12月24日 雪の傷
12月24日
『雪の傷』


今日はクリスマスイブ
街は明日に向けて賑わっている。

「明日はクリスマスだね」

「ああ、そうだな」

いつもの公園でいつものベンチ。
俺達はこんな寒い中でなにをしているのだろう?
わざわざ外で話すこともないのだが、此処が一番落ち着く。

「真奈ちゃん……なにをやってるんだろうね?」

「…さぁな」

他に理由といえば、妹に追い出されたこと。
明日の準備をするらしく、家の中にいてはいけないらしい。

「もう、今年も終わるね」

「ああ」

今年はいろんな事があった。
ありすぎた――とてもたくさん。

「今年も浩ちゃんにいっぱい助けてもらったね」

「……そうか?」

「うん、今年はとくに…」

雪はどことなく悲しそうに言う。

「いつまでも自分を責めるな、雪は悪くない」

「そうなんだけど……でも…でも…」

「…ふぅ」

俺は雪の頭に手をのせる。

「…あっ」

すると雪が小さな声を漏らした。

「いつもの元気……だろ?」

俺はくしゃくしゃと雪の頭を撫でる。

「…うんっ」

雪の顔に元気が戻る。
そうだ。
雪は元気な方がいい。
でないと俺が悲しくなってしまう。

「元気な私……だよね?」

「ああ、そうだ」

いつも元気でいてほしい。
いつも俺に微笑んでほしい。
泣いてほしくない。
悲しんでほしくない。
雪は俺の支えなのだから・・・

「でも…」

「ん?」

「たまには……泣いてもいいよね?」

「……ああ」

できれば泣いてほしくないが、それは無理だ。
悲しいことがあったら仕方がない。

「浩ちゃんの胸で泣かせてね?」

「いいぞ、どんどん活用してくれ」

「じゃぁ――」

どんっ
急に雪が俺の胸に飛び込んできた。

「雪?」

「お願い……なにも言わずに抱きしめて」

「…わかった」

俺は雪の背中に手をまわす。

「今だけ泣かせて…」

「………」

俺は返事のかわりに抱きしめる手に少し力を入れる。

「私のせいで………ごめん……ごめんね」

「………」

「ごめんね……ごめんね……」

雪は何度も謝る。
小さな体を震わせながら・・・
ぼろぼろと涙をこぼしながら・・・
ひたすら謝る。

雪。
俺にはどうすることもできないのか?
お前はいつまでも苦しんでいる。
俺の足のことを気にしている。
自分のせいだと――本当は違うのに。

俺が勝手にしたこと、俺が雪を助けたかったんだ。

あのとき雪を見捨てたら俺は一生後悔するだろう。
だから俺は助けた。
自分はどうなってもいい――雪が無事なら。
俺はそれだけでよかったんだ。

だけど――その結果、雪を苦しめている。

雪には自分のせいだと思ってほしくない。
雪が微笑んでくれるならそれだけでいい。
それだけでよかったんだ。

だが、それも叶わない。

表に出さないものの、雪はいつも自分を責めている。
そしてときどき泣き崩れる。
そんな雪を見てるのはとても辛い。
自分の心が潰されるような――とても苦しい。

俺では――ダメなのか?

雪の傷を癒すことはできないのか?
心の傷を・・・
深くて大きい傷を・・・





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