俺と雪

『俺と雪』



部屋にとても明るい日差しが差し込む。

「…う…うん」

俺はふと目が覚める。

あれ――いつのまにか眠っていたのか?

俺は半分意識がハッキリしない頭を軽くたたく。
確か雪を抱きしめて、それから・・・
それから・・・

どうしたんだ?

「うん……浩……ちゃん」

「…うん?」

雪が俺の胸の上ですやすやと眠っている
なんだ、雪まで眠ってしまったのか・・・

それより今は何時だ?

俺は首を時計の方に向ける

「おはよー」

「うわっ!?」

俺のすぐ横に真奈の顔があった。
床に座り込んで俺達をのぞき込むような姿勢で・・・

「ま、真奈……いたのか?」

「うん」

「いつからだ?」

「いつって……もうお昼だよ?」

「なぬ?」

昼だと?
そんなバカな・・・

・・・本当だ。

時計の針は12時を10分ほど過ぎている。

「何回ノックしても返事がないから入ってみたら…」

「…寝ていたと」

「うん、だからなんとなーく眺めていたんだ」

「………」

何故そこで眺める?

「おにいちゃんったら寝言で『雪ー! 愛してる!!』なんて叫んでたよ?」

「……マジか?」

「………」

「何故そこで黙る?」

真奈と真面目に会話していると疲れる。

「雪音さんは『離れちゃやだ……ずっと側にいて…』って言ってたよ」

「…そうか」

それは本当だと思う。
雪の心はずっと不安でいっぱいなんだ。

「涙も流してた…」

真奈が辛そうに言う。

「………」

雪の顔を見ると確かに涙を流した跡がうっすらと残っていた。

「ぜったい雪音さんを離したらダメだよっ」

「…ああ」

誰がなんて言おうと俺は雪を離さない。
雪が望む限り俺は側にいる。

「雪音さんを幸せにしてあげるんだよ?」

「わかっている。俺の全てをかけて雪を幸せにする」

「…わぁ〜、おにいちゃんカッコイイ!!」

「雪は俺の全てだからな」

「ええ〜〜?」

そう言うと真奈が非難の声を上げる。

「私は〜?」

「お前も俺にとって大事な存在だ」

「…だってさ、雪音さん」

真奈は雪の方に顔を向ける。

「……こ…浩ちゃん」

「お、起きていたのか?」

「う、うん…」

――ってことは!

「真奈」

「なーに?」

「雪が起きていたことを知っていたな?」

「さぁ〜? なんのことかなぁ〜〜??」

ざーとらしいぞ!
その態度はぜったい嘘だ!

「あ、あのね…」

「…雪」

雪が俺の胸の上で恥ずかしそうにモジモジする。

「それではお邪魔虫はこれで退散しま〜〜す」

「…おいっ」

「ご飯ができているから遅くならないうちに来てね〜」

ガチャ――バタン
それだけ言うと真奈は部屋を出ていった。

「…あ、あのさ」

ええーい、俺はなにを恥ずかしがっているんだ。
俺と雪は婚約したんだぞ?
もう恥ずかしがることなんかないはずだっ。

「………」

雪は無言で俺を見つめる。
俺の顔の位置はわからないはずなのに、雪は光は映さないが純粋に満ちた瞳を向ける。
それは俺がどこにいても見つけるような・・・
そんな強い眼差し。

「………」

「………」

ぐぅ〜
静かな時間の中に2つの音が響いた。
それはお互いからでたお腹の音だった。

「……飯でも食うか?」

「うん」

俺はまず雪をベッドから降ろし、ふらつかないように立たせる。

「……っと」

そして、今度は俺が松葉杖をついて立つ。

「雪、掴まって」

雪に右腕を差し出す。

「うんっ」

雪は俺の腕にしっかりと自分の腕を絡めてくる。
こうすれば俺は雪の目の代わりになれる。
100%じゃないけれど、より近いものになれる。

それは俺が望んだこと――雪もそれを望んだ。

これだったら俺の松葉杖は一本で済む。
左側だけで十分なのだ。
右側は雪がしっかりと支えてくれる。

少し恥ずかしいけれど、俺と雪は支え合っている。
それが実感できる。
その事実が嬉しい。
そう考えると恥ずかしさなんて何処かに行ってしまった。

俺は雪の支え
雪は俺の支え

これからも――そう願う。




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