第7話 涙
第7話
『涙』


「家に1人でいると、寂しくなるの」

「………」

「だから、こうして外によく出るの」

「…そうか」

「そしたら、きみがいたのっ」

元気いっぱいな感じで、俺の方に振り向く。
その顔はとても嬉しそうだった。

「きみに会って、寂しさが吹っ飛んだ気がするよ」

「………」

少女は無理をしていた。
俺にはそれがわかった。
その証拠に少女の目から涙が零れる。

「あっ」

涙に気づき、また俺に背を向ける。

「ご、ごめんね。悲しくないのに…」

少女は涙を拭う。
だが、零れる涙は止まらなかった。

「あ、あれ? どうして…」

「…おい」

俺は見ていられなくなり、声をかけた。

「…ぐすっ、なに?」

俺は、振り向いた少女の顔めがけてハンカチを投げつけた。

「…きゃっ」

ハンカチは見事命中した。

「…ハンカチ?」

きょとんとした顔でハンカチを見つめる。

「それで拭け」

「…乱暴だよぉ」

「………」

「でも、ありがと」

「…ふん」

少女は俺が渡したハンカチで涙を拭った。
そして、しばらくした後、少女が言った。

「優しいね」

「誰が?」

「きーみっ」

「それはない」

俺はキッパリと言った。
自分のことは、自分が一番わかっている。

「そんなことないよ」

「そんなことある」

「じゃぁ、どうしてハンカチを差し出してくれたの?」

「気まぐれだ」

「ふ〜〜ん」

ニヤニヤと笑みを浮かべる少女。
何を考えているんだか・・・

「さて、帰るか」

「えっ? 帰るの?」

俺がそう言うと、少女は寂しそうに尋ねる。

「ああ、母が心配だからな」

「そう……だね」

俯く少女。
気持ちはわからなくもない。
だが、俺は付き合うわけにはいかない。

「じゃあな」

「あっ、ちょっと」

「なんだ?」

「…ハンカチ」

「やるよ」

「えっ? でも…」

「………」

俺は返事も聞かず、この場を去った。

少女はこれからどうするのだろうか?
俺はそんなことを考えた・・・
だけど、結局は他人、考えても仕方が無い。

俺は少女のことを忘れることにした。
しかし、涙を流す少女の姿が、何故か心に残った。




トップへ戻る 第8話へ