真奈の浩一悩殺大作戦
『真奈の浩一悩殺大作戦』
「そろそろ服を見に行こうか?」
真奈ちゃんが私に声をかけてくる。
「あ、うん」
「じゃぁ――行こう?」
真奈ちゃんが私の手を掴む。
そしてそのまま行こうとする。
「こ、浩ちゃんは?」
私は何処にいるかわからない浩ちゃんに尋ねる。
浩ちゃんと離れたくない。
浩ちゃんの側にいたいよ。
「あ、そうだね。おにーちゃん」
「ん? なんだ?」
「おにいちゃんも来る?」
「い、いや。俺は男だから行きづらい」
「そう?」
うーん。
話の流れからすると、浩ちゃんは来ないみたい。
ちょっと寂しいよ。
「雪音さん。おにいちゃんは来ないけどいい?」
「…うん」
「雪、俺はずっとここにいるからいつでも戻ってこい」
「…うん」
「真奈、そのときは頼むぞ」
「わかったよ」
浩ちゃん・・・
やっぱり優しい。
私のことを気にしてくれているんだ。
「雪音さん、行くよ?」
「あ、うん」
私は恐る恐る歩く。
なにも見えない――なにもわからない。
浩ちゃんが側にいない。
「雪音さん」
真奈ちゃんがしっかりと私の手を握る。
真奈ちゃんが側にいる。
それだけで安心できる。
浩ちゃんと同じ血を通わせる人。
信じてもいいんだ。
「階段があるからゆっくりね?」
「…うん」
真奈ちゃんは親切に私の足を手で支えてくれる。
これは同姓ならではだと思う。
浩ちゃんは男性だから出来ないんだ。
「んしょ……んしょ」
「はい、階段のぼったよ」
「うん、ありがとう」
「んふふ、雪音さんっ♪」
真奈ちゃんがギュッと腕を絡めてくる。
「こうした方が安全だね」
「…うん、迷惑かけるね」
「そんなことないよ。雪音さんは恩人だから」
恩人か・・・
本当は浩ちゃんの方が私の恩人なんだけど・・・
あの怪我が無かったら浩ちゃんは事故に遭わなかったと思う。
全ては私のせいなのかな?
「だめだよー」
「…え?」
「自分を責めちゃダメ」
「真奈ちゃん?」
私の考えていることがわかるのかな?
口に出した記憶はないけど・・・?
「顔を見たらわかるよ。おにいちゃんもそうだったから…」
「…浩ちゃんも?」
「雪音さんが事故にあったのは自分せいだって毎日責めていたの」
「………」
そんなことないのにね。
全てはわたしのせいなのにね。
浩ちゃんは私のせいで苦しんだんだよね。
「おにいちゃんのためにも雪音さんは元気でいてほしいな」
「うん、そうだね」
私も浩ちゃんも悪くない。
そう考えるのが一番だと思う。
わかっているんだけどね。
納得はしているんだけど――たまにね。
考えちゃうんだ。
「さっ、着いたよ」
「もう?」
「うんっ、結構近くだったから」
真奈ちゃんがいろいろ案内してくれる。
だけど、私にはなにも見えない。
なにもわからない。
「これなんか可愛いよ?」
「…そうなの?」
でも大丈夫。
私は浩ちゃんが喜んでくれる服が着たい。
その服は真奈ちゃんが選んでくれる。
浩ちゃんと同じ血が通う真奈ちゃんなら私よりよく知っている。
仲のいい兄妹だから。
「うーん、おにいちゃんはスカート派だからねぇ」
「やっぱりそうなの?」
「うん。雪音さんはいつもスカートだからおにいちゃんは喜びまくってるよ」
「それじゃぁ、可愛いスカートがいいかな?」
「そうだね。綺麗よりも可愛いのがおにいちゃんの好みだから」
うんうん。
真奈ちゃんはやっぱりよく知ってる。
私よりたくさん知っている。
「これなんか……ちょっとフリルがついてて可愛いよ」
「フリル……可愛すぎないかな?」
「それなら大丈夫! 雪音さんはとっても可愛いから」
「や、やめてよ〜」
私、そんなに可愛くないよ。
自分で言うのもなんだけど胸小さいし。
「あと、上は……素朴なのがいいかな?」
「素朴?」
「うん。王道としては“服の袖が長い”なんてね」
「長い? なんの意味があるの?」
「袖の部分が長いから、手のひらが半分ぐらいしかでないんだよ」
うーん、それだと服の袖を掴まなくちゃいけないね。
長いとズレてくるから・・・
「それだと袖を掴んでしまうよ?」
「そう、それっ! それでおにいちゃんはイチコロ☆」
「……長い服だったらどれでもいけるの?」
「まぁ、そうだけど……それだと選ぶ意味がないね」
うん、私もそう思った。
「服に関してはおにいちゃんはこだわらないからなぁ〜」
「そうだね」
私も上の服のことでなにか言われたことはない。
好みなんてないのかな?
