第3話 無
第3話
『無』


「どうして、私の顔をジッと見るの?」

「…いや」

俺は目を逸らした。
この少女は俺が持っていないものを持っている。

『光』

それは、俺に欠けているもの。
だが、俺は少女が持っていないものを持っている。

『無』

それは、人が宿してはいけないもの。
これを知ってしまったら、人は生きていく気持ちをなくしてしまう。

「ちょっと、聞いてる?」

「…ん?」

「きみ、そんなんじゃダメだよ」

「………」

なにが駄目なんだ?
お前には関係無いことだと思うのだが・・・
それは言わないでおこう。

「もう、馬鹿なことをしちゃダメだよ?」

「わかったよ」

「うんうん。素直でよろしい」

「………」

まったく・・・
こんな奴の相手をしていると疲れる。

「じゃあな」

俺はこの場を去ることにした。

「え? あっ、ちょっと」

「なんだよ?」

俺は振りかえらず、返事だけする。

「えっと、その…」

「言いたい事があるなら言え」

「……うー」

何やら唸り声を上げる。
そして、しばらく考えた後、こう言った。

「・・・を、もってね」

「…えっ?」

俺は自分の耳を疑った。
それは、少女の口から意外な言葉が出たからだ。

「えーと。なんとなく、そんな言葉が浮かんだから」

「…なぜ?」

俺は聞き返せずにはいられなかった。

「きみの顔を見てると…、なんとなく」

「………」

俺は驚いた。
自分の心が見透かされているのかと思ったからだ。

この少女は、強い光を持っている。
普通の人は持っていない光を・・・

俺はこのとき、そう思った。




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