超29話『唸れ! 我が黄金の右足!!(後半)』
超29話
『唸れ! 我が黄金の右足!!(後半)』


「ガツガツガツガツ」

俺はとりあえず、休憩の間に弁当をたいらげることにした。

「マサト、もうすぐ後半戦が始まるぞ?」

「ガツガツガツガツ……わかった」

「俺は先に行ってるからな」

それだけ言って正二はスタスタと去っていった。
それを目で見送った俺は再び弁当に食らいつく。

「ガツガツ………うぐっ

ヤベッ、喉につまっちまった!

「マサトっ、はい」

「ごくごくごく……ぷはぁ〜〜助かった」

「時間がないからって焦らないでね。ゆっくり食べて」

「いや、だから時間がないんだってば」

このままのペースではヤバイな・・・五月の弁当が食えない。

ピィ〜〜〜!!

考えている間に後半戦開始の合図がなってしまった。

「お兄ちゃん、始まったよ?」

「マサト、早く行かないと…」

「先輩っ、正二先輩が呼んでますよ〜」

「…だ、だが」

俺は戸惑ってしまい、五月に目を向けた。
すると五月も俺の視線に気づいたのか見つめ返す。

「私はいいから…」

「…え?」

「私のことは……気にしなくていいよ」

「五月……わかった」

俺はお茶を一杯飲み、腰を上げて駆け出す。
その背中を五月達の声が応援してくれた。

「お兄ちゃん、頑張って」

「先輩、ファイトっ!」

「マサト……無理しないでね」

一度立ち止まり、振り返って五月に一言。

「弁当残しておいてくれよ? 終わったら食べるからな」

「……うんっ!」

………

「正二、遅れてすまない」

「まったく……だが、今回は大目に見てやるよ」

「そうか? ありがとよ」

「いやぁ〜、もつべきものは良い親友だよなぁ〜」

何故だか正二はご機嫌だった。
そんなにモナの弁当が食えたことが嬉しかったのだろうか。

「正二っ、くるぞ」

「まかしとけ」

そんなこんなで後半戦開始。
相手側の攻撃だが、難なくボールを正二がかっさらう。

「マサト、いくぞ」

「おうっ! まかせとけっ」

正二からパスを受け取った俺は三度必殺のシュートを放つ。

「唸れ! 我が黄金の右足!!
 ドレイク・シューーーーーーーーート!!!!

バシューーーー!!

豪快にゴール。
凄まじい音を響かせながらボールが相手ゴールを貫いた。

その瞬間・・・

「ドライブじゃないのかぁ〜〜!」

などと言う叫びはあったかどうかは定かではない。

「ドレイクとは渋いな?」

「んあ? ドレイクを知っているのか?」

「ああ、オーラシッポ“ゲア・ガリンコ”の操縦者だろう?」

「そうだ。あの機体は堅くてかなわん」

「俺もアイツには苦戦したよ…」

二人してため息をひとつ。
少しばかり話がそれたようだ・・・。

「この調子で後半戦も楽勝だな」

「ふふっ、このマサト様がいれば怖いものなしだ」

「そりゃそうだ」

そして相手側が攻めてきたときのこと。
こちら側の選手がボールを奪おうとしたのだが・・・

・・・ダンッ!!

ボールが予期せぬ場所に飛んでいってしまった。
そしてその先には不運にも五月達の姿があった。

「五月っ!」

俺は名を叫ぶと、自分でも気づかないうちに走っていた。

「加速装置!」

ベタなネタを飛ばしながら全力で五月のもとに駆け寄る。
それこそボールより早く・・・!

「きゃぁっ!」

バシィィィ!!

五月の悲鳴と俺がボールを蹴る音が同時に響いた。
俺はなんとか間にあったと、ホッと胸をなで下ろす。

「………ま、マサト…?」

「大丈夫か、五月?」

「う、うん……ありがとう」

五月はなにが起こったのが理解できない様子で、目をキョトンとしながら俺を見つめる。

「モナもキヨも大丈夫のようだな」

「うん、お兄ちゃんのおかげでね」

「先輩、助かりました」

俺は再び五月に視線を戻すと、さっきと同じように俺をジッと見つめるだけだった。

「おいっ、大丈夫か?」

心配になった俺は五月の肩に手を置いて軽く揺さぶる。

「……うん、大丈夫だよ」

「ほんとうか?」

「…うん。び、びっくりしたけど……マサトが…きてくれたから」

震えた声で五月は答えた。
俺はどうしていいかわからず、ただ五月の肩に手を置いたままだった。

「魁澤せんぱ〜〜い」

「せんぱ〜い、超カッコイイ〜〜」

「きゃぁぁ〜〜せんぱい最高」

後輩達が俺の側に寄ってきた。
何故だか知らないがスポーツをする俺は人気があるらしい。

「この人、どうしちゃったんですかぁ〜?」

「さっきので腰を抜かしちゃったとか?」

「私たちもビックリしたよねぇ〜」

それぞれが思い思いの言葉を発するが、俺は五月が心配で耳に入ってなかった。

「…さつき」

「…マサト……こ……こわかった…」

堰を切ったように五月は泣き崩れ、俺に抱きついてきた。
それを見た後輩達が非難の声を上げる。

「ちょ、この人なんなの〜?」

「せんぱいに抱きつくなんて〜〜!」

「私も抱きつきた〜い」

「うるさいっ! 五月は俺の彼女なんだっ!! 文句あるか!?」

俺の叫びに辺りが一斉に静かになる。

「マサト……マサト……」

「この人…、どこかで見たことあると思ったら……あの五月先輩だ」

「ええ〜!? あの五月先輩? 別人みたい」

「五月先輩って言ったら、魁澤せんぱいと犬猿の仲と言われたあの?」

「………」

俺と五月は校内では知る人ぞしる仲だったようだ。
まぁ、今の五月はあのときの面影がないくらい女の子っぽくなったからなぁ・・・。

「お兄ちゃん達…、一体なにをしてきたの?」

「俺に聞くな! 今思えば若き日の暴走全開だったんだよ…」

「暴走全開って言うより、妄想全開だよね」

ぐさっ!

妹よ、俺は兄としてその言葉は痛いぞ。
もうちっとフォローぐらいはしてくれんのか?

「マ、マサトーー!!」

そんなとき、大きな声で俺を呼びながら正二が走ってきた。

「どうした?」

「どうしたじゃないっ! お前の蹴ったボールが…」

「ボールが……どうした?」

あれ? そう言えばあのボールはどこに行った?
方向なんて考えずに蹴ったから後のことは知らない・・・。

「とにかくアレを見て見ろっ!」

俺はとりあえず正二に言われたとおりに指さす方向を見る・・・

「……な、なんじゃぁりゃぁ〜〜!?」

そこには半壊した我が校の姿が無惨に佇んでいた。
一瞬、我が目を疑ったのだが何度見ても同じ結果だった。

「お前が蹴ったボールが貫いた結果だ…」

「んなバカなっ!?」






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