「そうだね、ちょっとした服にリボンでも結んでみようか?」
「リボン?」
「うん、小さくて可愛いリボン」
どんな風になるんだろう?
私がリボン?
似合うかな??
「色は……ピンクなんてどう?」
「ピンクは私のお気に入りの色なの」
「それはよかった。うーん、薄ピンクでいっか?」
「うんっ」
わぁ、真奈ちゃんて凄いね。
私の好みも一発で当てちゃうなんて・・・
「最後は下着だね」
「…え?」
「だって、おにいちゃんに迫られたときのことを考えないとね♪」
「……あ、あの」
恥ずかしいよ。
真奈ちゃんは何処まで知っているのかな?
「困ったことに、おにいちゃんの下着の好みは知らないんだ」
「そ、そうなんだ」
わ、私もよくは知らない。
色ぐらいかな?
「うん……でも、下着は普通でいいかな? おにいちゃんは鈍感だから」
「そ、そうでもないよ」
「あ、そうなんだ」
「うん。可愛いってたくさん褒めてくれたよ」
「おにいちゃんって……ふーん……へぇー」
あっ、私ったらなんてことを言ってるんだろう?
つい本当のことを喋っちゃった。
「だったら、キュートな下着がいいね。それと色は薄ピンクで決定」
「真奈ちゃんにはなんでもお見通しなんだね」
「えっへん! これでも妹だからね」
兄妹って凄いなぁ。
私には兄弟がいないからわかんないや。
「これで全部決まったね」
「うん、そうだね」
「じゃぁ、試着しようか?」
「え? う、うん」
私は真奈ちゃんに試着室まで連れて行かれる。
シャー
カーテンを開ける音。
「雪音さん、どうぞ」
「あ、うん」
ぎゅうぎゅう
「あれ? なんか狭いね?」
「私も入っているからだよ」
「真奈ちゃん?」
「私が手伝ってあげる」
「あ、ありがとう」
そして私は試着を開始する。
「まずは全部脱ごうね」
「うん」
するする
真奈ちゃんは器用に私の服を脱がせていく。
「わぁ、雪音さんの下着可愛い♪」
「…そ、そう?」
「おにいちゃんって、こういうのが好きなんだね?」
「うん。そう言ってたよ」
真奈ちゃんは私の下着も脱がしていく。
「雪音さん、ごめんね」
「ううん。私ひとりじゃできないから」
「ありがと」
そして真奈ちゃんは、さっき選んだ下着を着せてくれる。
「うん、ぴったりだ」
「そう?」
「これでおにいちゃんはビンビンね」
「ま、真奈ちゃん」
真奈ちゃんって恥ずかしいことを簡単に言うね。
聞いているこっちが恥ずかしいよ。
「はい、次は…」
真奈ちゃんは、まずスカートを履かしてくれる。
そして続けて上の服をさっと通してくる。
「素早いね」
「まーね」
キュッキュッと服を整える。
「よし、完璧」
「ありがとう」
「あとはリボンを……と」
しゅるしゅる
真奈ちゃんは器用にリボンを結んでくれる。
見えないがそう思う。
「きゃぁ〜〜可愛すぎるっ」
「えへへっ、そうかな?」
「うんうん。凄いよ」
「浩ちゃん、喜んでくれるかな?」
「もう、喜ぶどころか失神するかも」
それは嬉しいな。
失神されたら困るけど、それくらい可愛いのかな?
