第5話 少女
第5話
『少女』
夜中の12時を過ぎた頃。
俺は外に出た。
そして、何気なく歩いていると公園が見えた。
「………」
俺は公園の中に入り、ベンチに座る。
「…ふぅ」
一つため息をつく。
俺は何をやっているのだろうな・・・
ふと、そんなことを考える。
「………」
わからない。
考えるが、いつも答えはでない。
でも・・・
今では、考えることすらなくなってきている。
「…疲れた」
そう、疲れたのだ。
考えることに・・・、生きることに。
もう、終わりにしたい。
全てを・・・
だが、終われない。
俺には何も無いから・・・
「…?」
ふと気がつくと、いつの間にか俺の前に人が立っていた。
そして、そいつは俺に声をかけてきた。
「こんばんわ」
「………」
「もうっ、返事くらいしてよぉ」
俺が返事をしないと、怒りだした。
誰だよ、まったく・・・
「なんだよ」
俺は顔を上げる。
すると、それは昼間会った少女だった。
「お前は…」
「返事はきっちりしなさいって、お母さんに教えられなかったの?」
「………」
「それと、女の子に向かって『お前』はないでしょう?」
「………」
うるさい奴だな。
今は誰かと話したい気分ではない。
「用が無いなら、俺に話し掛けるな」
冷たく言い放つと、案の定、少女は怒った。
「な、なんですってぇー!」
まったく俺って奴は・・・
俺は自分を呪った。
「昼間、自殺をしようとした人を止めて、また見たら、声をかけるのが普通でしょ?」
「………」
怒っているせいか、少女の言葉は変だった。
何が言いたいのかは、わかるんだけどな。
「俺が悪かった」
「えっ? そ、そう…、わかってくれたらいいのよ。うん」
「…で、俺になんの用だ?」
「用はないんだけど…、ただ、見かけたから声をかけたの」
「…そうか」
まぁ、そんなとこだろう。
だが、なぜこんな時間に出歩いているんだ?
「どうして、こんな時間に出歩いている?」
俺は疑問を投げかけた。
「それを言ったら、きみもだよ」
「それはそうだが…」
答えは聞けなかった。
聞いたところで、どうもしないけどな。
「きみは…」
「ん?」
「どうして、あんなことをしたの?」
「………」
どうして・・・か。
どうしてなんだろうな・・・
「さあな」
「さあなって…、自分のことでしょ?」
「………」
「訳あり?」
「………」
「…そう」
俺の無言を肯定と受け取ったのか、これ以上、尋ねてこなかった。
少女なりに気を利かせたんだと思う。
「お前は…」
「うん?」
今度は逆に、俺が尋ねた。
「どうして俺を止めたんだ?」
「どうしてって…、当たり前じゃない」
「当たり前?」
「うん」
「そう……か」
当たり前。
その当たり前が、俺にはない。
「ところでぇ」
「…?」
少女がなにやら怒ったような顔で言い寄ってきた。
「女の子に『お前』はないと思うんだけど」
「それなら俺に『きみ』もないと思うぞ」
「え? だって…」
「お前、年齢は?」
「私? 私は…」
やっぱりな。
俺より2つも年下じゃないか。
「年上の男に『きみ』はないと思うぞ」
「えっ? きみの方が年上?」
「ああ」
「そ、そうなんだぁ。私はてっきり年下かと…」
「お前に言われたくない」
「…うー」
他人が俺たちを見れば、誰だって俺のほうが年上だと思うはず。
この少女、見た目は小学生のようだからな。
「な〜んか、失礼なことを考えてない?」
「そんなことはない」
逆にいえば、この外見で俺より年が2つだけ下って言うほうが怖い話である。
どう見ても小学生。
「また、失礼なことを考えてない?」
「気のせいだ」
「ぶー」
ブーたれたりと、怒ったりと、元気な奴だな。
「…ふ」
「あっ、笑ったぁー!」
「…いや」
「もうっ、なんなのよぉ〜」
「………」
前言撤回、元気過ぎる奴だ。
だが・・・
俺には、こんな少女が羨ましく思えた。
光ることが出来る少女が。
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