超32話『プールで水着でバトルでキャンプファイアー!(後編)』
超32話
『プールで水着でバトルでキャンプファイアー!(後編)』
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「お待たせ〜」
やっとこさ到着した五月は手にビート板を持っていた。
なんだか小学生の頃を思い出す・・・。
「五月、そんなのを持ってどうするんだ?」
「マサト達が勝負をしている間、私はこれでちょっと練習しておこうかなって」
「そうか、大丈夫だとは思うけど危なくなったら俺を呼べよ?」
「うん、ありがとう」
さて、五月も来たことだし合図を頼もう。
「五月、合図を頼む」
「うん。それでは…」
緊張の一瞬。
辺りが緊迫の空気に飲み込まれる。
周り人は俺達の空気のせいか、プールの中には誰もいない。
「よーい…………DON!」
「なぜ英語!?」
俺はおもわずツッコんでしまった。
だが、それがいけなかった・・・皆より一歩出遅れてしまった。
ザパ〜〜ン!!
各自、独特のスタイルで泳ぐ。
正二はクロール、モナは平泳ぎ、キヨは犬かき、そして俺はデンジャラスクロールType−β
これは神すら恐れる禁断の水泳法・・・人類が太古に封じし魔境の技!
バシャバシャバシャッ!!
俺が泳いでいった後に、閃光のようなしぶきが走る。
これぞ人類が過去に封じた最強の泳ぎ・・・簡単に言えばクロールのごっつい早い版!
「はぁ………はぁ………」
最初の方はモナを除く、俺と正二とキヨの3人が横一線だったが、今ではその差が開き始めた。
俺がトップに躍り出て、次は正二・・・そして僅差でキヨ。
2位争いは面白くなりそうだ・・・。
………
1時間後。
すでに俺は息が切れ始めていた。
だが、それは正二もキヨも同じだった・・・あまりにもペースを飛ばしすぎだ。
そう、この勝負は超耐久レース『100万メートル水泳』だったのだ。
「もう……ダメだ…」
ぷか〜と水の上に浮きながら空をボーっと眺める。
空は清々しくて、気分はものすごく爽快だ。
バシャバシャバシャバシャ・・・!
「マサト〜、疲れたの?」
五月がビート板に手を置きながら泳いできた。
どうやら俺の隣のレーンで泳いでいるみたいだ・・・。
「五月か? ああ、体力が切れたみたいだ……あの水泳法は短距離専用だからな」
「勝負は中止だね? 正二も清子ちゃんもへたばっているよ?」
「…そうか」
・・・ちょっと待て?
モナはどうした? モナもへたばっているのではないのか?
「モナはどうしている?」
「えっとね、まだ泳いでいるよ。平泳ぎは長距離に強いからね」
「………」
俺と正二はクロールだから体力の消耗が激しい。
キヨの犬かきもあれだけのスピードが出ていれば消耗も激しいだろう。
・・・ってことは、このまま行くとまさかのモナ優勝!?
「あとね、私もずっとこうして泳いでるんだけど、マサト達に追いついたよ?」
「………」
「もしかしてゴールしたら、私の勝ちになるのかな?」
どうやらこの勝負・・・意外な勝者が出そうな予感だ。
………
そしてあれから数時間後。
俺と正二とキヨはすでに虫の息だった。
「………」(俺)
「体が動かない…」(正二)
「…ぶくぶくぶく」(キヨ)
勝負はすでにあったも同然。
1位がモナ、2位がなぜか五月、そして俺達3人はゴールできずリタイア。
よって、この勝負は3位がいないので俺達3人の中から任意に命令できることになる。
「わ〜〜い! 私が優勝!」
「よかったねモナちゃん、私も2位だから好きな事を頼めるよ」
そんな2人を後目に俺は溺れていたキヨを背中に担ぎながらプールを上がった。
正二はなんとか自分で這い上がってきたが、すぐに転倒・・・そして沈黙。
だが、誰もそんな正二を気にした様子もなかった・・・もちろん俺も。
「お兄ちゃんっ、私が好きな人に頼み事していいの?」
「ああ、それがルールだからな…」
俺はキヨを敷物の上に寝かせると、自分も並んで横になった。
あまりにも体力が消耗したので起きていることすら鬱陶しい。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんっ」
「…なんだ?」
疲れ果てた俺は目を閉じたまま返事をした。
「私からのお願い。今度ね、2人だけで遊びに行こう?」
「モナちゃん、私も一緒に行きたいんだけど…?」
「五月さん、ごめんね? どうしてもお兄ちゃんと2人で出掛けたいの」
「…うん」
「わかったわかった。その次は五月も一緒に行こうな?」
「…ありがとう」
ヤバイ・・・眠たくなってきた。
いっそうこのまま寝てしまうか・・・・・・。
「マサト、私からのお願い……聞いてくれる?」
「ああ、何でも言ってくれ」
今の俺はとてつもなく眠たいんだ・・・。
用件は迅速かつ素早く申してもらいたい・・・。
「じゃあね、そのまま寝てて…」
「うん? ああ……ちょっと眠らせてもらうぞ…」
「……ん」
あれ? なんだか唇が温かくなったような・・・?
気のせいだろうか、凄く近い場所で人の息づかいを感じる。
「………」
俺はうっすらと目を開けると、目の前に五月の顔があった。
なにか喋ろうとしたが口が何かで塞いであって喋れない・・・。
「ん……ふぅ」
「………」
「あっ、起きちゃった…」
「五月…、約束が違うぞ?」
「………」
俺は自分からキスをしてやると五月に言ったんだ。
なのに五月からされたら俺はどうしたらいいんだ・・・?
「だって、マサトがずっとしてくれないから……私、もう待てないよ」
「………」
「マサトのこと、ずっとずっと好きなのに…」
「…わかったからそんな顔するな。俺が悪かったよ」
五月に泣きそうな顔されて見捨てることができるほど俺も冷徹じゃない。
自分のことよりも五月が喜んでくれれば、別に結果なんてのはどうでもいいんだ。
「五月の気持ちに気づいてやれなくてごめんな」
「ううん、私の方こそ約束を破って…」
「言うな」
俺はそっと五月の頬に手を添えた。
そして優しくなだめるようにその柔らかい頬を撫でる。
「俺は少し眠るから、後で起こしてくれ」
「うん、おやすみ……マサト」
五月にギュッと片手を握られ、なんだか安らぐような感覚の中・・・闇へと落ちていった・・・。
俺は夢の中で大きなマシュマロを触っている夢を見た。
すると途中で巨大なハンマーで叩かれ、その衝撃で目が覚めた。
そして、帰り道は五月からの視線が妙に痛かった。
それとずっとキヨが赤い顔を俺に向けているのだった・・・。
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