「雪音さん、でよっか?」
「え? でも、まだ着替えてないよ?」
「いいからいいから、そのまま買っていこう」
「え、ええ?」
「おにいちゃんを驚かせるんだよ」
「う、うん」
私はそのままで試着室をでる。
『うわぁ〜〜可愛い〜〜』
するとそんな声が聞こえてくる。
「あれ? 誰か有名な人がいるの?」
「ふふ、違うよ。みんな雪音さんを見て言ってるんだよ」
「え!? う、うそ」
「本当だよ」
自分ではわからないけど、可愛いのかな?
浩ちゃんは喜んでくれるかな?
「レジに行くよ?」
「うん」
私は連れられるままレジに向かう。
「すみませーん」
「はーい」
「この人が着ている服のお会計をお願いします」
「はい、わかりました」
あれ? 私は下着も買ったんだよね?
「真奈ちゃん」
「なに?」
「下着も買ったよ」
「あ、そうだったね。すみません」
ふぅ、なんとか真奈ちゃんが言ってくれた。
このままじゃドロボーだもんね。
「えーと、全部で――」
「あ、はい」
私、お金払ってないよね?
「真奈ちゃん」
「うん?」
「お金だけど…」
「いいよ、私がだしておくから」
「わ、悪いよ」
迷惑をかけて、そのうえお金までだしてもらうなんて・・・
「あとでおにいちゃんからもらうから心配ないよ」
「………」
「おにいちゃんからのプレゼントだよ♪」
ごめんね、浩ちゃん。
きっとあとで返すからね。
「ふふふ、それにしても可愛いですね」
「あ、やっぱりそう思いますか?」
「…ん?」
「雪音さんのことだよ。店員さんも褒めているよ」
「わ、私? そうかな?」
自分では見えないからわかんないや。
「とってもお似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
私はペコリと頭を下げる。
ゴンッ
すると何か硬いものにぶつかった。
「……痛い」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫?」
「う、うん……どこで打ったの?」
「レジの機械だよ」
私ったら、なにやっているんだろう?
レジを頭突きしたら痛いにきまってるのにね。
「そちらの方はもしかして…」
「あ、はい。そうなんです」
「あっ、すみません。少し口が出過ぎてしまいました」
「いえ、気にしないでください」
真奈ちゃんが何か言っている。
何を話しているのかな?
「どうしたの?」
「本人もこんなだから、気にしないでくださいね」
「はい、どうもすみません」
「いいんですよ。雪音さん――行こう?」
「うん」
私達はレジを離れる。
「雪音さん」
「うん?」
「少し手を挙げてみてくれる?」
「いいよ」
私は言われた通りに手を挙げる。
すると袖が落ちてしまうので、キュッと掴んで挙げる。
「それだよ」
「それ?」
「袖を掴むのがポイントなんだよ」
「うーん? そうなの」
私は何気なく掴んでいるんだけど・・・
「これで100%完璧だー!」
「そうなんだ」
浩ちゃんは喜んでくれるかな?
やっぱり少し心配だよ。
「ねぇ、真奈ちゃん」
「なに?」
「えっと…」
浩ちゃんのところに戻りたいんだけど・・・
なにか言いづらいな。
「わかった。おにいちゃんのところに戻ろう?」
「うんっ!」
私と真奈ちゃんは浩ちゃんのところへ戻る。
私は期待に心を膨らませながら歩く。
浩ちゃんが喜んでくれることを願って・・・
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