12月25日 雪への想い
12月25日
『雪への想い』
今日はクリスマス。
賑やかに華やかに振る舞われる日。
「いぇ〜〜い!」
パァーーン!
真奈が豪快にクラッカーを鳴らす。
毎年恒例のクリスマスパーティー。
だが、今年は違った。
「おにーちゃんっ!」
「あ?」
「どうしちゃったの?」
「いや、なんでもない」
今年は違う。
真奈と俺の2人だけ――雪はいない。
「雪音さん……どうしたのかな?」
「………」
「おにいちゃん、知らない?」
「……ああ」
雪がいないクリスマスパーティー。
なんとなく寂しい。
「もぉ〜、おにいちゃんっ」
「ん?」
「暗くならないでよ〜っ、せっかくのクリスマスだよ?」
「そう……だな」
わかっているのだが・・・
「雪音さんと喧嘩でもしたの?」
「いいや」
「う〜ん、雪音さんに他に好きな人ができたとか…」
「………」
それはない――と思う。
「冗談はおいといて、雪音さんとなにかあったの?」
「………無くはない」
「ええ? どういうこと?」
真奈が驚いた顔で尋ねてくる。
ここは真奈に相談してみるか・・・
「真面目な話だが、聞いてくれるか?」
「え?……うん」
「雪は――苦しんでいるんだ」
「雪音さんが?」
雪は苦しんでいる――ずっと。
「雪は自分を責めているんだ……自分のせいで俺が足を失ったと」
「そんな…」
「俺が足を失ったのは雪のせいじゃない、これは俺の意思でしたことなんだ」
それなのに雪は・・・
「それで………雪の心には傷ができてしまった」
自虐という傷。
俺がなにを言っても意味がない。
「俺には……どうすることもできない」
「それは違うよ」
「…え?」
真奈が真剣な顔で言う。
「雪音さんの傷を癒せるのは、おにいちゃんだけだよ」
「だが、俺にはどうすることも…」
「おにいちゃんの雪音さんに対する想いはその程度なのっ!?」
真奈が怒鳴る。
悲しそうな――辛そうな顔で。
「それじゃぁ、雪音さんが可哀想だよっ」
「…真奈」
「雪音さんにはおにいちゃんしかいないんだよ?」
「!?」
そうだ。
雪は言葉には出さないものの、いつも俺の側にいる。
なによりも俺を優先し、なにがあっても俺の近くにいる。
「おにいちゃんが諦めたら……雪音さんはどうしたらいいの?」
「そうだ……そうなんだよな」
俺が諦めたらダメだ。
自分で言うのもなんだが、雪のことは一番わかっているつもりだ。
そして雪を一番愛しているのは俺だけだ。
「俺しかいないんだよな」
「そうだよ、頑張れおにいちゃんっ」
「おう」
だが、どうすればいい?
今の俺になにができる?
どうすれば雪の傷が癒せる?
「真奈、どうすればいいと思う?」
「え? うーん、そうだねぇ…」
真奈は腕を組んで考える。
なにかいい案がでるだろうか・・・
「あ、そうだ」
「ん? なにか思いついたか?」
「おにいちゃんって雪音さんとしたの?」
「は? したって……なにが?」
「それは……あれだよ」
なにを言いだすかと思えば・・・
我が妹ながらわけがわからん。
「……まだ」
「え? まだなの? 付き合って何ヶ月経ってるの?」
「う、うるさい」
それがなんの関係があるんだよっ。
「ふ〜ん、雪音さんに魅力がないのかな〜?」
「ば、違うよ! 雪を傷つけたくないだけだ…」
「へぇ〜、雪音さんって大事にされてるんだ」
「………」
つい勢いで本音を言ってしまった。
なにを言ってるんだ俺は・・・
自分で言ってしまったことに後悔する。
「でもね、雪音さんのことを想っているのなら抱いてあげるべきだよ」
「なにを…」
「言葉だけではね、伝わらない想いもあるんだよ」
さっきまでの真奈と違い、真剣な顔で言う。
「だからって……俺に雪を傷つけろと?」
「どうして雪音さんが傷つくの?」
「どう考えてもそうだろう? 雪の体を酷使するんだぞ?」
俺にはそんなことはできない。
雪の体を傷つけることは・・・
どうしてもできない。
「そうかもね。でも、優しいだけではダメなんだよ」
「…どうしてだ?」
「優しいだけだったら、誰にでもできるから…」
「??」
真奈の言っている意味が分からない。
「心と体の結びつき――それは雪音さんが選んだ人だけができるんだよ」
「………」
「心だけなら家族でもできるけど、体は……おにいちゃんだけだよ?」
「俺?」
「うん、雪音さんが大好きなおにいちゃんだけ」
俺だけ・・・
俺だけができること。
「はじめは雪音さんの体を傷つけてしまうかもしれないけど…」
「………」
「それを恐れていたら、本当の意味で雪音さんと結ばれるのは無理だよ」
雪と結ばれる?
俺は雪と結ばれたいのか?
ああ――そんなことは考えるまでもない。
「大丈夫、体は傷ついても心は傷つかないから」
「………」
「おにいちゃんが雪音さんを愛しているなら……ね」
愛している――か。
俺は雪を愛している。
他の誰よりも・・・
「あはははははっ、な、なんか話が変になっちゃったね」
「そうだな」
いつもの真奈に戻る。
さっきまでの真奈はどこにいったのやら・・・
「まぁ、雪音さんへの気持ちがあれば心も体も傷つかないと思うよ」
「さっきと言ってることが違うぞ?」
「あ、あれは……そうでも言わないと、おにいちゃんが動きそうにないから…」
まったく――コイツは。
「でも、雪音さんへの気持ちが無かったら…」
「ああ、わかってる」
「あとね、焦り過ぎちゃダメだよ。雪音さんの気持ちも考えないと……ね♪」
雪の気持ち。
雪も俺と同じ想いなのだろうか?
雪は俺と結ばれたいのだろうか?
「よし、そうと決まったら――」
「おいっ! なにをする気だ?」
「舞台を作ってあげるんだよ?」
おいおい、舞台ってなんだ?
「だって、おにいちゃんじゃぁ……雪音さんを呼ぶことできないでしょ?」
「…うっ」
確かに。
今の俺では雪に声をかけることは難しい。
なにしろ俺自身――話しづらい。
「…頼む」
「おっまかせぇ〜♪」
やれやれ、ここは真奈に任せるか。
それにしても・・・
真奈には世話になりっぱなしだな。
冬といい――春といい。
コイツには頭が上がらないな。
これで雪の傷を癒せるのだろうか?
もし癒せなかったら・・・
いいや――そんなことを考えるのは止めよう。
俺は雪を元気にしてみせる。
雪が好きだから・・・
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