第18話『俺にできること』
第18話
『俺にできること』


チュンチュン・・・

鳥の囀り、窓から射し込む朝日。
いつもながら変わり映えしないと思いながらも体を起こす。

「ふわぁ〜〜」

欠伸をひとつ。
握り拳を作り、グッと気合いをいれる。
隣には寝息を立てながら幸せそうな顔で眠る綾音。

「なんとか……なるか…」

いや、ならすしかない。
考えたって始まらない。
行動あるのみっ!

「…よしっ」

いつもと一味違う自分。
そう、綾音の為に俺は努力をする。
なにもしてやれないなんて悔しすぎる。

「待っていろ、綾音」

俺は寝息を立てている綾音の頭をポンと軽く撫で、部屋を出ていった。

………

・・・ガラガラ

重い教室のドアを開け、喧騒の中に踏み込む。

「おはようっ、誠一」

「オッス!」

俺にかけられる言葉。
それらに適当に返事をすると、すぐさま自分の席に座る。

「…ふぅ」

一つため息を吐き、考える。

放課後は駄目だよな?
朝は・・・もっと駄目だ。
夜は・・・どうだろう?
いけるかもしれない。
だけど、それだと不法侵入に近い。
バレたら退学になるかもしれない。

それでも・・・やるしかないよな?

そんなことを恐れていたら男が廃る。
手段なんか選んでいる余裕なんてない。

「………なんだかなぁ」

空っぽの頭から出てきた提案なんてそんなもんだ。
リスクは大きいわ、バレたら言い訳できないわ・・・
これしかないのか?
こんな方法しかないのか?

「…しかたねぇ」

どんなに考えても何も思い浮かばない。
仕方がないな。
夜の学校に忍び込む・・・これで決定。

後は、何をするかだ・・・

「勉強……だよな?」

そりゃそうだ。
綾音はそう言ったんだ。
それをしないで何をするっていうんだ?

「…そうだっ! 砂奈にアレを頼んでおこう」

高校と言えばアレだよな。
うんうん、アレがなくては高校は始まらない。
俺の思い込みかもしれないが、高校には付き物だと思うぞ。

帰ったら綾音には秘密で砂奈に頼んでおこう・・・

キーンコーンカーンコーン

そうこうしているうちに始業チャイムが鳴った。
俺は教科書とノートを出すが、内容はやっぱりわからない。
もう、駄目かもしれない。
まったくと言っていいほど、授業についていけないのだ。

「……ふぅ〜」

聞いていてもわからないし、計画のために休息をとっておこう。

………

ガヤガヤ・・・

「……んあ?」

気がつくと、教室は生徒達の喧騒が溢れていた。
どうやら放課後らしい。

「ふわぁ〜〜」

ひとつ欠伸をして体をポキポキと鳴らす。
いたたたた、体がこってしまった。
軽く首を振り、なんとなく窓の外を眺める。
外は冬の季節を現すように、空が茜色に変わろうとしている。

「本当、冬は日が落ちるのが早いよなぁ…」

のんびりしている場合じゃない。
さっさと家に帰って砂奈にアレを頼んでおこう。

そう思い立った俺は、少し急ぎ気味に学校を出た。

………

吹きつける風。
体温を奪うかのような風が俺に吹きつける。
俺は小さく体を震わし、襟首をキッチリとあわせる。

トコトコトコ・・・

長く伸びる影。
寂しくひとつだけ伸びている。

どこまでも・・・遠く・・・

期待に満ちて帰路につく。
腐っていた頃にはなかった心境。

だけど、いつまで続くのだろう。

ふと、そんなことを考える。
綾音はいつまで俺の前にいてくれるのだろう。
これからもずっと・・・?
それとも明日まで・・・?
わからない、俺には何一つわからない。
綾音自身も知らないこと。
綾音はそのことで毎日不安でたまらないだろう。
だが、俺にはなにもしてやれない。
綾音の不安を取り払ってやることもできない。

だが、綾音の望むことはしてやれる。
たとえ無茶でもしてやりたい。
それが本音だ。
だから、今日、俺はあいつの願いをひとつ叶える。

あいつの悲しんだ顔は見たくない。
いつも笑っていてほしい。
怒っていてもいい・・・
拗ねていてもいい・・・
俺に向けてくれるなら。
俺だけにしてくれるなら。

それだけで俺は幸せだから・・・





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