第4話 私だけ
第4話
『私だけ』


私は浩ちゃんの胸で泣き続けた。
そんな私を浩ちゃんはずっと撫でてくれた。
私の頭を優しく、ゆっくりと・・・

「……もう、いいよ」

私はそっと浩ちゃんから離れる。

「そうか」

「………」

なんだか気まずい。
何を話したらいいのかな?

「雪」

「え?」

「左手を……だして」

「う、うん」

私は浩ちゃんの言う通りに手を差し出す。

「もう一つのプレゼントだ」

「…あっ」

私の薬指に指輪がはめられる。

「こ、これって?」

私は尋ねる。
左手の薬指に指輪――それって・・・

「ああ、婚約指輪だ」

「………」

かぁ〜
私の顔が見る見るうちに赤くなる――それが自分でもわかる。

「あ、あの……私」

「ははは、冗談だよ」

「え? じょ、冗談なの?」

「ああ」

ちょっとガッカリ。
浩ちゃんとならいいかな――なんてね。

「その上、その指輪は安物だからな…」

「値段なんて関係ないよ、私は浩ちゃんの気持ちが嬉しい」

「そうか、ありがとな」

そうだよ。
大切なのは気持ちだよ。

「この指輪……大切にするね」

「ああ、雪の好きにしてくれ」

「うん」

さわぁぁぁぁ〜
秋を感じさせる風が吹く。

「雪、その……すまない」

浩ちゃんが突然そんなことを言い出した。

「さっきは雑誌を買いに行ったのではなく、花束を買いに行ったんだ」

「え?」

「指輪は買っていたのだが……花束を忘れていたんだ」

「…浩ちゃん」

そこまで気を遣わなくていいのに・・・
私は浩ちゃんの気持ちだけで十分だよ。

「だから……それで雪を泣かせてしまったのなら」

「違うよ、私が悪いんだよ」

「雪が?」

そう、私が悪いの。
浩ちゃんは全然悪くないんだよ。
全部、私が勝手に思いこんだのがいけないんだ。

「浩ちゃんが私の誕生日を忘れてるって……勝手にそう思いこんで」

「………」

「そしたら悲しくなっちゃって、涙がこぼれてきて…」

「………」

「でも、浩ちゃんは憶えていてくれて……ぐす」

また涙がこぼれてきちゃった。
浩ちゃんの前で涙は流したくないのに・・・
くすん、止まんないよ。

「雪は泣き虫だな」

そう言って、浩ちゃんは私を優しく抱きしめてくれる。

「うん、うん」

浩ちゃんの胸で私は泣く。

――てへ。
また浩ちゃんの服を濡らしちゃったね。
何度も何度も悪いと思っているんだけど・・・
浩ちゃんの胸で泣けるのは私だけ。

そして、浩ちゃんの服を涙で濡らすのは私だけ。
その事実がなんだか嬉しい。





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