超28話『唸れ! 我が黄金の右足!!(前半)』
超28話
『唸れ! 我が黄金の右足!!(前半)』
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ワァァァァ〜〜〜!!
響く声援、照りつける太陽。
そして何故かサッカーの試合に出場させられている俺。
「正二! どうして俺がでなきゃらならん?」
「だって、マサトがいると絶対勝てるからだ」
それだけの理由で俺の大切な休日が潰されることになった。
正二が言うには我が校の優勝をかけた試合らしいのだが、俺にとってはどうでもいいこと。
だが、俺がでることを聞いた五月とモナとキヨがえらく張り切ってしまった。
弁当を作って応援してくるとまで言いだしたのだ。
そこまでされたら俺の負け、五月達の笑顔に拒否はできはずがなかった・・・がっくし。
「言っておくが、正二と違って俺はサッカー部ではないんだぞ?」
「ああ、そんなの関係ない。我がサッカー部はアバウトだからな」
「………あっそ」
あきれた俺は腹をくくって試合に挑むことにした。
………
ピ〜〜〜!
試合開始の合図がなった。
それと同時に全選手が一斉に動きだす。
「マサトっ、行くぞ!」
「よしっ! 来い!!」
正二からのパスを受け取り、俺は全身全霊の力を右足に集中した。
「唸れ! 我が黄金の右足!!
ミラクルマジカルワンダフルミラクルクルミシュート!!!!」
めちゃくちゃヤバイネーミングのシュートが華麗に相手ゴールに突っ込んでいく。
バシューーーーっ!!
そして豪快な音と共にゴール!
「………」
相手のゴールキーパーは無言で突っ立ていた。
あまりの早いボールについていけなかったのだろう・・・。
「よっしゃ、マサトのシュートはいつ見ても凄いな」
「ふふっ、俺様の500k/hを超える高速のボールを捉えることのできる人間はいない…」
「さすがは超人! だてに人間は辞めてないな」
「一言多い!!」
正二に言い放ち、俺は応援席の方に目を向ける。
するとこちらに手を振る五月達の姿が見えた。
『きゃぁぁ〜〜☆ 魁澤せんぱ〜〜い、カッコイイ〜〜!』
俺に飛んでくる黄色い声援。
それは五月達の周りから聞こえてくるようで、五月達も驚いているようだ。
「マサト〜、なんだかモテモテだなぁ」
「お、俺自身驚いている…」
モナが言っていたとおり、俺って人気があるのか?
今までは気にしてなかったけど・・・ダメだダメだ! 俺には五月という彼女がいるんだぁー!!
「マサト! きたぞ!」
「おうっ」
今度は相手からの攻撃。
ドリブルをしてくる選手を正二が横からボールをかっさらう。
「正二、ナイスっ!」
「ははは、これくらいは朝飯前よっ!」
さすがはエースだけはある、なかなかの動きをする。
俺だって負けてられない・・・。
「マサトっ、頼むぞ!」
「おうっ!」
再びボールを受けた俺は必殺シュートを華麗に決めた・・・。
………
前半戦終了。
ここで後半戦までの休憩を利用して昼食をとることにした。
「おつかれさま、マサト」
「サンキュー五月」
俺は五月からタオルを受け取り汗を拭う。
「魁澤せんぱ〜〜い!」
「せんぱ〜〜い!」
「マサトせんぱ〜〜い!」
「うおっ!?」
突然の後輩達の突進におもわず仰け反ってしまった。
「ななな、なんだ?」
「お弁当作ってきたんです……どうぞ」
「私も」
「ああ〜、私も作ってきました」
「え? あ、ああ……ありがとう」
俺は勢いに押されて頷いてしまった。
だが、それが悪かった・・・彼女たちは次々と弁当を渡していくとそのまま去ってしまった。
「お兄ちゃん……大人気だね」
「ぐす……私も先輩のためにお弁当作ってきたのに」
「き、キヨの弁当も食べるから泣くな」
「本当ですか? 嬉しいです」
「………」
そして沈みがちな五月に目を合わせて一言。
「五月のも食べるからな」
「マサト………うん」
「えへへっ、それじゃぁ私のも…」
「うえ? お前まで作ってきたのかっ!?」
なんとモナまでもが俺の弁当を作ってきていた。
とほほ・・・これで弁当箱が100個、さすがの俺も食いきれるか?
「マサト、大丈夫? 食べれる?」
「あ? まぁ、楽勝だろう」
いつものように言うが、強がりに過ぎなかった。
さすがの俺でも無理難題だ。
「へぇーい、マサト! 俺を呼んだか?」
そこに偶然を装ったかのように現れる正二。
さてはモナの弁当を狙っているな?
「おわ? これは沢山の弁当だな……俺が少し食べてやろうか?」
「………」
「無言は肯定と受け取るぞ? んじゃ…」
そう言って正二がある弁当取った瞬間、モナが声をかげた。
「そ、それは……ダメ」
「んん? これはモナちゃんが作った弁当かな? それではいただきま…」
「くすん……だめなの」
泣きながら抗議をするモナの姿を見て、さすがの正二も動きが止まった。
「お兄ちゃんのために作ってきたんだから…」
「モナちゃん……ごめんよ」
「…くすん」
「マサト、いつものように俺を殴らないのか?」
「…うん? まぁな、何となくお前の気持ちもわかるからな」
正二の気持ちもわかる、ついでにモナの気持ちもわかる。
正二だって男だから自分の好きな女の子の手料理が食いたいのだろう。
そして、モナも好きな俺のために作ってくれたのだろう。
「モナ、今日は悪いが俺の分は正二にやってくれないか?」
「マ、マサトっ……正気か?」
「お兄ちゃん…?」
「正二だって悪気があってモナの弁当を食おうとしたわけじゃない。
純粋にお前のことが好きだったからなんだ……、そんな気持ちは今の俺にはわかる」
「………」
「兄ちゃんからのお願いだ」
「…うん。はい、正二さん」
モナは俺の願いを受け入れてくれたようで、正二に弁当を手渡した。
それを見ていた五月がツンツンと肘でつついてくる。
「ん?」
「マサト変わったね。なんだか前より優しくなったような気がする」
「ばっ、気のせいだろう?」
「マサトをずっと見てきた私が言うんだもの、間違いないよ?」
五月はそこまで言ってとびっきりの笑顔を俺に向けた。
俺はおもわずその笑顔にドキッとしてしまう。
「………」
「…? マサト?」
「…ちっ、そんな笑顔を向けるな……て、照れてしまう」
「………ごめんね♪」
嬉しそうに寄り添ってくる五月。
そんな俺達を指をくわえて恨めしそうな目で見つめるキヨ。
幸せ絶頂であろう、モナの弁当をガツガツと食う正二。
それを少し寂しそうに、それでいて嬉しそうに見るモナ。
話はうまく流れたように見えるが、本当は俺が弁当を食えなかったことをこじつけたのは誰も気づくまい。
モナのあんな大きな重箱の弁当を食えるわけがあるか・・・
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