虚ろな雪音
『虚ろな雪音』
3人で俺の家に帰宅。
「雪は帰らないのか?」
「うん……今日も泊まっていい?」
「ああ、俺は構わないが…」
「私もいいよ」
俺達のひとつ返事で雪の宿泊が決まった。
「でもね、雪音さん」
「なに?」
「今日はできないからね」
「??」
真奈のヤツ――まさか!
「ラブラブはダメだよ」
「え? あの……その……そんなつもりじゃ…」
「私がいるから勘弁してね、それに明日は学校だからちゃんと寝ないとね♪」
真奈はからかうように言う。
こ、こいつは・・・
「まーなっ!」
「きゃぁぁぁ〜〜! 旦那さんが怒った〜〜」
「誰が旦那だーー!!」
まったく疲れるヤツだ。
「それより、雪」
「な、なあに?」
「家に電話しておいた方がいいんじゃないか?」
「うん、そうだね」
「じゃぁ、ちょっと待ってろ」
俺は受話器を持ってダイヤルを押す。
ピッピッピ――プルルルル
繋がるのがわかるとすぐに雪に渡す。
「あ、ありがとう」
雪の耳にしっかり受話器をあてる。
「……あ、お母さん?」
「………」
俺は聞いているのも悪いので少し離れることにした。
「おにいちゃん」
台所に行くと真奈が俺に声をかけてきた。
「ん? なんだ?」
「今日はダメだよ」
「うるさいっ!」
別に毎日やっているわけじゃない。
「でさ、雪音さんってどうなの?」
「な、なにがだよ?」
嫌な予感がする。
「よかったの? わるかったの?」
「………」
「あ、わるかったら何回もしないよね?」
「お前なぁ…」
まったく、オヤジのようなヤツだな。
「冗談だよ冗談」
「………はぁ」
頭痛くなってきた。
『浩ちゃ〜〜ん』
真奈とくだらない会話をしていると雪に呼ばれた。
「ああ、すぐ行く」
そう返事をすると、雪の元へ向かう。
コツコツ
「どうした? 終わったのか?」
「ううん、お母さんが浩ちゃんにかわってほしいって」
「そうか、わかった」
俺は雪から受話器を受け取る。
「はい、お電話かわりました」
『昨日はどうもすみません。雪音がお世話になりまして…』
「いえいえ、そんなことないですよ」
『また今日も泊めていただくなんて迷惑ですよね?』
受話器の向こうからすまなそうな声が聞こえた。
「迷惑だなんて……こちらは大歓迎ですよ」
『そうですか? すみません』
「雪がいてくれると真奈も喜びます」
『そう言っていただけると安心します』
本当、雪のお母さんも心配性だよなぁ。
「俺も雪がいてくれると嬉しいですし…」
『うふふ、雪音が聞いたら喜びますよ』
「はい、俺の隣で喜んでいます」
「こ、浩ちゃん…」
雪が困ったように囁く。
『ふふ、それでは雪音をよろしくお願いします』
「はい、わかりました」
プツ・・・ツーツー
切れたのを確認すると受話器をおく。
「よろしく頼まれたぞ?」
「あはは、お母さんも心配性だね」
「お前もな」
雪のお母さんの許しも得たことだし・・・
「今からどうする?」
「えーと、なにか食べたいな」
「そうか、では台所に行くか」
コツコツ
俺と雪は台所に向かった。
「あ、どうしたの? 夕飯はまだだよ?」
「それはわかっている。雪がなにか食べたいとさ」
「そうなの? うーん、なにがいいかな?」
そう言って真奈はなにか作ろうとする。
それを見た俺は止める。
「別に作らなくていい」
「そう?」
「適当にお菓子でも食っておく」
「食べ過ぎちゃダメだよ、もうすぐ夕飯なんだから」
「俺達はガキか?」
俺は不満に思いながらも雪を席に座らす。
「ん、ありがとう」
「だから礼はいらないって」
苦笑しながら俺も席に座る。
「なにがいい? あるものは限られるけど…」
「うーん、タイヤキ!」
「そ、それはさすがに…」
「あるよ」
真奈がすかさず割り込んでくる。
「ほんと? 真奈ちゃん」
「うん、試作段階だけど作ってみたんだ」
「うわぁ〜〜食べてみたい」
「じゃぁ、ちょっと待ってね」
そう言って真奈は冷蔵庫から取り出してレンジで温める。
「………」
お前なら“料理の超人”に出場できるんじゃないか?
