第2話 光
第2話
『光』


「ふぅ」

俺は一つため息をつく。
いつもの日常。
変わらぬ日々。
正直言って、もう疲れた。
終わりにしたいとも思った。
だが、終わらない。
それを決めるのは俺じゃない。
では、一体誰なのだろうか?

「誰なんだろうな…」

自然と言葉がこぼれる。
そして気がつけば、いつもの帰り道を歩いている。

「またか…」

俺は呟いた。
まただ。
また、気がつけば居る。
いつもの場所、いつもの時間に。

「………」

俺は無言で、いつも通る橋にもたれる。
気がつけば、1日が終わり、また1日が始まる。
俺の人生はそんなものだ。
自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなる時がある。

「いや、常に……か」

自嘲するように呟く。
そして、いつも思う。
このいつも通る橋。
この橋はかなり高い場所にある。
遙か下の方に海が見える。
その上、通行人が少ないときている。
まさに自殺の名所にうってつけだと・・・

「人は一度は死ぬんだよな」

俺は橋の手すりの上に立つ。

「………」

別に怖くは無い。
恐怖は微塵も感じない。
でも何故か、安堵を感じる。
この無限の輪から抜け出せるのだ・・・と。

「落ちたら死ねるだろうか?」

俺は考える。
続けることの憂鬱。
終わりが来ることの喜び。

『ちょ、ちょーとまったぁー!!』

そんなことを考えていると、遠くから声が聞こえたが、俺はその声を無視した。
別に俺のことを言っているのではないと思ったからだ。

( タッタッタッタッタッタッ! )

だが、声の主は俺のすぐ側まで来た。

「………」

「はぁ……はぁ……」

俺は息を切らしている人物を見下ろす。
すると、そこには小柄な女がいた。
『女』というよりは『少女』か。

「ちょっと……きみ」

「俺のことか?」

「そう、きみのことよっ」

なんとか落ち着いたようだ。
騒がしい奴だな。

「なんだよ」

「『なんだよ』じゃないわよっ! 死ぬなんて馬鹿なことは止めなさいっ」

「お前には関係無い」

「な、なんですってぇー!」

どうやら俺は、この少女の怒りに触れたようだ。
少女の顔が見る見るうちに赤くなる。

「自殺しようとしている人がいたら、止めるのが当たり前でしょうがー!!」

「そうか?」

「そうよっ!!」

またまた、怒りに触れてしまったようだ。
それにしてもうるさい奴だ。

「とにかく、俺のことは放っておいてくれ」

「なっ、そんなこと出来るわけないでしょう?」

「どうしてだ?」

「きみが死んだら、悲しむ人がいるでしょう?」

「悲しむ人……か」

「いるんでしょっ?」

「まぁ…な」

「だったら止めなさいっ!」

「そう……だな」

俺は手すりから降りた。
そして、少女の顔を見る。

「………」

「な、なによ?」

この少女は、俺には無いものを持っている。
いや、持っているというよりは宿していると言うべきか。

そう・・・

少女の目には『光』が宿っていた。




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