第8話 宝物
第8話
『宝物』
いつもの日常。
いつもの場所、いつもの時間。
俺はいた。
「………」
そういえば、この場所で会ったんだよな。
俺は橋の途中で立ち止まり、手すりにもたれる。
「こんにちはっ」
「………」
噂をすればなんとやら。
俺が少女のことを考えると、目の前に現れた。
「返事は?」
「ああ、こんにちは」
「元気ないね」
「ほっとけ」
こいつは、どうしてこんなに光ることができるんだろうな?
俺にはわからない。
光りの無い俺には・・・
「難しい顔して、どうしたの?」
「…いや」
「今日は、飛び降りないんだ」
冗談ぽく少女は言う。
「………」
「…ごめん」
少女は謝った。
俺が無反応だったから、気に障ったと思ったんだろう。
「気にしてない」
俺は一応フォローを入れておく。
「…うん」
少女の答えに元気が無い。
「どうした?」
「なんでもないよっ」
次の瞬間には、いつもの少女に戻っていた。
今のは・・・
「そうか」
「うん。それよりこれ…」
少女は1枚の布を俺に差し出した。
「これは?」
「あのときのハンカチ」
「いらない」
「で、でも…」
「俺はお前にやると言った」
「そうだけど…」
「だから、お前のものだ」
「うー」
少女は唸る。
だが、その顔は嬉しそうだった。
「ほ、ほんとにもらっていいの?」
「ああ」
「ありがとう。大切にするね」
「そんな物を?」
「うん」
「なぜ?」
「なんとなくだよ」
女の考えることはわからん。
俺が男だからか?
「まぁ、好きにしてくれ」
「うんっ」
笑みをこぼす少女。
あの夜、泣いていた少女とは思えないくらい・・・
「強いな」
「え?」
「お前は強いよ」
「そ、そんなことないよ」
少女は俺の言葉に驚く。
そして、頬を赤く染め、俯いてしまった。
「もうっ、からかわないで」
「………」
「や、やだなぁ〜」
「………」
「何か言ってよぉ〜」
「………」
いや、正直なにを言っていいのか・・・
「じゃあな」
「えっ? えっ? 帰っちゃうの?」
「ああ」
「…うー」
寂しそうな顔をする。
どんなに光っていても、少女は少女か・・・
「そんな顔するな」
「………」
「帰りづらくなる」
「…え?」
俺は何を言ってるんだ?
いままで、こんな事を言ったことは無かったはず。
「ごめん…。バイバイ」
「ああ」
俺は背を向け歩きだす。
数歩歩いたところで後ろから声がした。
「これ、宝物にするねっ」
「………」
俺は足を止める。
「………」
「勝手にしろ」
「うんっ!」
元気な返事する。
俺はそれだけを確認すると、少女の元を去った。
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