第4話『兄妹のように…』
第4話
『兄妹のように…』
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月日が経ち、俺は受験を間近に控える受験生になったときのこと。
いつものように飯を食ってから後、自分の部屋に戻って勉強をしていると不意にドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
そう答えると、ガチャッと音がして扉が開かれる。
俺は入り口の方に振り返るとそこには百合音ちゃんの姿があった。
「うん? なにか用かな?」
「うん。夜食を作ってきたの」
百合音ちゃんはそう言って手に持っている食事を見せる。
「ありがと。後で頂くよ」
俺はそれを受け取り、ひとまず机の側に置いた。
事故に遭いそうになった百合音ちゃんを助けて以来、すっかり俺に懐いてくれるようになった。
家にいるのは俺達2人だけなので、百合音ちゃんが俺を頼るのは当然だった。
ただ、それまでは俺のことが少し恐かったらしくて頼れなかったらしい。
でも、今では本当の妹のように慕ってくれるので嬉しい限りである。
「食器は自分で洗っておくから、百合音ちゃんは先に寝てていいよ」
「うん。ゆりねも一緒にいてもいい? うるさくしないから…」
「いいよ。お話の相手は出来ないけど許してね?」
「うん」
そして俺は百合音ちゃんを側に置きながら勉強に戻った。
………
カリカリカリ・・・。
静かな部屋にノートを書き殴る音だけが響く。
俺は百合音ちゃんの存在を忘れ、勉強に没頭していた。
「…ねぇ、お兄ちゃん?」
「……ん? なんだい?」
「お勉強をしているときにゴメンね?」
「いや、気にしてないから言ってごらん」
俺の答えに百合音ちゃんは嬉しそうに微笑み、同時にツインテールが軽く揺れた。
「お兄ちゃんの部屋の本を読んでもいい?」
「別にいいけど……百合音ちゃんに読めるかな〜?」
俺の部屋にはあんまり漫画とか無いからなぁ〜。
趣味のコンピュータ関係の本とか小説が少々・・・ううむ。
「わからないけど読んでみる」
「そう? ならいいけど…」
ふと、夜食のことを思いだした俺は休憩を兼ねて食べることにした。
その間、百合音ちゃんとゆっくり喋ろうかなっと・・・。
「もぐもぐ……、うん、うまい」
「ありがとう〜」
「料理が上手になったね」
「そ、そんなことないよ…」
照れたように否定する百合音ちゃんがこれまた可愛い。
気をよくした俺は調子に乗って誉めまくる。
「いやいや、それに前よりずっと可愛くなったよね」
「………(ぽっ)」
「照れている百合音ちゃんも可愛いよ」
「…お、お兄ちゃん」
あまりにも困り顔をするので誉めるのはやめることにした。
そして俺は夜食に手を伸ばす。
「もぐもぐ…」
「……おいしい?」
「……ごっくん。美味しいよ」
「よかったぁ〜」
「百合音ちゃんが作ってくれるからね?」
「……からかっちゃヤダよ」
「ごめんごめん。でも、本当のことだよ」
「………(ぽっ)」
またまた百合音ちゃんの顔が赤く染まった。
俺はその反応に微笑まずにはいられなかった・・・。
………
「あ、お兄ちゃん?」
「ん? なんだい?」
しばらく静かにしていた百合音ちゃんが再び声をかけてきた。
俺はその声に振り向かず、返事だけで答える。
「あのね、ベッドの下に本があるの」
「ああ、それはね………って!? そ、それは読んじゃダメだよっ!!」
慌てて振り返り、百合音ちゃんの手にある○○本を奪取した。
「…あ」
「こ、これは百合音ちゃんには難しいから違う本を読もうね?」
「うん…? なにか変な服装のお姉さんが写っていたよ?」
「そ、それは……大人の人が読む本だから」
「ふ〜ん、そうなんだぁ」
何とか百合音ちゃんに納得してもらった俺はホッと胸を撫で下ろす。
やばいやばい・・・これからは気をつけないとな。
今ではこの家には百合音ちゃんや母親がいることを憶えておかなければ・・・。
………
夜中の2時をまわったところ。
俺はふと百合音ちゃんの事を思い出し、イスを回転させて振り返る。
「すぅ……すぅ……」
すると、そこには床に寝っ転がっている百合音ちゃんの姿があった。
「ふふ、寝ちゃったか」
俺は体を屈め、百合音ちゃんを抱き上げると自分のベッドにそっと下ろす。
ふぁさっと軽い音を立てながら百合音ちゃんの体がゆっくりと沈んだ。
まだまだ夢の中の百合音ちゃんを確認すると、俺は風邪をひかないように毛布を掛けてあげた。
「おやすみ……チュッ」
可愛い寝顔の百合音ちゃんを見ていると、思わず衝動に駆られ、おでこにキスをしてしまった。
「う…ん……お兄ちゃん…」
「やべ、起こしちゃったか?」
「……すぅ……すぅ…」
「…ほっ」
一安心した俺は百合音ちゃんの頭を優しく撫で、再び勉強に戻った。
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