12月28日 願いが届くとき
12月28日
『願いが届くとき』
12月28日
今日は俺の誕生日。
「………ふぅ」
俺はひとつため息を吐く。
真奈が今日はずっと家にいろって言うからいるのだが・・・
当の本人がいない。
どこに行ったのやら・・・
「まぁ、少し横になるか」
俺はベッドにゴロンと寝転がる。
「………雪」
天井を眺めていると、雪が浮かんでくる。
雪はどうしているだろう?
まだ自分を責めているのだろうか?
ピンポーン!
不意にチャイムが鳴る。
「んあ? 真奈か?」
真奈ならチャイムは鳴らさないはずだが・・・
俺は怪訝に思いながら玄関に向かう。
ガチャッ
「はーい、どちらさま?」
「…浩ちゃん」
ドアを開けるとそこには雪がいた。
「…ゆ、雪?」
「お誕生日おめでとうっ」
そう言って雪は俺の首にマフラーを巻く。
雪の手編みのマフラー。
去年のクリスマスにもらった物よりはましなものの所々ほつれている。
「あ、ありがとな」
「…うん」
俺と雪は無言で見つめ合う。
なにを言っていいかわからない。
言葉が浮かんでこないのだ。
「あ、あのね…」
「ああ」
「さっき真奈ちゃんに会ったんだけど…」
「真奈と?」
そういやアイツはどこに行ったんだ?
「うん、友達のところに遊びに行くから言っておいてって」
「…そうか」
なにがしたかったんだ?
勝手に遊びに行くわ、俺には家にいろって言うわ・・・
「それと、今日は友達の家に泊まってくるって」
「………」
そういうことか。
まったく――わかりにくいだろ・・・
「その……なんだ、少しあがっていくか?」
「…う、うん」
なんか元気がないな。
俺はそう思いながら、雪を家に招き入れる。
「おじゃましまーす」
「ああ、遠慮しないでくれ」
俺はどこに行こうかと迷う。
台所に行ってもな――俺の部屋だとちょっと。
「浩ちゃんの部屋に……行こう?」
不意に雪がそう言った。
「ん? あ、ああ」
俺は戸惑いながらも雪を部屋に通す。
「……文化祭以来だね」
部屋に入ったとたん雪が言った。
「ん? そうか…」
雪が俺の部屋に来たのはそんな前か・・・
「まぁ、適当に座ってくれ」
俺はそう言ってベッドに腰をかける。
すると、雪も俺の隣に腰をかけた。
「クリスマス……ごめんね」
「…別に気にしてない」
「なんとなく浩ちゃんに会いづらくて…」
「俺も同じだ」
俺も雪と会いづらかった。
だから今日までお互い会っていなかった。
「私……弱くて」
「雪?」
「浩ちゃんがどんなに慰めてくれても自分を責めて…」
そう言いながら雪は体を震わせる。
その目には涙すら浮かんでいるようだった。
「どうしても自分を責めてしまって……もう、苦しくて……悲しくて」
堰を切ったように雪の目から涙がこぼれる。
それは止まることなく雪の手の甲にポタポタと落ちていく。
「浩ちゃ〜んっ」
ぎゅっ
すがりつくように雪が俺に抱きついてくる。
「私っ、どうしたらいいの? このまま苦しまなくちゃいけないの?」
「……雪」
「わかんないよっ、浩ちゃんの側にいたいけど……それだと苦しくなっちゃう」
「………」
もういい。
もういいんだ――雪。
お前は苦しまなくていい。
雪は悪くないのだから・・・
「……雪っ」
俺は少し強引に雪の顔を上げる。
「…あっ」
ちゅっ
そして雪の唇に自分の唇を重ねる。
「!?……んむ」
「………」
「…んむ……んん」
最初は驚いていたものの、事に気づくと自然と雪の目が閉じられる。
「………」
「…ん……ん……んむ」
「………」
「…ん…………ぷは」
俺が唇を離すと、雪は一息つく。
「………浩ちゃん?」
雪が潤んだ瞳で俺を見上げる。
「俺からのお願いだ」
「え?」
「もう――自分を責めないでくれ」
「………」
「俺がずっと雪の側にいてやる! なにがあっても雪の側にいる――約束するっ」
雪から離れない。
雪が嫌だと言うまで俺は雪の側にいる。
雪の傷を癒すため。
雪が傷ついた原因が俺にはあるから・・・
「雪はなにも心配することはないっ、安心して俺の側にいたらいい」
「………」
「こんな俺なんかじゃ頼りないかもしれないけど…」
「そ、そんなこと……」
俺なんかじゃ頼りない。
これから雪を100%助けられる保証はない。
だが、誰よりも雪を愛している。
それだけは言える。
「俺は雪を誰よりも愛しているっ」
「……浩…ちゃん」
「これからも――俺を支えてくれないか?」
俺にはお前が必要なんだ。
他の誰でもない――雪が必要なんだ。
「ずっと……側にいていいの?」
「ああ」
「ぐす………信じていいの?」
「ああ、雪は俺のものだっ」
「うんっ」
俺は雪の背中に手をまわす。
そして力強く抱きしめる。
「私からも……」
「ん?」
「お願いしても……いい?」
「ああ」
俺は雪の頭を優しく撫でる。
すると雪はとても小さな声で――消えてしまいそうな声でこう言った。
「……抱いて」
「………」
「わ、私を……浩ちゃんのものにしてほしいの」
「………」
「そしたら……私、変われそうな気がする」
「…いいのか?」
俺は確認のために聞く。
本当は俺が言うはずだったこと。
それを雪から切り出してきたのだ。
雪からそれを求めてきた。
俺が求めるはずだったもの・・・
「うん。『雪は俺のものだ』って言ってくれるのなら、私を浩ちゃんの色に染めてほしいの」
「………」
「心だけじゃない……体も……浩ちゃんのものに」
「本当にいいんだな?」
「…うん」
「後悔はしないな?」
「浩ちゃんだもん、後悔はしないよ」
「……わかった」
2人が結ばれる瞬間。
言葉だけでは伝わらない想い。
それを確かめるように2人は重なる。
青年は少女の傷を癒すように優しく。
少女は青年の想いを受け取るように熱く。
優しく――ゆっくりと、そして熱く求め合う。
外は雪が降っている。
冬という季節を感じさせるようにしんしんと。
止まることなく――ゆっくりと。
雪が降る。
2人の想いが募るように――雪は積もっていく。
2人が結ばれた季節。
それは2人を近づけた季節。
冬はお互いの存在を気づかせ――結びつけた。
雪のふる季節。
それは辛くも寂しい季節。
雪が全てを覆い尽くすように大地を覆う。
しんしんと音が鳴りそうなほど降る。
真っ白な雪が・・・
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