超22話『雰囲気に流されて』
超22話
『雰囲気に流されて』
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カリカリカリカリ・・・
(ん? なにか変な音がする)
カリカリカリカリ・・・
(なんの音だろうか? 真っ暗でなんにもわからない)
カリカリカリカリ・・・
(瞼が重い。まだ開けたくない気分だ)
「……ん」
俺は仕方なく、重い瞼を開いた。
「あ、起こしちゃった?」
「……………………五月?」
「うん。私の顔を忘れちゃったの?」
「そうじゃないが………なにをやっているんだ?」
五月はペンを持って、なにやら写しているようだった。
「マサトのノートを写させてもらってるの」
「そうか…………で、俺は寝てしまったのか」
教室から射し込む陽は、すでにオレンジ色に染まっていた。
それは今の時間を知らせるには十分だった。
「残っているのは私とマサトだけだよ」
「ふぅ〜ん」
五月の言うとおり、教室には誰もいなかった。
この時間だと学校に残っているのもクラブをしているヤツらぐらいだろう。
「つまり、今は俺達2人っきりなんだな?」
「うん」
俺がそう言うと、五月の頬がほんのりと赤くなった。
なにを期待しているのだろうか。
「………」
何気なく五月を見ていると、俺は不思議な気分になってきた。
なんてーか、こう……あれなんだよ。
ガタンっ。
俺は席を立ち、スタスタと五月の後ろに向かった。
「どうしたの?」
カリカリとペンを走らしながら尋ねてくる五月に俺はなにも答えず、無言で後ろから抱きしめた。
「…きゃっ」
急な出来事で小さな悲鳴をあげる五月。
俺はそんなことは知ったこともなく、ギュッと抱きしめる手に力を込めた。
「ま、マサト……急にどうしたの?」
「なんだか……五月を抱きしめたくなった」
「う、嬉しいけど……びっくりしたよ」
「すまない」
「ううん」
五月はペンを机に置き、俺の手を握ってきた。
俺はそれに応えるように握り返す。
「大きいね、マサトの手」
「五月の手は意外に小さいな」
「“意外”は余計だよ」
「ふふっ、そうだな」
今でも信じられない。
この前までケンカばかりしていた俺達とは思えない。
確かに俺は五月が好きだったけど、ここまで変わるとは・・・。
俺にとって五月はそれだけ大きい存在だったと言うことだな。
「さつき…」
片方の手を下にずらし、制服の上から五月の胸にそっと触れる。
「…あ、マサト?」
「………」
「ごめんね。私の胸って小さいからつまんないでしょ?」
「そんなことはない」
「うそ……あんっ」
布越しに優しくゆっくりと五月の胸を揉む。
五月の言うとおり大きくはないが、掴むことはできる。
それに、感度は良好だからつまらなくはない。
「ほら? 感度はバツグンじゃないか」
「う……うん……あ、だめだよ。そんなに揉んじゃぁ…」
「俺だからいいの」
俺は自分勝手な理由をつけて、五月の胸を堪能する。
「もう、マサトだけだからね?」
「五月のものは俺のもの、俺のものは……誰のものだ?」
「私のものだよ」
「ううむ…。そう言うことにしておこうか」
話を区切って、再び五月の胸を揉みしだく。
「あ、あん……マサト、いいよ」
「さつき」
「……して」
五月のその言葉を聞いて、俺はハッと気づく。
その場の雰囲気で流されているだけだということに・・・。
「すまん。五月」
俺は一言謝って五月を解放した。
「どうして謝るの?」
「それは……このままじゃいけないからだ」
「え?」
「雰囲気で流されるのはいけないと思う」
「そうだね…」
ションボリと寂しそうに俯く五月。
俺からしたことなのだが、そんな五月の姿を見るのは少し心苦しかった。
「…ごめん」
「ううん。マサトは悪くないから謝らないで」
「いつか…」
「うん?」
いつか・・・五月の望むようにしてやれるといいな。
「いや、なんでもない」
俺は続きを心の中にしまい、スッと背を向ける。
「じゃぁ、俺は帰るから」
「うん。バイバイ、まーくん」
後ろでそう言いながらクスッと笑う五月の声が聞こえた。
俺はそれに懐かしさを感じながら、つられて答えた。
「また明日、さつきちゃん」
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