プロローグ『雨』
プロローグ
『雨』


ザーー!!

雨が降る中で佇む俺。
1人で虚しく傘を差しながら、公園に突っ立っている。
幾度待てども来ない人を待ちながら。
ただ、時が過ぎていく。
雨の音が全てをかき消すように耳に響く。

「綾音……どうしたんだよ?」

なぜ来ないんだ?
また、いつものように寝坊したのか?
それとも雨が降っているから遅れているのか?

ザーー!!

雨がどんどん強くなってくる。
それでも俺は待ち続ける。
自分が好きな人を待ち続ける。

「今日は……来ないのか?」

綾音・・・なにがあったんだ?
急に用事でも出来たのか?
それならそれでもいいんだが・・・

「少し心配だな。一度、家に帰ってみるか…」

ジャリ・・・ジャリ・・・

歩いた後に俺の足跡がつく。
俺は公園の出口に向かって足跡をつけていく。

ザーー!!

雨は弱くならず、強くなる。
差した傘が雨を弾く。
うるさい音を立てながら何度も何度も雨を弾く。
俺はそれを鬱陶しく思いながら、家に向かった。

………

「……ただいま」

俺は玄関に入ると、少し元気がない声をかける。
その声に気づいてか、ドタドタと慌ただしい足音が近づいてきた。

「お、お兄ちゃんっ!」

「ん? どうした?」

慌てたように声をかけてくる妹に、俺は優しく問う。

「さっき電話があってね…」

「ああ、それで?」

俺が言葉を促すと、妹はなにやら考え込んむ。
それを不思議に思いながらも尋ねると少しずつ喋りはじめた。

「――え?」

俺は自分の耳を疑った。
妹の言った言葉が信じられなかった。
いや、信じたくなかった。

「お、お兄ちゃん…」

「う、嘘だろ?」

「………」

妹は小さく首を横に振った。

「お、俺をからかうんじゃない」

「お兄ちゃん…」

「そんなこと……あるわけないだろ?」

そんなことあるわけがない。
これは妹の悪い冗談だ。
だが、妹は俺を哀しそうな瞳で見つめるだけだった。

「そ、そんなこと…」

「お兄ちゃん……本当なの」

「………」

目の前が真っ白になる。
頭がおかしくなりそうだ。
嘘だ、信じたくない。
そんなことあるわけがない。
あいつはそんな奴じゃない・・・
そんな薄情な奴じゃない・・・

「お兄ちゃんっ! ねぇ、お兄ちゃんっ!!」

「………」

そんなこと・・・
嘘だよな?
これは夢だよな?

綾音が・・・死んだ?




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