俺は日に日にそう思う。
チーン
レンジが高い音を出すと真奈が中の物を取り出す。
「はい、どうぞ」
タイヤキをのせた皿がテーブルの上に置かれる。
「これは…」
見た目からしてタイヤキじゃない。
だが・・・
ぱくっ
一口食べ見ると――タイヤキだ。
「いつもながら不思議だ」
「浩ちゃん?」
「あ、すまない」
俺は雪の手にタイヤキを渡す。
「熱いから気をつけろ」
「うん」
雪には見えないから見た目なんてどうでもいいだろう。
味はタイヤキなんだから問題はない・・・と思う。
「ぱくぱく……おいしい〜」
「えっへん! さっすが“料理の女帝”と言われた真奈ちゃんだね。不可能は無いよ」
真奈は無い胸を張る。
くっくっく――我ながらくだらないな。
「あはは、本当においしいよ」
「ありがとう」
「――で、いつ言われたんだ?」
「さっき私が言ったんだよ」
「………」
これは一本取られたな。
「さて、私は料理の支度に戻るね」
「ああ」
てくてく
真奈はテーブルを離れていった。
「ぱくぱくぱくぱく♪」
雪が嬉しそうにタイヤキを頬張る。
そんな姿を見ていると外で食べていたときのことを思い出す。
「いつもあんこをつけていたな」
「ぱくぱく……うん?」
「いや、雪はタイヤキを食べるといつも口元が汚れていたなと思って」
「つ、ついてる?」
「ふふ、しっかりとな」
俺がそう言うと雪は服の袖で拭おうとする。
「ちょっと待て」
俺は雪の服の袖を掴んで止める。
「うん?」
「せっかく買った服を汚す気か?」
「あ、そうだったね」
「食べ終わったら俺が綺麗にしてやるから」
「うん、ありがとう」
雪は礼を言うと再びタイヤキにかぶりついた。
「ぱくぱくぱくぱく♪」
嬉しそうに食べる雪。
どうしてタイヤキが好きなんだろう?
羽を付けたリュックを背負っている女の子じゃあるまいし・・・
「ぱくぱく……ごっくん」
どうやら食べ終わったようだ。
「おいしかった。全部食べたよ、浩ちゃん」
「ああ、今、綺麗にしてやるからな」
そう言って俺はポケットからハンカチを・・・
「あれ? どこにいった?」
ごそごそ
ポケットを探るがハンカチが見つからない。
「あ、そうか。帰ってきて洗濯機に入れたんだ」
「どうしたの?」
「ああ、ハンカチが無いんだ」
「それは困ったね」
本当に困った。
取りに行くのも少し大変だし、真奈に取ってきてもらうのは悪いし。
「ねぇ、浩ちゃん」
「うん?」
「浩ちゃんがいいのなら……舐めて」
「え?」
「舐め取って……ほしいな」
これはまた大胆な発言だな。
まぁ、俺達は恋人以上に夫婦も同然なんだから恥ずかしがることはないよな?
