俺の顔に蹴りが見事に決まった。
そして俺はその反動により・・・

ひゅ〜〜〜〜〜〜〜パリーン!

教室の窓ガラスを突き破って、地面に落ちていった。

ひゅるるるるるるるるるる・・・

どんどん地面に吸い寄せられる俺の体。
そのとき俺は思った。

(俺の教室って……確か三階だったよな…?)

ズボッ!!

…ってなことを考えている間に地面に刺さってしまった。
自分でも信じられないが、見事なまでに逆さまに突き刺さっているようだ。
足と手は動くのだが、顔が動かない・・・っていうか、なんにも見えない。

(だ、誰か助けてくれ…)

手足をバタバタと動かすが、周りに人の気配を感じられない。
どうやら俺のしていることは無駄なことのようだ。

『誰が大阪平野並だー! マサトのバカー!!』

そんな俺に遥か彼方から五月の怒りの言葉が聞こえてくる。

そして俺の意識は薄れていった・・・

………

「きゃぁぁ〜〜!? お、お兄ちゃん?」

近くでモナの声が聞こえる。
どうやら俺は死んでいなかったようだ・・・

(助けてくれ〜〜)

言葉をだせない俺は足をバタバタと振りまくる。

「あ、暴れないで〜! 助けられないよ」

・・・ピタッ。

俺はすぐさま足を止め、モナが助けてくれるのを待った。

「うーんしょっ、うーんしょっ」

妹が悩殺ボイスを発しながら俺の体を掴んで引っ張る。
どこら辺が悩殺なのかはマニアにしかわからない世界だ・・・

・・・すぽっ!

スッポンスポスポってな感じで俺の頭は地面から抜けた。
俺は体いっぱいに空気を吸い、肺を満たす。
久方ぶりの空気はとてもとても美味かった。

「ふぅ…、助かったよモナ」

「う、うん。それよりどうしたの?」

「いや、それは聞かないでくれ」

ションボリと俯きながら俺が言うと、妹は明るく『いいよ』と言ってくれた。
言いたくないのではないのだが、説明するのが面倒くさいからヤダ。

「さて、帰るとするか」

「そうだね」

そして俺達は兄弟仲睦まじく帰路についた。

………

「モナ、兄ちゃんの腕に抱きつけ」

「き、急にどうしたの?」

「いや、なんとなくそうしたくなったのだ」

そう言って俺は腕をグイッとモナに向ける。
そんな俺にモナは顔を赤く染めながら困ったような表情を向けた。

「気にするな、俺達兄妹だろ?」

「うん、だけど……いいの?」

「あたりまえだ! 俺が言ったんだからな」

「うん! じゃぁ…」

モナはニッコリ微笑むとギュッと俺の腕にしがみついてくる。
俺は腕に妹の体重を感じることができ、少し嬉しかった。

「えへへっ、ホントは一度こういう風にしてみたかったんだ〜♪」

「それはよかったな」

「兄妹だから、こんな事をしてても怪しまれないよね?」

「それはどうかな?」

ふとモナの言葉に疑問を感じた。
怪しまれないのはテレビやドラマの中での話だ。
現実はそうでもないのだよ・・・

「え?」

「俺達を知っている人間は怪しまないだろうが、知らない人間はどうだ?」

「…あっ」

小さな声をあげて、口に手を添えるモナ。
俺の言いたいことがわかったのだろう、少し顔に不安の色が広がる。
そして俺は現実を突きつけることにした。

「妹よ、これから俺が現実を語るからよーく聞け」

「うん」

「オッホン!
 俺達は血の繋がった兄妹であるが、年齢が年齢なので知らない人間が見たら恋人同士ともとれる。
 そして現在の流行は“妹”。
 義理の妹が巷で大ブレイクしている昨今の時代に、『おにーちゃん☆』なんて呼ばれるのは男のロマン!
 いや、夢! 希望! 生きる原動力といっても過言ではないっ!
 ちなみに『おにーちゃん』ではなく、『おにーちゃん☆』がポイントだ。
 星印があると無いとでは大違い、雲泥の差、月とスッポン、灯台下暗しと大正デモクラシーだ!
 それはいいとして、そんな世の中の目が変わっている今の時代に俺達の状態を見た人間はどうだ!?
 『ああー、あの兄妹ってアレよね〜?』って言うに違いない!
 アレってなんだよ? 俺達は見せもんじゃねぇーし、ただ仲がいいだけだって叫びたくもなる。
 その上、俺のダチなんかは『お前と妹ってデキてんじゃねぇーの?』なんて言ってくる毎日……。
 そんな中で可愛い妹と仲良くできるはずが無く、そしていつしか兄妹は不仲になり……。
 ああーー!! それはだけは避けたいのだが、現実はいつの世も過酷だ。
 これが試練だとばかりに体の至る所に無限の限り重荷を降らせてくる……人間限度ってものがある。
 んで、以上の事から逃れる方法はひとつ。
 俺達兄妹が正真正銘の恋人同士になること! そうすれば包み隠さず仲良くできる。
 それだけじゃない、あーんなことやこーんなことも朝でも夜でもやり放題で一石二鳥!
 こんな可愛い妹なら誰だって拒むはずがない! ちなみに俺だってそのひとりである。
 こうなったら、さっさと既成事実を作ってしまって形にしてしまおう!
 そうだ……それがいい! そうしようっ!!」

「…ふぇ〜」

全てを語り終えた俺に目を丸くして見つめるモナ。
それは無理もないのかもしれない・・・現実を直視したのだからな。

「つまり、私とお兄ちゃんが恋人になればいいの?」

「それだけじゃない、すぐに帰って“ヤル”って言ってるんだ」

「あ、そうなんだ……って、ええーーーー!!!!!!!!!!!

戻ったかと思うと、すぐさま表情が変わる妹。
見ていて面白くて可愛いと思うのだが、いささかうるさいか。

「大きな声を出してなにを驚いている?」

「だ、だって……その…お兄ちゃんと……するの?」

「モナは嫌か?」

「えっと…その……嫌とかそういう問題じゃないと思うんだけど?」

「じゃぁ、なんだ?」

「私とお兄ちゃんは血の繋がった兄妹だよ?」

「………」

そうだった・・・俺とモナは血が繋がった兄妹だ。
今の流行は“妹”ではなく“義妹”が巷でドカーンと大ブレイク中!
現在は“妹”やその他諸々に対しての規制が厳しいからなぁ・・・ふぅ。

「現実は厳しいよなぁ〜」

「うーん、そうだね」

「神よっ! あなたはどうして過酷な試練を与えるのだ!?」

俺は天に向かって叫んだ。
心の底から叫んだ。

「お兄ちゃん、そこまで……私のことが…す、好きなの?」

顔を赤く染め、モジモジとしながら聞いてくるモナ。
俺はそんな妹に自分の気持ちをハッキリと伝えた。

「べつに」

「………」

茜色に染まる夕日の中、カチンコチンに固まったモナの銅像が影を伸ばしていた。






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