第16話『小さな嫉妬』
第16話
『小さな嫉妬』


誰もいない長閑な時間。

退屈な午後を誠ちゃんの部屋で過ごす私。
そして子猫のアヤネ。
一人と一匹でなにをするわけでもなくベッドに横になる。

「すぴぃ〜」

アヤネは可愛い寝息を立てながらお休みの様子。
その姿を見ているとなんだが羨ましくなってくる。

“今”を生きているアヤネ。
“今”を生きていない綾音。

その差が少し悔しい。
アヤネは砂奈ちゃんからも千奈ちゃんからも可愛がられている。
そして誠ちゃんからも可愛がられている。
誠ちゃんはいつも私をからかったり、いじめたりする。
それは素直じゃないから。
そんな形でしか自分を表現できないからだと思う。
だけど、それでも優しくしてほしい。

アヤネだけでなく、綾音にも優しくしてほしい。

心の中で叫ぶ。
再会したときは凄く嬉しかった。
誠ちゃんが優しかった。
今までの誠ちゃんとは別人と感じてしまうくらい優しかった。
でも、それは誠ちゃん自身気づいていなかったと思う。
死んだはずの私が現れたから、ついしてしまった行動なんだと。

「誠ちゃんの気持ち……わかるよ…」

私を大事にしてくれるのもわかっている。
私を離さないこともわかっている。
誰よりも私を想ってくれることもわかっている。

でも・・・でもね。

本当のことを言うと、誠ちゃんの口から聞きたい。
自分の気持ちを伝えてほしい。

わかる、わかるけど・・・

言ってくれないと寂しい。
誠ちゃんを信じているけど、やっぱり言ってほしい。

「……ぐすっ」

目から一筋の涙が流れる。
それは頬を伝ってベッドに落ちる。
私はそれを拭おうとはせず、自然のまま流した。

「アヤネが羨ましいなぁ…」

呟きながらアヤネの体を優しく撫でる。
気持ちよさそうに眠るアヤネ。

誠ちゃんの優しさをストレートに受け取ることのできるアヤネ。
そして受け取ることのできない綾音。
そんな些細な差に嫉妬する。
なんてことはない、小さな小さな嫉妬。

私の分身のような存在。

私が誠ちゃんから受けとれない優しさをアヤネがもらう。
アヤネが誠ちゃんから受けとれない想いを私がもらう。
なんだか影と光みたいだね。

私が“影”
アヤネが“光”

死んでいる私と生きているアヤネ。
この差は影と光のようだね。
私はどこまでいっても影なのかな?
誠ちゃんからはずっと優しさをもらえないのかな?

もし、そうだったら・・・

アヤネが私の代わりに受け取ってほしいな。
私と同じ名前を持つ子猫。
この子ならそれを受け取る資格がある。
私はこの子ならそれを許せる。
他の女の子だったら少し嫌だけど、この子なら。

私の分身のような子猫なら・・・





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