「わかった。じゃぁ、目を閉じて」
「うん」
雪が素直に目を閉じる。
ぺろぺろ
俺は雪の口元についたあんこを舐め取る。
「ん…んん……くすぐったい」
「こら、動くんじゃない」
「……ん……んふ」
「甘いな」
俺の口の中に甘い味が広がる。
それと他に雪の味も広がる。
「ん……んん……まだ取れないの?」
「うん? いいや、もうとっくに取れたぞ」
「んん……ん……じゃぁ、どうして舐めているの?」
「雪が可愛いから」
そう言って俺は雪の唇に自分の唇を重ねる。
「ん!?……んむ」
「………」
「んん……ん…ん」
俺は舌を突きだして雪の閉じられた歯をつつく。
「ん!……んん」
雪の歯茎をペロペロ舐める。
すると雪の歯が少しずつ開いてくる。
「ん……んん…んむ!?」
俺はその隙間にすかさず舌を滑り込ませる。
そして雪の舌に絡めるように触れる。
「あむ……んむ……んん」
「………」
「んむ……ああむ……」
おずおずと雪も舌を絡めてくる。
それはぎこちないがとても気持ちいい。
ぴちゃぴちゃ
2人の舌を絡める音が響く。
「んん……んむ…」
「………」
「んんむっ……あむ……」
ときおり雪の舌を優しく噛んだり舐めたりする。
「んん……んむ…」
「………」
俺はゆっくりと唇を離す。
すると俺と雪の間につぅーと唾液の橋ができた。
「ん……んふぅ」
「ふぅ………ゆき」
「……うん?」
雪は虚ろな目で答える。
「気持ちよかったか?」
「…うん」
ポ〜とした感じで雪は俺の方を見つめる。
あまりの刺激に眼の焦点が合ってない。
「それはよかったね、おにいちゃん」
「ま、真奈っ!?」
いつの間にいたのだろうか?
真奈が俺達のすぐ側にいる。
「まったく、通りで静かと思ったら…」
「あ………いいじゃないか、俺達恋人同士だし」
「それはそうだけど、ちょっとは謹んでほしいよね」
「わかったよ」
だったら見なきゃいいじゃないか・・・
なんてことは言えないよな。
「雪音さんも雪音さんだよっ」
「………」
「なんでも許しちゃったら……って?」
「………」
雪は虚ろな目のままボーとしている。
「どうしちゃったの?」
「………」
「雪音さん?」
「………う〜ん?」
虚ろな目のまま答える。
「雪音さんって、キスだけでこんなになるの?」
「いや、それはない」
「じゃぁ――どうして?」
「刺激が強かったからだろう」
「なにをしたの?」
なにをって・・・そりゃあ。
「舌を入れただけだ」
「……おにーちゃん」
「そのだな、あまりにも雪が可愛かったからつい…」
「それで?」
「ちょっとイタズラでもと思って…」
雪がこんなになるなんて自分でも驚きだ。
「ふぅ、それってダメじゃない」
「どうしてだ?」
「大好きなおにいちゃんにそんなことをされたら……ねぇ?」
「………」
うーん、よくわからない。
「そういうことは2人っきりの時にやってよね」
「あ、ああ」
「それと雪音さんを元に戻しておいてね。夕飯の準備ができたから」
「…わかった」
真奈はそれだけ言うと再び戻っていった。
「雪!」
「…うん?」
相変わらず雪は虚ろな目のままだ。
「しっかりしろっ」
「……浩ちゃん」
「どうした?」
「…いいよ」
そう言って雪は服を脱ごうとする。
「ちょ、なにやってるんだよ?」
俺は雪の手を掴んで止める。
「うん? どうしたの?」
「おい、しっかりしろ」
「私はいいよ。浩ちゃんが求めてくれるなら」
「違うって! 俺は雪を求めていないっ」
俺がそう言うと雪は瞳をウルウルと潤ませる。
「私じゃ……ダメなの?」
「え、ええ!?」
「浩ちゃんのためならなんでもするよ?」
「そ、それは嬉しいけど…」
こうして雪はなかなか元に戻らなかった。
戻った頃には外は真っ暗だったりする・・・
トップへ戻る 『二者択一』