超39話『現実逃避』
超39話
『現実逃避』


「はい、着いたよ」

「…ああ」

自分の家に着いた俺は玄関を開け、中に入る。
すると、五月も一緒に着いてきた。

「今日は私が一緒にいてあげる」

「…五月」

「マサトがひとりじゃ心配だからね?」

「………」

俺は何も答えず、五月の手を取って家に上がった。

………

「今日は私のご飯だけど許してね?」

五月はそう言ってテーブルの上に料理を並べる。
見た目はとても美味しそうでいい匂いがする・・・こんな状態でなければ喜んでいたに違いない。

「少しだけでも食べないと元気が出ないよ?」

「……ああ」

箸を掴み、五月の料理を口に運ぶ。
味はモナには劣るものの、前とは比べものにならないくらい上達している。

「…うまい」

「ありがと〜! 毎日、練習したかいがあるよ」

「でも、モナの料理の方がうまい…」

「…あ、それはそうだよ……マサトを一番知っているのは私よりモナちゃんだからね」

いつも喜んで俺に料理を作ってくれたモナ。
俺が美味しいと言うと、弾けんばかりに喜ぶその笑顔が眩しかった。
俺の好物のハンバーグを作るときなんかは、鼻歌を歌いながら作っていたのを思い出す。
その後ろ姿を見るのが好きで、ちょくちょく台所を除いていたあの頃。

誰よりも俺を知っていて・・・誰よりも俺のことが好きで・・・。

そして俺も誰よりもモナのことが大好きで・・・。

「モナ……帰ってきてくれよ…」

そう呟く俺の体が震えた。
モナを失ってしまうかと思うと、その恐怖に押しつぶされてしまいそうだ。

モナの笑顔が見たい・・・モナの声が聞きたい・・・。

「モナ……俺をおいていくな…」

「マサト? ねぇ、マサトっ!」

「絶対帰ってこい……俺の元に帰ってこい」

「……大丈夫だよ。絶対帰ってくるよ」

「うぅ…」

五月の胸に抱かれ、俺は声を出しながら泣いた。
悲しいのとモナを失ってしまうという恐怖に涙が止まらなかった。

「今日はもう寝ようね?」

「…うぅ」

「泣かないで…、まーくんは強くなってモナちゃんを守るんでしょう?」

「さつきちゃん……うん」

「強い子は泣かないの、どんなときもね?」

五月の懐かしい呼び名に俺は童心に返る。
子供の頃のように会話をすると、なぜだが少しだけ勇気が出てくるような気がした・・・。

………

「マサト〜、重いよ〜」

五月が俺の肩に手を回しながら部屋まで引っ張っていく。
俺よりずいぶん小柄な五月だから、身長差で押しつぶすような格好になってしまった。

「つ、ついた……きゃわっ!?

・・・ぼふっ!

力つきた五月につられるように俺も倒れてしまった。
その結果、ベッドに五月を押し倒すような形になる・・・。

「……あ」

「…さつき」

五月の白い頬がほんのりと赤く染まる。
その目は少し潤んでいて、何故だか俺は心臓が高鳴った。

「マサト……寝た方がいいよ?」

そう言って五月が俺の頬に手を当ててくる。
俺はその手をギュッと握ると、少し強引にキスをした。

「…ん!」

「………」

「ぅ……んん……」

驚きの瞳を向ける五月だが、それもしだいに閉じられていく。
それを見た俺は手を胸元に持っていき、服の上からゆっくりと揉み上げた。

「んん……ん……」

「はぁ……五月」

「マサト……ダメだよ…」

唇を離すと、五月は拒否するように俺の手を強く握る。
俺は気にすることなく、あまった方の手で服のボタンに手をかけた。

ぷちぷちぷち・・・

ひとつ、またひとつと服のボタンを外していく。
そして全部外れると優しく服を開けた。

「は、恥ずかしい…」

「五月……綺麗だよ」

服がはだけて五月の綺麗な肌が目の前に広がる。
申し訳ない程度に膨らむ胸には、清楚を漂わせる白いブラがまとわりついている。
俺はそれをゆっくりめくりあげると、ぷるんと小振りの双丘が姿を現した。

「や…、小さいからそんなに見ないでぇ」

「気にすることない、俺は好きだよ……ちゅぅ」

「…あんっ」

顔を寄せ、胸の中心にある突起を吸い上げると可愛い悲鳴が鳴った。

「ちゅっ……れろれろ」

「あぅっ……そんなに舐めないで…」

突起の中心を撫でるように舌でなぞりながら、あまった方の胸を優しく揉みほぐす。
そして突起を吸い上げると同時に揉む方の手は突起をキュッと摘んだ。

「きゃんっ…だめ……だめなの…」

「うん……さつき…」

「マサト…………だめぇっー!

・・・ドンッ!

五月の両手が俺の体を押し返した。
驚いた俺はその勢いでおもわず五月から離れた。

「こんなの……だめだよ…」

「五月?」

はだけた服で前を隠すようにして俺を見つめてくる。
その瞳には優しさと温もりと悲しみが入り交じっているように見えた・・・。

「こんなので抱かれても……嬉しくないよ…」

「………」

「マサトのことは好きだけど……今のマサトはマサトじゃないよ!」

「………」

五月の言い分はもっともだった。
今の俺はいつもの俺じゃない・・・ただ、現実から逃げようとしているだけ・・・。

「苦しみから逃れるために抱かれても……嬉しくなんかないよ…」

「………」

「逃げちゃだめ……なんて言わないよ? でもね、苦しくても戦ってほしいの」

「………」

「それでもダメなら、私が慰めてあげる……現実を忘れさせてあげる…」

「…さつき」

「できる限りのことをやって、それがダメなら逃げてもいいと思うよ?」

優しさに満ちた笑みを向けると、五月はギュッと自分の胸に俺の顔を押しつけた。
少し息苦しさを感じるけど、五月に抱きしめられるだけで心が落ち着く。

「人間って、そんなに強くないからね?」

「………」

「さぁ、もう寝ようね?」

「…ああ」

「ずっと私が抱きしめててあげるから安心して……眠って…」

五月に優しく頭を撫でられ、俺はいつしか眠りについていった。

「おやすみ……大好きなマサト…」

俺を抱きしめる五月を、いつしか俺も強く強く抱きしめ返していた・・・。






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