超20話『五月の料理バンザイ!』
超20話
『五月の料理バンザイ!』
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ガラガラ・・・
教室のドアを開けると生徒達の喧騒。
「よっ、マサトっ」
「今日は遅刻せずに来たな?」
そんな中で俺にかけられる声に俺は・・・
「ちーすっ」
今時、誰が使っているのだろうかと疑問を感じてしまう言葉で返事をした。
「………」
「………」
案の定、生徒達は黙ってしまった。
「ふっ」
俺は勝ち誇ったように笑みを零すと、不敵な笑みを浮かべ続けながら自分の席に向かった。
「どっこいしょっ」
オヤジくさい台詞を吐きながら席に座る。
そして隣を見ると、顔を赤く染めながら俯く五月の姿。
俺はその姿に声をかける。
「五月、おはよう」
「う、うん。おはよう、マサト」
チラッと視線を向けたかと思うと、すぐに逸らしてしまった。
「おいおい、あらか様に怪しいぞ?」
「そ、そんなこと言ったって……マサトの顔が直視できないんだもの」
「…そ、そうか」
(くぅ〜〜、嬉しいことを言ってくれるじゃないかっ)
そんなことを考えていると自分の顔まで赤くなってくるのがわかる。
今の俺と五月って、他の生徒からはどんな風に見えてるのかねぇ?
「……ん?」
五月の手が目に入った。
なぜなら、五月の手は絆創膏やら包帯だらけだったからだ。
「その手、どうした?」
「え? べ、別に大したことじゃないよ? その、ちょっと…」
「気になるじゃないか、言ってみろよ?」
「その、本当に大したことないから…」
「………」
キーンコーンカーンコーン!
などと話ている間に始業チャイムが鳴ってしまった。
(ふぅ、理由は休み時間にでも聞くか…)
………
「……ふぅ」
俺はひとつため息を吐いた。
なぜなら、五月は一時間目が始まってからすぐに寝てしまった。
五月が授業中に寝てしまうなんて初めてだ。
それほどまでに疲れているのだろうか?
(俺に五月を起こせって言うのか? こんな可愛い寝顔の天使を解放するなんて俺にはできないっ!)
そう、心の中で叫んだ・・・誰にかは不明だが。
「しょうがねぇーなぁ」
隣の席で寝ている五月に上着を掛け、ノートを開いて黒板を写す用意をする。
「今日だけのサービスだからな」
誰に言うわけでもなくそれだけを呟き、真っ白のノートに汚い字を書き綴っていった。
………
キーーンコーーンカーーンコーーーーーーーン!!
妙に長い午前の終了を知らせるチャイム。
はれて今から嬉し楽しランチタイムっ♪
「……の、ハズなんだけどなぁ」
いかんせん、五月がまだ眠ったままだ。
「仕方がない。そろそろ起こすか」
「お兄ちゃ〜ん」
「…ん?」
五月を起こそうとしたとき、モナが教室にいつものごとく現れた。
「はい、お弁当」
「おっ、サンキュー!」
「あれ? 五月さん寝てるの?」
寝ている五月を見て、モナが尋ねてくる。
「ああ」
「ふぅん……って、あれ? この上着ってお兄ちゃんのだよね?」
「え? ああ、そうだ」
我が妹ながらそこに気づくとはやるな・・・。
俺様ちょーピンチ!
「んふふ、お兄ちゃんって五月さんのことが好きなんじゃない?」
「な!? ば、何を言って」
モナのヤツ、もしかして知ってて言ってるのか?
「それは冗談だけど、五月さんはそうでもないかも…」
そう言ってモナはチラッと五月の手を見ると、すぐさま視線を俺に戻す。
「んじゃねぇ〜」
そしてそのまま去っていった。
「我が妹ながらわからん。気を利かせたのだろうか?」
「う、ううん…」
「五月、起きたか?」
「え? あ、ま、マサト……くん…」
「………」
今なにか、すごーく不自然なモノを感じたのは気のせいか?
「あれ? この上着……マサトくんのだね? ありがとう」
「それより、“くん”は付けないでくれ……むず痒くなってくる」
「そ、そうだよね。私ったらなんで付けてるんだろう?」
いや、これはこれで嫌じゃないんだけどな、今までが今までだったからなんとなく。
五月とは今まで通りに普通に付き合っていきたいと思うから。
恋人同士でも急に変わるのは不必要だと思うわけよ。
「それより昼にしようぜ?」
「え? もうそんな時間なの?」
「ああ、だけど安心しろ」
「??」
「ちゃーんと、ノートはとっておいたから」
「あ、ありがとう」
「れ、礼はいいから早く食べようぜ」
なんとなく恥ずかしくなった俺は五月の席と自分の席をドッキングさせ、すぐさま弁当を開けた。
その様をジーッと眺める五月。
「ボーと俺を見てないで、五月も食べろよ」
「う、うん」
俺がそう言うと五月は鞄から弁当箱をひとつ取り出し、ゆっくりと食べだした。
「ガツガツガツガツ……ごっくん」
「………」
「ごっとうさん」
「ねぇ、噛んで食べてる?」
「もちのろんろん!」
食べ終わった俺をチラチラと上目で見ながら少しずつ口に箸を運ぶ五月。
そんな五月に俺はざーっとらしく言う。
「ああ、なんだかまだ腹が空いてるなぁ」
「…え?」
「今日はまだまだ食べた気がしないんだよなぁ」
「……よ、よかったらお弁当あるんだけど」
「本当か?」
「う、うん」
五月はガサゴソと鞄を探り、綺麗な包みを取りだす。
「そ、その……私が作ったから美味しくないと思うけど…」
そう言って少し視線を落としながら差し出した。
俺はそれを受け取ると、さっと包みを解き中身を取りだして蓋を開ける。
(ふむ、見た目は悪くない。問題は味だ……五月の料理の恐いのは味なんだよな)
ひとつ覚悟を決め箸を掴む。
(これも惚れた女の為だっ!)
「…ぱくっ」
俺は勇気を振り絞って口に入れた。
「ど、どうかな?」
心配そうに尋ねてくる五月に微笑んでやった。
「うん、悪くない」
「ほ、本当?」
「ああ。だが、まだまだだ……点数は50点だな」
「…しゅん」
「だけどな…」
俺はパッと絆創膏や包帯だらけの手を掴む。
「努力点50をプラスして100点満点だ」
「あっ、これは……その…」
「隠さなくてもいいから。睡眠を削って、こんだけケガをしてまで作ったんだろう?」
「う、うん」
俺には料理の味よりも、五月の気持ちが嬉しかった。
こんなになるまで俺のために作ってくれた五月の想いが。
「ありがとよ」
「…うん」
「でもな、努力はするように」
最後に釘を刺し、俺からの話は終了。
俺は箸を掴み直して次々と口の中に料理を放り込んでいく。
「ばくばくばくばく」
「よかった。マサトが喜んでくれて」
「もぐもぐ……あったりめーだ。前よりうまいからな」
「……複雑な気分」
「前は……もぐもぐ……殺されるかと……もぐもぐ…思ったぞ」
「そ、そこまで言わなくても…」
「今だから言えるんだっ」
それにしても見違えるほどの上達ぶりだ。
前のアレは人外の食い物だったからなぁ・・・思い出しただけで寒気が。
「これからはもっと上手に作ってくるね?」
「ああ、これなら期待してもいいか」
「うんっ」
…ってな感じで嬉し楽しランチタイム♪は終了。
いつの間にやら話の路線が変わっているような・・・いないような・・・にんにん。
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