第5話 いつか
第5話
『いつか』


10月中旬。
季節は秋を存分に感じさせる。

「明日は文化祭だね」

いつものように2人で公園にいる。
そして、いつものベンチに座って話す。

「そう……なのか?」

「え? 知らなかったの?」

「いや、俺ってそういうの興味ないからな」

「あはっ、浩ちゃんらしいね」

いつもいつも興味がない。
そう言っているけど、本当は違うんだよね。
いつもしっかり憶えている。
私が喜ぶことは全部・・・

「文化祭というと出し物だな」

「そうだね」

大学に入って初めての文化祭。
どんなのか楽しみだな〜。

「雪のところは何をやるんだ?」

「喫茶店だよ。そういう浩ちゃんは?」

「自慢じゃないが、俺は不参加だ」

「……そう」

そうだよね。
人前にでるのが嫌なんだよね。
浩ちゃんは言わないけど、私にはわかるよ。

「それに――参加したら雪を見に行く時間が減るからな」

「…浩ちゃん」

その言葉だけで十分だよ。
そう言ってくれるだけで少し心が楽になる。

「ほら、喫茶店といったらウェイトレス!」

「…え?」

「雪のウェイトレス姿が見れるのか〜」

「ちょ、ちょっと…」

「楽しみだな」

ひーん、勝手に話が進んでるよ〜。

「ウェイトレスっていっても、エプロン付けるだけだよ?」

「ほう、それは私服の上に付けるのか?」

「うん」

「それはそれで……いいな」

う〜ん、どう良いのかな?
浩ちゃんはそういうのが好きなのかな?

「…だがな」

「え? まだあるの?」

「裸エプロンが一番だな」

「………」

それって、新婚さん名物のあれ?

「あれは男のロマンだ」

「……じゃぁ」

「ん?」

「私が……してあげよっか?」

私ったらなんてことを言ってるんだろう?
でも、浩ちゃんのためなら・・・

「はは、雪の気持ちは嬉しいけど別にいい」

「どうして?」

「それは…」

「……それは?」

「冗談だからだ」

「………」

浩ちゃんは冗談が好きだね。
そうやっていつも私を楽しませてくれる。

「……いじわる」

「ははは」

とんっ
私は浩ちゃんの肩にもたれかかる。

さぁぁぁぁ〜
風が吹く。
秋の風――少し涼しい。

「……くしゅんっ」

「大丈夫か?」

「う、うん」

口ではそう言ったものの、ちょっと寒い。

「まったく………ほら」

浩ちゃんが自分の上着を脱いで私に着せる。

「だ、ダメだよ」

「いいからいいから、雪は寒がりなんだから…」

「…うん」

でも、それは浩ちゃんもだよ。
浩ちゃんは私以上に寒がりなのに・・・

「…ごめんね」

「礼にはおよばないぜ、お嬢さん」

「あははっ」

優しいね。
迷惑ばかりかけている私を側においてくれて・・・
なんにもできない私なのに・・・
浩ちゃんは選んでくれて・・・

私――いいのかな?

側にいていいのかな?
こんな私でもいいのかな?
浩ちゃんは後悔していないかな?

いつか・・・きっと・・・

浩ちゃんの役に立ちたいね。
必要とされる私でいたいね。

私には――浩ちゃんが必要だよ。





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