第6話 影
第6話
『影』
「さっき聞いたよね」
「ん? なにが?」
「『どうして俺を止めたんだ?』って…」
「ああ」
確かに聞いた。
どうして、そんなことが出来るのかと思ったから。
俺には出来ないことが・・・
「理由があるの」
「………」
「聞いてくれる?」
少女は、真面目な顔で尋ねてきた。
俺は断ることが出来ず、適当に答えた。
「好きにしろ」
「うん。ありがと」
そして、少女はポツリポツリと語り始めた。
自分が人を助けようとした訳を・・・
「お母さんのお願いなの」
少女は俺に背を向け、月の出ている空を見上げる。
「困っている人がいたら助けてあげて、死にそうな人がいたら見捨てないで」
「………」
「お母さん、そう言って死んじゃったの。私にそれだけ言って…」
「………」
こんな光っている少女でも、『影』があったんだな。
俺は少し、誤解をしていたようだ。
「きみはご両親がいるんでしょ?」
「いや、母親だけだ」
「えっ?」
少女が驚きの声をあげる。
意外な答えだったのだろう。
驚く少女を無視して、俺は続けた。
「父親は借金をつくって逃げた。そして、残ったのは心臓の弱い母親と俺だけだ」
「…あ、その」
俺の言葉に、少女は戸惑う。
なぜ俺は、こんなことを喋っているんだ?
自分でも知らないうちに、俺は自分のことを語っていた。
「…お母さんは?」
遠慮気味に少女が尋ねる。
「最近は調子がいい。でも、いつ倒れるか…」
「…そう」
「………」
「きみも…、大変なんだね」
「………」
「でも、なおさら死んじゃダメだよ」
「…?」
死んじゃダメ・・・?
どういう事だ?
「きみが死んだら、お母さんはどうするの?」
「…それは」
俺が死んだら母は・・・
1人になるんだろうな。
心臓の弱い母を残して・・・
「お母さんは悲しむよ。きっと」
「わかってる」
「じゃぁ、どうして死のうとしたの?」
「いや、死ぬ気はなかった」
「…へっ?」
そう、死ぬ気はなかった。
俺には何も無いから・・・、自分から死を招くことは無い。
「俺には何も無いからな」
「何も無い?」
「いや、忘れてくれ」
「う、うん」
俺は何を言っているんだ。
こんな事を話しても仕方が無いのにな。
「お前も大変だな」
「うん、まぁね」
「………」
「お父さんは仕事で夜遅くに帰ってくるから、それまで退屈なの」
「…そうか」
だから、こんな夜遅くに出歩いている訳だ。
理由がわかれば納得だな。
「お母さんが死んでから、お父さんは仕事を沢山するようになったの」
「…それは」
「うん、わかってる。寂しさから逃れる為だって」
「そうか」
光を持つ少女。
だが、その『光』の裏に『影』がある。
この少女が光るのは、『母の死』という影があったから・・・
そして、その影を乗り越え、母の意思を受け継ぐから、強く光るのだと。
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