第3話『悲しき再会』
第3話
『悲しき再会』


「ただいま〜」

俺は重い足を引っ張り、家まで帰ってきた。
毎日が疲れる・・・面白くない。
あの日から毎日が辛い。

「お、おお、お兄ちゃんっ!?」

ドタバタと玄関まで走ってくる砂奈。
俺は何事だと思い尋ねる。

「えっとね、ああーなんて言ったらいいのかなー」

「ふぅ、まず落ち着け」

「お、おお落ち着いてなんかいられないよー!」

ますます混乱する砂奈。
頭を左右に振りながらオロオロする。
俺は内心疲れると思いながらもそれは声に出さず、落ち着かせるように尋ねる。

「砂奈、なにがあったんだ?」

「そ、それが私にもなにがなんだか〜!? こんなことって信じられないよ〜」

そう言ってあたふたする砂奈。
俺にはなにがなんだかサッパリだ。
それに今日は疲れている・・・さっさと飯を食って風呂入って寝たい気分だ。

「おかえり〜〜おにぃたん〜」

可愛い声を上げながら千奈が出迎えてくれる。
俺は声のする方に目を向けると軽く微笑もうとしたが・・・

「……え?」

「おかえり」

千奈の後ろにいる女性。
ど、どういうことだ?
俺は夢を見ているのか?
なぜ・・・なぜお前が・・・?

「おにぃたん?」

「………」

「んふ、元気だった? 誠ちゃん」

そう言って女性はゆっくりと俺に近づいてくる。
今の俺はとてつもなく間抜けな顔をしているのだろう。
開いた口が塞がらない状態。
今の状況を整理できないでいる。

「………」

「あ、あはっ、こんにち――きゃっ」

「綾音っ!」

俺は叫ぶと同時に綾音を抱きしめた。
綾音の独特な笑い方。
それを見た瞬間、確信した。
この女性は綾音だと俺は気づいた。
そしたら俺は抱きしめていた。
懐かしさが胸の奥から込み上げてくる。
涙が止めどなく溢れてくる。

「綾音……綾音……」

「せ、誠ちゃん……会いたかったよ」

綾音の目にもキラリと光るものが見えた。
それは俺と同じもの。
気持ちはお互い同じ。

「俺もだ……お前を忘れた事なんて1日もなかった」

「あは……ぐす……嬉しい」

綾音が俺の背中に手をまわしてくる。
俺はそれが嬉しくて、つい綾音を強く抱きしめてしまう。

「く、苦しいよ〜」

「バカ野郎っ、勝手にいなくなっちまって…」

「ご、ごめんね」

「俺は…俺は……どれだけ悲しかったか…」

お前を失ったと知ったとき、どれだけ自分を呪ったか。
あの日、お前を誘わなければよかったとどれだけ悔やんだことか。
もう、あんな思いはごめんだ。
俺は失いたくない。
もうお前を離したくない。

「絶対……お前を離さない…」

「誠ちゃん…」

「俺を……ひとりにしないでくれ」

「なにを言ってるんだよ、誠ちゃんらしくないよ?」

綾音が優しく俺の頭を撫でてくれる。
綾音の存在を感じる。
だけど、綾音の体温を感じない。
綾音の体は冷たかった。

「お、お前…」

「誠ちゃんには砂奈ちゃんと千奈ちゃんがいるでしょう?」

「………」

「それに、誠ちゃんには涙は似合わないよ〜」

戯けたように綾音が言う。
いつもの俺じゃないと言いたいのだろう。

「ど、どういう意味だよっ?」

「あはっ、そういう意味だよ〜」

「なんだそれ?」

俺の反応に微笑む綾音。
綾音を解放すると、俺は正面からじっと見つめる。

「や、やだ……そんなに見つめられると変な気分になっちゃう」

「ばかっ」

俺はすかさず綾音の頭にチョップをする。
綾音は避難の声を上げながらも嬉しそうだった。

「綾音、どういうことだ?」

「うん? なにが?」

綾音が自分の頭をさすりながら答える。
そんなに強くしたつもりはないのだが・・・

「お前がいる理由だよ」

「………」

千奈はわかっていないだろうが、砂奈はわかっている。
死んだはずのお前がここにいるのは不自然だと。
だから、砂奈は慌てていたんだ。

「えっとね、気づいたらいたの…」

「いたって……どこに?」

「誠ちゃんの家に前に…」

………

綾音の話をまとめるとこうだ。
事故にあった後のことは憶えていないらしい。
記憶にあるのは俺達と同じように長い時が過ぎたということ。
そして、気がついたら俺の家に前にいた。
・・・ということだ。

「綾音はこれからどうするんだ?」

「どうって……どうしたらいいのかな?」

いや、俺に聞かれても困る。
だけど、綾音を外に出すのは無理そうだ。
綾音は死んだことになっているし・・・

「良かったら俺の家に住むか?」

「え? いいの?」

「ああ、お前を勝手に外に出すのは無理だしな」

それに綾音と離れたくないというのが本音だ。
綾音が俺の家にいてくれるといつでも会うことが出来る。
俺はそれを望んでいる。

「…それだけ?」

「え?」

「理由はそれだけ?」

「い、いや…」

俺は口を噤んでしまう。
本当の理由なんか恥ずかしくて言えない。
それに綾音だってわかっているはずだ。

「さ、砂奈もいいよな?」

「へ? あ、うん」

「千奈は……聞くまでもないよな」

「ぅん?」

千奈は甘えるように綾音の足にヒシッとしがみついている。
そんな姿を見ると、千奈は綾音が好きなんだなと知らされる。
生前もそうだった。
千奈は綾音に一番懐いていたと言ってもいいくらいだった。

「誠ちゃん…」

「どうした?」

「私ね、これから自分がどうなるかわからないよ…」

不安そうに綾音が言う。
俺はそんな綾音を元気付けるように明るく言った。

「気にするな。ずっと俺の家にいればいい」

「そ、それって…」

「ば、ばかっ……変な意味で言ったわけではないからな」

「んふふ、照れちゃってか〜わいいっ」

嬉しそうに言いやがって・・・
まぁ、俺だって嬉しいのだが。
綾音の言いたいこともわかる。
俺だって先のことを考えると不安だ。
またお前を失うかもしれない。
でも、今は素直に喜ぼう・・・

悲しい再会に・・・





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