第13話『綾音とアヤネ』
第13話
『綾音とアヤネ』
チュンチュン・・・
朝を告げる鳥の囀り。
そして窓から差し込む眩しい限りの朝日。
今日も天気は晴れのようで気分が清々しい。
綾音が俺の前に現れてからというもの、毎日が楽しく感じる。
しばらく忘れていた感覚。
綾音が生きていたときにはいつも感じていたこと。
「むにゃむにゃ……ぅぅ」
気持ちよさそうに眠る綾音。
起きるにはまだ早いので、俺は体を捻り、綾音の寝顔を眺めることにした。
「すぅ……すぅ……」
こうして見ると綾音は凄く可愛い。
俺の彼女には勿体ないくらい出来た奴だ。
料理はできるし性格もよい。
おまけに可愛いときたもんだ。
ひとつだけ欠点をあげるとすれば、拗ねるとなかなか機嫌を直さないところだ。
だが、それも綾音の魅力を上げることでしかない。
女の子は少しくらい欠点がある方が守りがいがあるというものだ。
「素直じゃないな…」
面と向かってはなんにも俺は言えない。
綾音に何一つ気持ちを伝えていないのだ。
綾音のことは嫌いじゃない、むしろ好きだ。
なのになぜか言えない。
「……ふぅ」
あ〜あ、素直じゃない自分が嫌になる。
綾音に想いを伝えたいのに伝えられない自分がもどかしい。
抱きしめてやりたいのに手が動かない。
今の俺に出来ることと言ったらこれぐらいだ・・・
・・・ちゅっ。
寝ている綾音の額にキスをすること。
本人が起きていると、正直恥ずかしくてなかなかできない。
今までは雰囲気に流されてしてきたけど、素になるとしてやれないのが本音だ。
コンコン・・・ガチャッ
「おにぃたん、あさだよ〜」
いつものように千奈が部屋に入ってくる。
それと今日はもうひとり・・・
「にゃ〜〜♪」
アヤネと名付けた猫。
その子猫がトテトテとベッドのところまで歩いてくる。
「ねこたん、いっちゃだめだよ〜」
「千奈、別にいいよ」
俺はそう言ってベッドから這い出る。
すると子猫はピョンとジャンプしてベッドにあがるとモゾモゾと毛布の中に潜り込んでいった。
「ははは、アヤネは綾音が好きなんだな」
「おにぃたん?」
「さて、飯でも食うか」
俺は素早く着替え、千奈をつれて部屋を出ていった。
………
「お兄ちゃん、おはよう」
「ああ、おはよ〜」
砂奈に挨拶をすると、俺と千奈は並んで席に座る。
千奈はなにが嬉しいのかニコニコと微笑む。
「なにかいいことでもあったのか?」
「うんっ、ねこたんがきたの〜」
そうか、猫が我が家に来たことが嬉しいのか。
やっぱり子供だよな。
子猫一匹でこんなに嬉しそうな顔をするなんて・・・拾ってよかったかな?
「千奈は猫が好きか?」
「だいすき! いぬたんもうさぎたんもすき〜」
「ははっ、そうか」
ようは可愛い動物が好きなんだな。
動物は教育にもいいらしいから、千奈に役立てばいいが・・・
………
「ところでさぁ、あの猫ってどうしたの?」
「んあ?」
俺と千奈の前に朝食を置きながら砂奈が尋ねてくる。
俺は目の前に置かれたコーヒーを一口飲む。
うーん、朝は日本人ならご飯だよな・・・
「昨日、綾音が拾ったんだ」
「そうなんだ。でも、あの猫って捨て猫なの?」
「知らない」
「そうなんだ……って、ええー!?」
耳に劈くような声が響く。
そ、そんなに驚かなくてもいいだろう?
俺だって知らないものは知らないんだからな。
「もしかしたら飼い猫かもしれないの?」
「いや、たぶんそれはないと思うぞ」
「ど、どうして?」
「首輪がなかったからな」
それに拾ったときは結構汚れていたからな。
つれて帰ってきて綾音が洗ったから普通の猫並になったのだ。
そうじゃなけりゃ、俺のベッドになんか入れない。
ましてや綾音と一緒に寝かすことなんかできるかっ。
「そっか〜。じゃぁ、あの猫は家で飼うの?」
「まぁ、一応そのつもりだ」
「わーい! 猫って前から飼ってみたかったんだ〜」
「それはよかったな」
我が家は全員動物好きだから問題ない。
砂奈の答えも当然だと言える。
現に千奈だって嬉しそうに砂奈と一緒に喜んでいる。
俺は朝食をさっと済まし、鞄を取りに部屋に戻った。
・・・ガチャ
「カバン、カバン……っと」
部屋に入った俺は何気なくベッドに近づく。
そこには毛布の中で丸まって寝転けている2人。
いや、一人と一匹か・・・
綾音とアヤネ。
そんな一人と一匹の姿がなんとなく面白い。
綾音と同じ名前を持った子猫の仕草も綾音っぽい。
名前が同じなら仕草も同じ。
「なんだかなぁ…」
俺は頭をポリポリと軽く掻き、部屋を出ていく。
・・・バタン
扉の向こうではまだ夢の中。
毛布の中で丸まって寝ているのだろう。
俺は起こさないように足音を立てずに去った。
一人と一匹はグッスリと夢の中・・・
トップへ戻る 第14話へ