超37話『悪夢と現実』
超37話
『悪夢と現実』


それは突然の出来事だった。
いつものように学校が終わり、下校中のこと・・・。

「お兄ちゃ〜〜ん」

「…ん?」

声がするので後ろを振り向くと、そこには手を振りながらこちらに走ってくるモナの姿。
俺を見つけるたびに嬉しそうに微笑む妹。
だが、それが一瞬で悪夢になるとは思いもしなかった・・・。

「待ってぇ〜〜」

「はいはい」

モナが交差点を渡ろうとするときそれは起こった。
突如、横から現れた車が俺の目の前を横切った・・・!

「うおっ! あぶねぇー車だな…」

車が去った後、前を見てみるとモナの姿がなかった。
不思議に思った俺は辺りを見渡すと、そこには信じられない光景が目に入った。

「…モナっ!」

俺は妹の名を叫ぶと、慌てて駆け寄った。
そこには傷つき、血だらけで倒れている無惨な姿をさらけ出すモナ。
気が動転してしまった俺は妹が怪我人だということも忘れ、抱き起こすと体を揺すった。

「モナっ……しっかりしろっ! 俺だ……お前の兄ちゃんだ」

「………」

「目を開けろよ……いつもみたいに笑顔を見せてくれよ…」

何度呼びかけてもモナは返事をしなかった。
ただ、その体からは止めどなく血が流れ、冷たくなっていくことだけが感じられた。

そして俺は気づいた・・・モナが・・・死んでしまうと・・・。

「…マ、マサトっ!?」

傷ついた妹を抱いている俺を見た五月は、悲鳴を上げるように俺の名を呼ぶ。
俺は五月の方に振り向き、震えた声で言った・・・。

「五月……モナが…、妹が死にそうなんだ…」

「!? は、早く救急車を呼ばなくちゃっ!」

五月は素早く駆け出すと、公衆電話のところに行った。
そして救急車が到着する間、俺はひたすらモナに語りかけた・・・。

………

「マサト……大丈夫だよ」

「………」

俺と五月は暗い廊下のイスに座りながら時を待った。
目の前の手術室が赤いランプを照らし続ける・・・それが消えるまで・・・。

「モナちゃんはきっと助かるよ…?」

「………」

「もうっ、マサトがそんなんだったらモナちゃんも心配するでしょ?」

「そう……だな」

「だから、元気出してよ……でないと…私まで……」

五月はそこまで言うと、軽く目尻を拭った。

「ううん、マサトは元気じゃないと……ね?」

「……五月」

「大丈夫! マサトの妹だもの、きっと助かるよ」

「…どういう意味だ?」

「えへへっ、それは秘密だよ」

こうして五月と話していると少し元気が出てきた。
俺がクヨクヨしていてもモナは助からない・・・今の俺にできるのは信じることだけ。

「でも、どうしてこんなことになったんだ? 妹が何をした…!?」

「………」

「モナは純粋に俺のことが好きで、いつもみたいに俺を追っかけて来ただけなのに…」

拳が震えた・・・事実に対して腹が立つ。
行き場のない怒りが俺の中で沸々とわき上がり、それは行動へと移り変わる。

「どうしてなんだよっ!」

ドゴーーーーン!!

振り上げた俺の拳は壁にあたると、それは一瞬にして粉々に砕けた。
そして穴が開いた先には病人の姿。

「うわぁ〜〜! 怪獣だぁ〜〜!!」

「誰がじゃっ!?」

「す、すみません…! とりあえず応急処置だけしておきます」

五月は穴が開いた壁をダンボールとガムテープで塞いだ。
いつもなら驚くのだが、こんな状態の俺はそれを平然と見つめていた・・・。






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