超38話『誓い』
超38話
『誓い』


「おいっ、マサトっ!」

正二が大きな声で病院へと駆け込んでくる。
それに気づいた俺は少し顔を上げた。

「正二か…」

「はぁ…はぁ…、モナちゃんが事故に遭ったって本当か?」

「………」

「おい、マサトっ!」

・・・グッ!

正二が怒ったように俺の胸ぐらを掴みあげた。
俺はその行動に何も返さず、ただ流れに身をまかせる。

「やめて、正二! モナちゃんが事故に遭ったのは本当なの」

「だったらなおさらだっ…!」

・・・ググッ!!

さらに正二が力を込めてくる。

「……ぐっ」

「正二! やめてっ、マサトを放して…!」

「…ふんっ」

・・・ドサッ。

正二から力が抜けると、俺の体は地面に倒れ込んだ。
俺は息を吸うように何度も呼吸を整える。

「はぁ……はぁ……」

「マサト、大丈夫?」

「……ああ」

「正二っ! マサトを殺す気なの!?」

「………」

怖い目で正二に睨みつける五月。
それに対して正二は無言で答えた・・・。

「マサト…、お前は何をしていた?」

「………」

「モナちゃんが事故に遭ったときお前は何をしていたっ!!」

「………」

「答えろっ!!」

正二の言葉が痛かった。
その言葉に再び怒りが込み上がってくる・・・!

「昔、お前が俺に言ったこと……あれは嘘だったのか?」

「………」

「どうなんだよっ!?」

「嘘じゃないさっ!」

「………」

「うそじゃ……ない…」

自分の言葉にがっくりと項垂れる。
そんな俺を心配そうに五月が寄り添ってくる。

どんなことを言っても・・・今の俺は大うそつきだ・・・!

「嘘じゃないのなら、どうして助けられなかったんだ?」

「………」

「正二、なにを言っているの?」

「美作は黙ってろ! これは俺とマサトの問題だ」

「そ、そんな言い方しなくても…」

「すまない、五月。これは俺と正二との問題なんだ」

「……わかったよ」

俺の言葉に納得する五月。
それを確認した正二は再び俺の胸ぐらを掴みあげた。

「……ぐぅ」

「てめぇーの言ったことぐらいは守りやがれっ!!」

バキィィィィッ!!

「ぐはっ!」

正二の拳をまともにくらった俺は数メートルほど吹っ飛ばされた。
廊下にグッタリと倒れ込む俺に五月が駆け寄ってくる。

「マサトっ! 大丈夫!?」

「ああ、だい……じょうぶ…だ」

「大丈夫じゃないよっ? 口から血が出てるよ」

「五月…、下がってろ」

俺は軽く五月を払いのけた・・・そして正二を見返す。

「その根性――叩き直してやるっ!

正二が俺の上に馬乗りになると、容赦なく拳を振り上げてきた。

ドカっ! バキっ! ドフっ! ドゴっ! ちゅどーんっ!

「……ぐ……ぅぅ」

「はぁ……はぁ……」

「もうやめてっ! これ以上、マサトをいじめないでよーっ!」

五月の怒鳴り声に気がつく正二。
どうやら少しばかり頭に血が上っていたらしい。

「理由は知らないけど、モナちゃんが事故に遭って一番苦しんでるのはマサトなんだよ?」

「………」

「そのマサトを……これ以上……いじめないで…」

涙声で言いながら、五月は泣き崩れた。
その姿を見て、正二は俺から降りると手を掴んで引っ張り上げてきた。

「すまなかった。お前が一番苦しんだよな」

「正二…。いや、俺もお前に言ったことを守れなかったんだ…」

「ああ、俺はお前の言葉を信じていたんだぞ?」

「…すまない」

肩を落とす俺に正二はポンッと軽く叩いた。

「お前がここまで強くなったのに……どうして運命は皮肉なんだろうな…」

「……俺の努力不足だ」

「そうでもないさ、俺に『自分は強くなって妹を守る』って言ったのは本心だろ?」

「あたりめーだ」

「だから、マサトは人並み以上に強くなった…。答えはちゃんとでてる」

正二はそれだけ言って病院を出ていった。
その後ろ姿を無言で俺は見送った・・・。

「私、マサトとずっと長い付き合いだけど知らなかったよ」

「………」

「いいお兄ちゃんなんだね?」

「そんなんじゃない……そんなんじゃ…」

「………」

「結局、俺は守れなかったんだから…」

「もう、いいよ…」

不意に俺の頭が五月に抱かれた。
温かくて優しくて・・・全てを包み込んでくれるような感じ。

「ねぇ、家に帰ろうか?」

「………」

「また明日、来ようね?」

「……うん」

俺は子供のように頷き、五月に連れられて家に戻った。






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