第1話『義妹』
第1話
『義妹』
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新しい家族ができてから数日。
母親は綺麗で優しくて申し分ないのだが、百合音ちゃんが少しぎこちない。
それはそれで仕方ないことなのだけど、俺としては少し寂しかった。
「おはよう〜」
いつものように朝起きて台所に向かうと、親父と母親はいなかった。
どうやら2人とも仕事が忙しいらしくて、たまにしか家に帰ってこない。
だからその間は俺が百合音ちゃんの面倒をしっかりと見なくちゃならないのだ。
「…ぱくぱく」
ひとり無言で朝食を食べる百合音ちゃん。
俺はその席の向かいに座ると、もう一度挨拶した。
「おはよう、百合音ちゃん」
「…お、おはよう」
それだけ返事をすると、再び朝食を食べ始めた。
ちなみに朝食は誰が作っているかというと、なんと百合音ちゃんなのだ。
幼いながらも家事全般をできるというから驚きだ。
だが、残念ながら歳が歳なので、どれも消化不良気味なのは否めない。
「……はい、朝ご飯」
百合音ちゃんは恐る恐るトーストとコーヒーを差し出す。
俺はそれを受け取ると、満足そうに口に運んだ。
「……!?」
「………(じ〜〜〜〜)」
「…お、美味しいよ」
「………(ニコ)」
あまりにも俺の顔を見つめるので本当のことが言えなかった。
トーストは問題ないのだが、コーヒーがとてつもなく苦かったのだ。
コーヒーと砂糖の配合を間違ったのだろう・・・。
「ずずずず…」
「……(ニコニコ)」
「ずずずず………うう」
百合音ちゃんの笑顔には勝てなかった・・・。
………
登校中。
俺はゆっくりと歩きながら、時折隣を見る。
そこにはいつものようにツインテールをぷらぷらと揺らしながら歩く百合音ちゃんの姿。
「……?」
「なんでもないよ」
視線に気づいたのか、百合音ちゃんがこちらを見上げてきた。
俺がなんでもないと答えると、百合音ちゃんも気にした様子もなく歩きだす。
テクテクテクテク・・・。
最近の日課は百合音ちゃんを小学校に送り届けること。
そしてそれから俺は自分の高校に向かうのだ。
大して気にすることもないのだろうが、偶然にも高校までの通り道に小学校はあるのでついでだ。
それに、こうやって少しでもコミュニケーションをとれば心を開いてくれるかなっと・・・。
「お? 着いたみたいだね」
いろんな事を考えていると、いつの間にか小学校が見えてきた。
俺は百合音ちゃんの頭に手をポンッと軽く置き、クシャッと撫でる。
「無理しないで頑張って。あ、それと…」
俺は肝心な事を思い出し、ポケットから紙切れを取り出す。
そして体を屈めると百合音ちゃんにその紙をしっかりと握らせた。
「これ、俺の携帯電話の番号だから、何かあったらすぐに連絡するんだよ?」
「…うん」
「よし、いい返事だ」
百合音ちゃんの体を180度回転させ、軽く背中を押す。
「…あ」
「いってらっしゃい」
「……いってきま〜す」
こちらに振り返り、ぎこちなく手を振りながら校門をくぐっていく百合音ちゃん。
その背中を見つめながら少し寂しい気持ちが募った。
「義妹……か」
少しでも早く心を開いてほしいものだ。
だけど、焦っても仕方がないのもまた事実。
「ふぅ、気長にいくか…」
それだけ呟くと俺は少し急ぎ足気味で高校に向かった。
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